公衆浴場の数は、5年間ほとんど動いていません。厚生労働省の公表統計によれば、令和6年度末で23,668施設、前年度からわずか5施設の減少です。
ところが内訳を開くと、まったく違う光景が出てきます。銭湯は5年で15.5%減り、それ以外は増えている。総数が動かないのは、減った分を別のものが埋めているからです。本稿ではこの入れ替わりを確認します。
本稿の数値は厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」(令和7年10月21日公表・令和6年度末現在)によります。制度・税務・法務の取り扱いはご状況により異なりますので、実際のご判断にあたっては顧問の専門家にもご確認ください。
総数23,668施設、5年でほぼ横ばい
厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」(令和7年10月21日公表・令和6年度末現在)によれば、公衆浴場の施設数の推移は次のとおりです。
| 年度末 | 公衆浴場 計 | 一般公衆浴場(銭湯) | その他 |
|---|---|---|---|
| 令和2年度 | 23,954 | 3,231 | 20,723 |
| 令和3年度 | 23,780 | 3,120 | 20,660 |
| 令和4年度 | 23,694 | 3,000 | 20,694 |
| 令和5年度 | 23,673 | 2,847 | 20,826 |
| 令和6年度 | 23,668 | 2,730 | 20,938 |
| 5年間の増減 | △286(△1.2%) | △501(△15.5%) | +215(+1.0%) |
出典:厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」(令和7年10月21日公表・令和6年度末現在)より作成
総数は5年で1.2%しか減っていません。ところが一般公衆浴場は3,231から2,730へ、501施設(15.5%)の減少です。令和6年度だけでも117施設(4.1%)減りました。
一方、「その他」は20,723から20,938へと215施設増えています。この区分には、スーパー銭湯、サウナ、健康ランド、温泉施設などが含まれます。
つまり公衆浴場という枠は保たれているが、中身は入れ替わっているということです。
「一般公衆浴場」と「その他」は制度が違う
この2つは、統計上の区分であると同時に、制度上の扱いが違います。
一般公衆浴場(いわゆる銭湯)は、物価統制令に基づき入浴料金の上限が都道府県知事によって定められています。地域の公衆衛生を担う施設として位置づけられているためです。
その他の公衆浴場——スーパー銭湯やサウナ——には、この料金統制がありません。設備やサービスに応じて自由に価格を決められます。
ここに、5年間の数字の差が表れています。価格を上げられない側が減り、上げられる側が増えた。光熱費が上がった期間であることを考えれば、この差は説明がつきます。統計は理由までは示しませんが、同じ「公衆浴場」でも収益構造がまったく違うことは、制度から読み取れます。
もう一点、統計の読み方として注意が要ります。「その他」の20,938施設には、宿泊施設や介護施設に併設された浴場も含まれます。単独で集客する温浴施設だけを取り出した数字ではありません。したがって「銭湯が減ってスーパー銭湯が増えた」と単純に読むこともできません。言えるのは、料金統制のある区分が確実に減っているということまでです。
減少の速度にも幅があります。一般公衆浴場は令和2年度から順に3,231→3,120→3,000→2,847→2,730と、直近2年の減り方(△153、△117)が、それ以前(△111、△120)と比べて特に加速しているわけではありません。一定のペースで、静かに減り続けているという形です。
設備産業としての性質
公衆浴場は、装置産業のなかでも更新負担が重い部類に入ります。ボイラー、配管、ろ過装置、浴槽の防水。いずれも耐用年数が来れば大きな支出になります。
この負担は、承継が検討される理由のひとつになります。設備更新の時期と、経営者の引退の時期が重なったとき、「更新して続けるか、譲るか」という判断が同時に来るためです。
譲り受ける側から見ても、設備の状態は価格の中心論点になります。建物と土地の評価はできても、浴場設備は他の用途に転用しにくいためです。更新直後か、更新直前かで、引き継ぐ側の負担はまったく変わります。
なお、同じ調査によれば旅館業は98,338施設で前年度比5.2%増、うち簡易宿所営業が44,901施設で7.1%増と伸びています。温浴施設を併設する宿泊施設の動きは、こちらの統計に表れます。
承継のときに見られる点
評価の目は次のようなところに向きます。
- 一般公衆浴場か、その他か。料金統制の有無で、収益の伸ばし方が変わります
- 設備の更新履歴と残存年数。ボイラー・配管・ろ過装置を直近いつ更新したか
- 光熱費の水準と契約。この業種では原価の中心です。契約単価の見直し余地があるか
- 源泉の有無と権利。温泉を使っている場合、権利関係の確認が要ります
- 土地・建物の権利。自社所有か借地か。浴場は転用が難しく、土地の評価がそのまま事業の評価にはなりません
- 回数券・会員権の残高。前受金として引き継ぐ債務になります
この分野は、数字の上では横ばいでも、中で二極化が進んでいます。自社がどちらの側にいるかによって、譲渡の場面での見られ方が変わります。
温浴施設の実務は「温浴・サウナ施設のM&A」に、宿泊分野の動きは「ホテル・旅館業界の動向」に整理しています。