自動車整備業は、売上が過去最高を記録する一方で、担い手の高齢化が進むという、ねじれた状況にあります。公表されている統計から、その両面を確認していきます。
数字で見る自動車整備業界の現在地
一般社団法人日本自動車整備振興会連合会(日整連)が発行した「自動車整備白書」令和7年度版によると、総整備売上高は6兆6,592億円となり、過去最高を記録しました(前年度比6.4%増)。前年の令和6年度版では、総整備売上高が6兆2,561億円となり18年ぶりに6兆円を超えたと報告されており、2年続けて高い水準となっています。
一方、事業場の数は減少に転じています。同白書によると、全事業場数の合計は92,251事業場で前年度比0.14%減となり、4年ぶりの減少です。うち指定工場(いわゆる民間車検場)は29,810事業場で3年連続の減少となりました。
整備要員数は402,367人(前年度比0.1%増)、うち整備士は333,475人(同0.1%増)です。ほぼ横ばいという水準であり、売上の伸びに人員の増加が追いついていないことがわかります。
規模構成については、国土交通省の資料が日整連の白書を引用して次のように示しています(令和4年6月現在)。従業員数5人以下の認証工場が全体の約6割、10人以下の工場が全体の約8割。従業員数は約54.5万人、整備要員数は約39.9万人、工場数は約9.2万、事業者数は約7.2万です。小規模な工場が業界の裾野を形づくっているという構図が、ここでも確認できます。
平均年齢47.7歳|担い手をめぐる構造
この業界で最も注視されているのが、整備要員の年齢です。「自動車整備白書」令和7年度版によると、整備要員の平均年齢は全体で47.7歳です。業態別では専業が53.0歳、兼業が49.0歳、ディーラーが37.9歳と、大きな開きがあります。
国土交通省の資料は、日整連の白書をもとに、自動車整備士等の平均年齢が一貫して上昇傾向にあり、年平均約0.35歳ずつ上がっていると指摘しています。また、自動車整備士資格の受験者数についても、過去20年においてピークとなった2004年を境に減少傾向にあるとしています。
専業工場の平均年齢が53.0歳という数字は重いものです。町の整備工場を支えてきた世代が、まもなく引退の時期を迎えるということであり、その後を継ぐ人材が十分に育っていないことを示しています。ディーラーとの平均年齢の差は、若手の就職先がディーラーに集中している構造の反映とも読めます。
制度の動き|特定整備と電子制御装置整備
整備の内容そのものも、制度によって定義が変わりました。国土交通省によれば、道路運送車両法施行規則等の一部改正(令和2年2月6日公布)により、令和2年4月から「自動車特定整備事業」の制度が施行されています。
この制度では、従来からの分解整備に加えて、自動ブレーキなどに使用される前方を監視するカメラやレーダーなどの調整や、自動運行装置の整備を「電子制御装置整備」と位置づけ、その整備に必要な事業場(電子制御装置点検整備作業場)、従業員、工具(整備用スキャンツール等)などの要件を定めています。
整備主任者になるには、各地方運輸支局長が行う「電子制御装置整備の整備主任者等資格取得講習」を修了する必要があるとされています(一級小型自動車整備士は受講免除)。
この制度変更が意味するのは、先進安全装備を搭載した車両の整備には、認証と設備と有資格者の三つが必要になったということです。認証を取得していない工場は、扱える車両と作業の範囲が限られていきます。新車に搭載される装備は年々高度化しますから、この差は時間とともに広がります。
認証の区分、要件、経過措置の取扱いは事業場の状況によって異なります。実行にあたっては必ず所管の地方運輸局・運輸支局および専門家にご確認ください。
経営環境の変化|車が壊れにくくなるということ
整備需要の中長期的な構造も変わりつつあります。車両の品質向上により故障が減り、部品の交換周期も長くなりました。電動化が進めば、エンジンオイルや排気系など、これまで定期的な収益源だった作業の一部が減ります。
一方で、増える仕事もあります。先進安全装備のセンサー調整(エーミング)、電子制御系の診断、そして車検・法定点検といった制度に基づく需要です。総整備売上高が過去最高を記録している背景には、こうした作業単価の上昇と、保有車両の高年式化・長期使用があると考えられます。
整理すると、整備工場の経営は次の点で分かれていきます。
- 特定整備の認証を取得し、電子制御装置整備に対応できているか
- スキャンツールやエーミング設備といった投資を行えているか
- 車検・点検の入庫台数を安定的に確保できているか(顧客管理と車検の呼び込み)
- 板金塗装や中古車販売など、併営事業を持っているか
- 若手整備士を採用・育成できているか
事業承継の観点|認証・設備・整備士
帝国データバンクの2025年調査によると、国内企業の後継者不在率は50.1%です。専業整備工場の整備要員の平均年齢が53.0歳という数字を重ねると、この業界の承継が待ったなしの段階にあることがわかります。
整理しておきたい論点は次のとおりです。
- 認証・指定の種別——認証工場か指定工場か、特定整備(電子制御装置整備を含む)の認証を取得しているか。株式譲渡であれば法人が存続するため一般に維持されますが、事業譲渡では譲受側の認証取得が前提となるのが通常です。
- 有資格者——一級・二級・三級の整備士の人数、自動車検査員の在籍(指定工場の場合)、整備主任者の選任状況。経営者ご本人が検査員や整備主任者を兼ねている場合、体制の再構築が交渉の前提になります。
- 設備——リフト、テスター、スキャンツール、エーミング設備、塗装ブースなどの保有状況と購入年。工場の面積とレイアウトも、対応可能な作業を左右します。
- 顧客基盤——車検の入庫台数、管理台数、リピート率、ディーラーや保険会社からの下請の比率。
- 土地・建物——自社所有か賃借か。整備工場は立地が集客に直結するため、不動産の扱いが設計の中心になることもあります。
- 環境関連——廃油・廃タイヤ・廃バッテリーの処理、塗装工程の排気、地下タンクを併設している場合はその管理状況。
認証・指定工場と整備士の確保という論点は「自動車整備業のM&A」、許認可のスキーム別の扱いは「M&Aで許認可はどうなるか」で整理していますので、あわせてご覧ください。
まとめ|認証と整備士がそろっているうちに
自動車整備業界は、売上が過去最高を記録する一方で、事業場数は減少に転じ、整備要員の平均年齢は上がり続けています。売上の水準が高いいまは、事業の価値を評価してもらいやすい局面です。
整備士が在籍し、認証が生きていて、顧客の車検が回っているうちであれば、事業には引き継ぐ価値があります。整備士が退職し、設備投資を見送り続けた工場では、扱える車両が減り、価値の説明が難しくなります。エーミング設備などの投資判断に迷われている段階こそ、選択肢を並べて考える好機です。
当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、自動車整備業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。認証や有資格者の確認を含む初期の整理から、守秘義務を徹底のうえ対応いたします。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。