フィットネス業界は、この10年で業態の姿が大きく変わりました。プールやスタジオを備えた総合型のクラブが中心だった時代から、24時間営業の小型ジムやパーソナルトレーニング特化型の店舗が広がる時代へ。本稿では、公的機関が公表している数値を確認しながら、この業界の現在地と、事業承継の場面で論点になることを整理します。
運動・スポーツ実施率|52.5%と66.6%の差
フィットネス業界の需要の裾野を測る公的な指標として、スポーツ庁の「スポーツの実施状況等に関する世論調査」があります。令和6年度調査(令和7年3月公表)によると、20歳以上の週1日以上の運動・スポーツ実施率は52.5%でした。前年度から0.5ポイントの増加です。
同じ調査で注目すべきは、週1日以上運動・スポーツを実施したいと思う人の割合、すなわち実施希望率が66.6%であった点です。実施率52.5%との差は14.1ポイント。運動したいと思いながら実際にはできていない層が、成人のおよそ7人に1人存在するということになります。
この14.1ポイントの乖離が、フィットネス事業にとっての市場の余地です。時間がない、場所が遠い、費用が高い、続かない——乖離を生んでいる理由に応えられる業態が支持を集めてきた、というのがこの10年の流れでもあります。
同調査では、勤務先で「運動・スポーツを活用した取組」がなされている場合の就業者の実施率が70.1%と高いことも示されています。法人契約や健康経営を切り口とした需要は、今後も拡大の余地がある領域と考えられます。
統計の空白|業界データの取り方が変わった
フィットネス業界を論じるうえで、注意しておくべき事情があります。経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」は2024年12月分をもって終了し、2025年1月分からは総務省の「サービス産業動態統計調査」に引き継がれました。フィットネスクラブは、この特定サービス産業動態統計調査の対象20業種のひとつでした。
同調査では、フィットネスクラブの売上高・利用者数・会員数・事業所数・従業者数・指導員数が月次で公表されており、業界の動向を追う標準的な材料として使われてきました。調査の終了により、この時系列は2024年12月で区切られています。
したがって、2025年以降のフィットネス業界の会員数や売上高について、従来と同じ形で連続した公的統計を参照することは現時点では困難です。本稿でも、会員数や市場規模の具体的な数値の引用は控えます。出典を示せない数値を、業界の傾向として語るべきではないためです。
その代わりに確かなことは、次の点です。運動をしたいと考えている人の割合(66.6%)が実施率(52.5%)を上回り続けていること。そして、業態の多様化が進んでいることです。この二つは、公表資料と、街の風景の変化の両方から確認できます。
業態の変化|総合クラブから小型ジムへ
フィットネスの業態は、大きく次のように分かれます。プール・スタジオ・浴室を備えた総合型のクラブ、マシンに特化した24時間営業の小型ジム、マンツーマンで指導するパーソナルトレーニングジム、そして特定のプログラム(ヨガ・ピラティス・格闘技系など)に特化したスタジオです。
近年の出店の中心は、小型ジムとパーソナルジムに移っています。理由は経営の構造にあります。総合型のクラブは、プールや浴室の維持に多額の設備投資と光熱費を要し、広い床面積が必要です。これに対して小型ジムは、必要な面積が小さく、スタッフの常駐時間を絞ることができ、初期投資も相対的に軽くなります。
この構造の違いは、事業承継の場面でもそのまま現れます。小型ジムは、店舗単位での譲渡がしやすく、複数店舗を運営する事業者にとっても引き継ぎやすい形をしています。一方、総合型クラブは、建物・設備の状態と、その更新に必要な投資額が交渉の中心論点になります。
また、パーソナルジムは、トレーナー個人の指導力と顧客との関係が事業の核になります。トレーナーが退職すれば会員も離れるという構造であるため、引き継ぐ側は「誰が残るのか」を最も重視します。
経営環境の変化|人件費・光熱費・賃料
フィットネス事業の費用は、人件費・賃料・光熱費が三本柱です。いずれも近年上昇傾向にあり、会費の水準を据え置いたままでは収支が悪化しやすい構造になっています。
人件費については、厚生労働省「一般職業紹介状況」の令和8年7月分で全職業計の有効求人倍率(季節調整値)が1.18倍、正社員有効求人倍率が1.00倍と、労働市場が緩んでいない状況が続いています。インストラクターやトレーナーの採用と定着は、多くの事業者にとって課題です。
光熱費は、とくに浴室やプールを持つ施設で重くのしかかります。24時間営業の小型ジムでも、空調と照明の費用は無視できません。設備の省エネ化は投資判断の対象になりますが、回収期間の見通しが立てにくい場合、承継を控えた経営者ほど判断を先送りしがちです。
賃料については、出店時の契約条件がそのまま収益性を左右します。長期の定期借家契約で有利な条件を確保している店舗は、それ自体が引き継ぐ側にとっての価値になります。逆に、契約更新が近く賃料の引上げが見込まれる店舗は、その点を織り込んだ交渉になります。
事業承継の観点で何が論点になるか
帝国データバンクの2025年の調査では、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。フィットネス事業では、創業者が指導者としての情熱から立ち上げたケースが多く、その情熱を引き継ぐ人材を身近に見つけるのが難しいという事情もあります。
承継を検討される際に整理しておきたいのは、次のような点です。
- 会員数の推移と、在籍会員の平均継続月数(解約率)
- 会費体系と、直近の会費改定の実績
- 会員の来店頻度の分布(いわゆる幽霊会員の比率)
- トレーナー・インストラクターの人数、雇用形態、勤続年数
- 設備の導入時期、リース残高、更新の要否
- 賃貸借契約の残存期間、更新条件、賃料改定条項
- 会員規約の内容と、運営主体の変更に関する定め
価格がどのように決まるのかという全体像は会社売却の相場の記事で解説しています。とりわけ会員基盤の質は、引き継ぐ側が最も重視する情報です。会員数が同じでも、平均継続月数が長く、会費改定を受け入れてもらえている店舗と、入退会の回転が速く会費を上げられない店舗とでは、将来収益の確からしさがまったく違います。この点はフィットネスジムのM&Aの記事で詳しく解説しています。
まとめ|会員が通っているうちに
フィットネス業界の現在地を公的な数値で確認すると、週1日以上の運動・スポーツ実施率は52.5%、実施希望率は66.6%で、14.1ポイントの乖離があります(スポーツ庁 令和6年度調査)。需要の余地は残っている一方、業態は小型化・専門化へと移り、費用の三本柱はいずれも上昇しています。
この局面では、店舗単位・法人単位での再編が進みやすくなります。複数店舗を運営する事業者にとって、既存の会員基盤と立地を引き継ぐことは、新規出店よりも確実性の高い選択肢になりうるからです。
会員が通い、スタッフが在籍しているうちであれば、事業の価値は明確に説明できます。当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、フィットネス事業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。守秘義務を徹底のうえ、初期の整理からご一緒します。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。