惣菜・弁当の製造は、食品製造業のなかでも需要が伸びてきた分野です。共働き世帯の増加、単身世帯の増加、高齢化——生活の変化がそのまま市場の拡大につながってきました。一方で、収益構造は決して楽ではありません。本稿では、業界団体と官公庁の公表資料をもとに、この分野の現在地を整理します。

惣菜・中食市場の現在地|市場規模は11兆円台

市場規模については、一般社団法人日本惣菜協会が毎年公表しています。同協会が2026年4月14日に公表した資料によれば、2025年の惣菜市場規模は11兆7075億円で、前年比3.7%増となりました。前年の2024年は11兆2882億円(前年比2.8%増)で、はじめて11兆円を突破しています。

拡大が続いている一方で、注意しておきたいのは、この伸びの一部が価格の上昇によるものだという点です。原材料費・人件費・物流費の上昇を受けて商品価格の見直しが進んだ結果、金額ベースの市場は拡大しました。数量がどれだけ伸びたかは、金額だけでは分かりません。

製造の側から見ると、惣菜・弁当は食料品製造業に含まれます。総務省・経済産業省「2024年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」では、食料品製造業の事業所数は2万4659事業所、従業者数は112万2868人(2024年6月1日現在)、製造品出荷額等は33兆39億円(2023年)でした。

業態別にみた構造|どこで売られているのか

惣菜がどこで売られているかを見ると、この業界の構造が分かります。

日本惣菜協会の前掲資料によれば、2025年の業態別の市場規模は、コンビニエンスストアが3兆6044億円で構成比30.8%を占め最大でした。惣菜専門店は3兆2020億円(前年比104.2%)、食料品スーパーは前年比104.9%、総合スーパーは同104.7%と、いずれも前年を上回っています。

製造業者の立場でいえば、販路がどの業態に寄っているかで、経営の性格がまったく異なります。コンビニエンスストア向けであれば、日次の発注に応える生産体制と厳格な品質基準が求められ、量は見込めるものの単価と条件の主導権は握りにくい。スーパー向けのインストア加工や地域の専門店であれば、粗利は取りやすい一方、規模の拡大には限界があります。

M&Aの場面では、この販路の性格が評価を大きく左右します。買い手にとっては「どこに、どういう条件で売っているか」が、工場設備そのものより重要になることも珍しくありません。

制度の動き|HACCP制度化と衛生管理の水準

衛生管理については、食品衛生法の改正によりHACCPが制度化されました。厚生労働省の枠組みでは、2020年6月1日に施行され、1年の経過措置を経て2021年6月1日から完全施行となっています。原則としてすべての食品等事業者に、一般衛生管理に加えてHACCPに沿った衛生管理が義務づけられました。

惣菜・弁当は、加熱後に手作業の工程が入り、常温での配送時間もあるため、食中毒リスクの管理が特に重要な分野です。制度対応としての記録に加えて、温度管理の実績データ、二次汚染防止の手順、従業員の健康管理の記録がどこまで残っているかは、買い手が必ず確認する部分です。

また、営業許可制度の見直しにより、施設ごとの許可区分が整理されました。複数の工場・店舗を持つ会社では、どの施設がどの許可を持っているかを一覧にしておくと、検討が速く進みます。

食品衛生法に基づく許可の区分や衛生管理の要求水準は、施設の構成と取り扱う品目により異なります。個別の判断は保健所等の所管窓口および専門家にご確認ください。

経営環境|原材料・人件費・物流費の三重の圧力

惣菜・弁当製造の収益は、原材料費・人件費・物流費という三つの変動費に強く影響されます。

中小企業庁「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査結果」(2025年11月28日公表)によれば、コスト全般の価格転嫁率は53.5%、原材料費55.0%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%でした。日次で価格が決まる商品では、値上げの申し入れそのものが取引条件に影響しかねないという難しさもあります。

2026年1月1日から施行された「中小受託取引適正化法」(旧下請法)では、協議に応じない一方的な代金決定が禁止され、あわせて製造委託に伴う運送委託も対象に加えられました(公正取引委員会・中小企業庁)。配送を自社で担っている会社にとっても、関連する取引ルールが整理された点は押さえておきたいところです。

人手の問題は構造的

惣菜工場は、早朝からの盛り付け作業を中心に、人手に依存する工程が多く残ります。省人化装置の導入は進みつつありますが、多品種少量の惣菜では自動化しにくい工程が多いのが実情です。人員の確保と定着が、そのまま生産能力の上限になります。

事業承継の観点|工場と販路のどちらに価値があるか

帝国データバンクの2025年調査によれば、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。惣菜・弁当製造業の承継で最初に整理したいのは、「自社の価値は工場にあるのか、販路にあるのか、商品にあるのか」という点です。

工場に価値がある場合は、稼働余力と衛生水準が評価されます。販路に価値がある場合は、取引の継続性と条件が問われます。商品に価値がある場合は、レシピと製造基準の再現性が焦点になります。多くの会社はこの三つが混ざっていますが、比重がどこにあるかを言葉にできると、相手選びの方向が定まります。

また、この分野は設備投資の負担が継続的に発生します。冷凍冷蔵設備、包装機、金属検出機、排水設備——いずれも衛生と安全のために欠かせません。「あと何年、この投資を続けるのか」という問いは、承継の検討を始める合図でもあります。

検討の開始時期については「会社売却のタイミング」で考え方を整理しています。

M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと

買い手が確認する主な項目です。

領域整理しておきたいこと
販路販売先別の売上構成と依存度、取引条件、契約書の有無、直近の失注や取引縮小。
衛生HACCPに沿った衛生管理の計画と記録、微生物検査の実績、過去の事故・回収の有無。
許可施設ごとの営業許可の区分と有効期限、届出の状況。
生産ライン別の生産能力と稼働率、廃棄率、多品種対応の柔軟性。
物流配送の自社/委託の別、配送コストの推移、納品時間の条件。
労務人員構成と定着率、就労資格の管理、深夜・早朝勤務の割増賃金。

惣菜・弁当分野は、同業からの引き合いだけでなく、販路を持つ企業や、周辺の食品会社からの関心が向くこともあります。ただし、どのような相手が適するかは事業内容によって異なり、一般化はできません。

M&Aの実務的な進め方は「惣菜・弁当製造業のM&A」で解説しています。当社プラチナパートナーズは、ご相談を承っています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。

本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。統計は調査時点・集計範囲により数値の定義が異なるため、個別の判断にあたっては原典および専門家へのご確認をお願いいたします。

よくあるご質問

A.工場設備そのものより重要になることも珍しくありません。日本惣菜協会が2026年4月14日に公表した資料によれば、2025年の業態別市場規模はコンビニエンスストアが3兆6044億円で構成比30.8%と最大です。コンビニ向けは日次の発注に応える生産体制と厳格な品質基準が求められ、量は見込めるものの単価と条件の主導権は握りにくい面があります。一方、スーパー向けのインストア加工や地域の専門店は粗利を取りやすい一方、規模の拡大には限界があります。買い手にとっては「どこに、どういう条件で売っているか」が評価を左右しますので、販売先別の売上構成と取引条件、契約書の有無を整理してください。
A.工場か、販路か、商品か——この三つのどこに比重があるかを言葉にするところからです。工場に価値がある場合は稼働余力と衛生水準が評価され、販路に価値がある場合は取引の継続性と条件が問われ、商品に価値がある場合はレシピと製造基準の再現性が焦点になります。多くの会社はこの三つが混ざっていますが、比重がどこにあるかを言えると、相手選びの方向が定まります。判断の材料として、ライン別の生産能力と稼働率、廃棄率、多品種対応の柔軟性、販売先別の依存度、そして品目別の粗利を並べてみてください。
A.「あと何年、この投資を続けるのか」という問いは、承継の検討を始める合図でもあります。この分野では冷凍冷蔵設備、包装機、金属検出機、排水設備など、衛生と安全のために欠かせない投資が継続的に発生します。惣菜工場は早朝からの盛り付け作業を中心に人手に依存する工程が多く残り、多品種少量では自動化しにくい工程が多いのが実情です。人員の確保と定着が生産能力の上限になるという構造もあります。更新が必要な設備と概算額、そして必要な人員を一覧にしたうえで、自社で続ける場合と引き継ぐ場合を並べて比べてください。
A.買い手はその先まで見ます。改正食品衛生法により2021年6月1日からHACCPに沿った衛生管理が完全施行となり、原則としてすべての食品等事業者に義務づけられました。惣菜・弁当は加熱後に手作業の工程が入り、常温での配送時間もあるため、食中毒リスクの管理が特に重要な分野です。制度対応としての記録に加えて、温度管理の実績データ、二次汚染防止の手順、従業員の健康管理の記録がどこまで残っているかが確認されます。あわせて微生物検査の実績、過去の事故・回収の有無、施設ごとの営業許可の区分と有効期限も一覧にしておくと、検討が速く進みます。

Free Consultation

惣菜・弁当製造業の承継、販路と原価の整理から。

相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。ご相談に費用はかかりません。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

無料相談を申し込む

Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら