特別養護老人ホーム(制度上の名称は介護老人福祉施設)は、統計が毎年きちんと公表されている分野です。厚生労働省が「介護サービス施設・事業所調査」として、施設数・定員・在所者数・開設主体・従事者数までまとめて公表しています。
本稿では、この公表資料をもとに現在地を確認します。そのうえで、この分野の承継が他の介護サービスと決定的に違う一点を整理します。
本稿の数値は厚生労働省「令和6(2024)年 介護サービス施設・事業所調査の概況」(令和7年12月19日公表・令和6年10月1日現在)によります。制度・税務・法務の取り扱いはご状況により異なりますので、実際のご判断にあたっては顧問の専門家にもご確認ください。
施設数は5年続けて増えている
厚生労働省「令和6(2024)年 介護サービス施設・事業所調査の概況」(令和7年12月19日公表・令和6年10月1日現在)によれば、令和6年10月1日現在の介護老人福祉施設は8,621施設で、前年より73施設(0.9%)増加しています。定員は604,469人で、前年より6,496人(1.1%)の増加です。
5年間の推移は次のとおりです。
| 年(各年10月1日現在) | 介護老人福祉施設 | 介護老人保健施設 | 介護医療院 |
|---|---|---|---|
| 令和2年(2020) | 8,306 | 4,304 | 536 |
| 令和3年(2021) | 8,414 | 4,279 | 617 |
| 令和4年(2022) | 8,494 | 4,273 | 730 |
| 令和5年(2023) | 8,548 | 4,250 | 791 |
| 令和6年(2024) | 8,621 | 4,214 | 917 |
出典:厚生労働省「令和6(2024)年 介護サービス施設・事業所調査の概況」(令和7年12月19日公表・令和6年10月1日現在)より作成
同じ介護保険施設でも動きが分かれています。介護老人保健施設は4,304施設から4,214施設へと5年間で減少し、介護医療院は536施設から917施設へと1.7倍になりました。介護医療院の増加は、令和6年3月に廃止された介護療養型医療施設からの移行を含みます(同資料によれば、介護療養型医療施設は令和2年556施設から令和5年197施設まで減り、令和6年に廃止)。
利用率94.5%が意味すること
同資料によれば、介護老人福祉施設の1施設当たり定員は70.4人、1施設当たり在所者数は66.5人、利用率は94.5%です(前年は70.0人・66.1人・94.4%)。介護老人保健施設は88.2%、介護医療院は91.1%でした。
利用率が9割半ばで安定しているということは、空きを埋めて売上を伸ばす余地がほとんど無いということでもあります。定員が決まっている事業なので、売上の上限は建物と定員で決まります。
この構造は、譲り受ける側の見方に影響します。稼働率を上げて収益を改善する、という筋書きが使えないため、評価の目は人員配置の効率と、加算をどこまで取れているかに向かいます。逆に言えば、譲渡を考える側にとっては、日々の運営で積み上げてきた体制がそのまま評価の対象になります。
開設主体の95.7%が社会福祉法人という事実
ここがこの分野の最大の特徴です。同資料によれば、介護老人福祉施設の開設主体は「社会福祉法人(社会福祉協議会以外)」が95.7%を占めます。残りは市区町村2.5%、広域連合・一部事務組合1.0%、都道府県0.4%などです。
他の介護サービスとは構成がまったく違います。同資料の開設(経営)主体別の構成割合を並べると、次のようになります。
| サービス | 営利法人(会社) | 社会福祉法人 | 医療法人 |
|---|---|---|---|
| 介護老人福祉施設(特養) | ― | 95.7% | ― |
| 訪問介護 | 73.2% | 14.0% | 5.4% |
| 訪問看護ステーション | 66.8% | 4.5% | 18.2% |
| 通所介護 | 55.0% | 34.0% | 7.2% |
| 通所リハビリテーション | 0.0% | 8.5% | 79.2% |
出典:厚生労働省「令和6(2024)年 介護サービス施設・事業所調査の概況」(令和7年12月19日公表・令和6年10月1日現在)より作成
社会福祉法人には株式がありません。持分の定めがない法人なので、株式譲渡によって経営権を移す、という一般的なM&Aの形がそもそも使えません。社会福祉法人どうしの合併や事業譲渡、あるいは理事・評議員の交代による経営の引き継ぎといった方法になり、いずれも所轄庁の認可や届出が関わります。
つまり、「特養を買う・売る」という言い方は、この分野では正確ではありません。同じ高齢者向けの事業でも、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を運営する株式会社であれば通常の株式譲渡が成り立ちます。ご検討の対象がどの法人格でどの事業を持っているかによって、取り得る手順がまったく変わります。具体的な進め方は「有料老人ホーム・サービス付き高齢者住宅のM&A」もあわせてご覧ください。
人材の規模と、そこから読めること
同資料によれば、介護老人福祉施設の介護職員は299,123人、うち介護福祉士が185,188人です。介護老人保健施設の介護職員は124,137人(うち介護福祉士82,397人)でした。
介護福祉士の比率は特養で6割を超えます。有資格者の比率は加算の要件にも関わるため、職員の構成は、そのまま収益の構造に効きます。譲渡・承継の場面で人員名簿と資格の内訳を早い段階で整理しておくと、相手方の検討が速く進みます。
介護分野全体の報酬改定や人材確保の論点は「介護業界の動向」に、事業としての進め方は「介護事業のM&A」に整理しています。