高齢者向けの施設のうち、民間の有料老人ホームは5年で15.7%増え、公的な性格の強い老人福祉施設は159施設減りました。
厚生労働省の公表統計によれば、養護老人ホームは918施設、軽費老人ホームは2,331施設。本稿ではこの分野が縮んでいる実態と、承継の難しさを整理します。
本稿の数値は厚生労働省「令和6(2024)年 社会福祉施設等調査の概況」(令和6年10月1日現在)によります。制度・税務・法務の取り扱いはご状況により異なりますので、実際のご判断にあたっては顧問の専門家にもご確認ください。
老人福祉施設は5年で159減った
厚生労働省「令和6(2024)年 社会福祉施設等調査の概況」(令和6年10月1日現在)によれば、老人福祉施設の推移は次のとおりです。
| 年(各年10月1日現在) | 老人福祉施設 計 | (参考)有料老人ホーム |
|---|---|---|
| 令和2年(2020) | 5,228 | 15,956 |
| 令和3年(2021) | 5,192 | 16,724 |
| 令和4年(2022) | 5,158 | 17,327 |
| 令和5年(2023) | 5,126 | 17,833 |
| 令和6年(2024) | 5,069 | 18,460 |
| 5年間の増減 | △159(△3.0%) | +2,504(+15.7%) |
出典:厚生労働省「令和6(2024)年 社会福祉施設等調査の概況」(令和6年10月1日現在)より作成
老人福祉施設は5年とも減り続けています。有料老人ホームが同じ期間に15.7%増えているのと対照的です。
令和6年10月1日現在の内訳は次のとおりです。
| 施設の種類 | 施設数 | 定員 | 在所者数 |
|---|---|---|---|
| 養護老人ホーム | 918 | 59,812人 | 50,543人 |
| うち一般 | 866 | 56,948人 | 48,124人 |
| うち盲 | 52 | 2,864人 | 2,419人 |
| 軽費老人ホーム | 2,331 | 94,963人 | 86,325人 |
| うちケアハウス | 2,037 | 81,790人 | 74,324人 |
| うちA型 | 187 | 11,026人 | 10,046人 |
| うちB型 | 11 | 492人 | 328人 |
| うち都市型軽費 | 96 | 1,656人 | 1,626人 |
出典:厚生労働省「令和6(2024)年 社会福祉施設等調査の概況」(令和6年10月1日現在)より作成
軽費老人ホームの87.4%がケアハウスです(本稿で算出)。A型・B型は合わせて198施設にとどまります。
在所率に表れる余裕
同資料によれば、老人福祉施設全体の定員は154,775人、在所者数は136,868人で、在所率は89.0%(前年も89.0%)です。
施設種別ごとに定員と在所者数から計算すると、養護老人ホームは84.5%、軽費老人ホームは90.9%となります(本稿で算出)。
養護老人ホームの84.5%は、特別養護老人ホームの94.5%(別調査)、有料老人ホームの87.1%と比べて低い水準です。定員に対して1割5分の空きがあることになります。
ただし養護老人ホームは、他の施設と入所の仕組みが違います。市町村の措置によって入所が決まる施設であり、事業者が営業して入居者を集める性質のものではありません。空きがあることは、事業者側の努力不足を意味しません。
承継が難しい理由
この分野は、高齢者施設のなかでも承継の選択肢が最も限られます。
理由は制度にあります。
- 養護老人ホームは措置施設。入所は市町村が決め、費用も措置費として支払われます。事業者が入居者を募集する仕組みではありません
- 設置主体が限られる。地方公共団体と社会福祉法人が中心で、株式会社が設置することは想定されていません
- 社会福祉法人には株式がない。したがって株式譲渡という一般的な形は使えません。法人の合併や事業の譲渡、理事・評議員の交代といった方法になり、所轄庁の手続が関わります
軽費老人ホーム(ケアハウス)も設置主体は社会福祉法人等が中心です。「施設を買う」という形は、この分野では成り立ちません。
同じ高齢者向けでも、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を運営する株式会社であれば、通常の株式譲渡が成り立ちます。どの制度の施設かによって、取り得る手順がまったく変わります。
それでも相談が起きる場面
制度上の制約があっても、この分野で承継の検討が起きる場面はあります。
- 社会福祉法人どうしの合併。理事の高齢化や後継者の不在を背景に、近隣の法人と一緒になる形です
- 法人が併営する他の事業。同じ社会福祉法人が特別養護老人ホームやデイサービス、保育所を運営していることがあります。法人全体で考える必要があります
- 建物の老朽化と建替え。更新の時期と理事の引退が重なったとき、単独で続けるかどうかの判断が必要になります
当社にご相談いただく場合も、まず法人格と設置主体、そして法人が持つ事業の全体像を確認するところから始めます。施設単位ではなく法人単位で見ないと、取り得る手順が見えないためです。
民間の施設は「有料老人ホーム業界の動向」「サービス付き高齢者向け住宅業界の動向」に、特養は「特別養護老人ホーム業界の動向」に整理しています。
この数字の読み方。厚生労働省の社会福祉施設等調査は施設・事業所を単位に集計したものです。1つの法人が複数を運営していることがあるため、法人の数はこれより少なくなります。また調査日時点の値で、その後の開設・廃止は含みません。承継の検討では、事業所の数ではなく、1つの法人がどの指定をいくつ持っているかをご確認ください。