サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、登録制度のため全棟の所在が公開されています。国土交通省の情報提供システムで、都道府県別の棟数・戸数まで誰でも確認できます。
そのデータを開くと、はっきりした偏りが見えます。大阪府が858棟で、東京都の422棟の2倍。人口規模では東京都が上回るにもかかわらず、です。本稿ではこの偏りが何を意味するのかを整理します。
本稿の数値は国土交通省「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」登録状況(令和8年8月末時点)によります。1棟当たり戸数は本稿で算出したもので、公表値ではありません。制度・税務・法務の取り扱いはご状況により異なりますので、実際のご判断にあたっては顧問の専門家にもご確認ください。
全国8,312棟・290,950戸
国土交通省「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」登録状況(令和8年8月末時点)によれば、令和8年8月末時点の登録は全国で8,312棟、290,950戸です。1棟当たりの戸数は35.0戸となります(本稿で算出)。
登録が多い都道府県は次のとおりです。
| 順位 | 都道府県 | 棟数 | 戸数 | 1棟当たり戸数 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 大阪府 | 858 | 33,606 | 39.2 |
| 2 | 北海道 | 526 | 23,643 | 44.9 |
| 3 | 兵庫県 | 483 | 19,761 | 40.9 |
| 4 | 埼玉県 | 478 | 18,503 | 38.7 |
| 5 | 東京都 | 422 | 18,320 | 43.4 |
| 6 | 千葉県 | 392 | 14,839 | 37.9 |
| 7 | 神奈川県 | 371 | 15,343 | 41.4 |
| 8 | 愛知県 | 332 | 11,949 | 36.0 |
出典:国土交通省「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」登録状況(令和8年8月末時点)より作成
逆に少ないのは佐賀県20棟(527戸)、宮崎県26棟(1,012戸)、高知県37棟(1,186戸)です。最多の大阪府と最少の佐賀県では、棟数で43倍の開きがあります。
なぜ大阪に集中しているのか
公表データは分布を示すだけで、理由までは示しません。推測は避け、制度の作りから言えることを整理します。
サ高住は「住宅」として登録される制度です。特別養護老人ホームのように総量規制の対象ではなく、登録基準(床面積、バリアフリー、安否確認・生活相談サービスの提供など)を満たせば登録できます。介護保険の施設整備計画による数の縛りがない、という点が他の高齢者向け施設と決定的に違います。
したがって、供給量は各地域の事業者の判断と土地の事情で決まります。自治体ごとの補助や指導の方針も影響します。結果として、人口比とは一致しない分布になります。
1棟当たり戸数を見ると、北海道44.9戸、東京都43.4戸と大型の棟が多い一方、全国平均は35.0戸です。同じ「1棟」でも規模に幅があることに注意が要ります。
地域の中でも偏りがあります。近畿では大阪府858棟・兵庫県483棟に対し、奈良県は80棟、滋賀県は109棟。首都圏では埼玉県478棟・千葉県392棟・神奈川県371棟で、東京都の422棟は周辺3県と同水準です。
ここから言えるのは、サ高住の供給は都心に集まる性質のものではないということです。広い床面積とバリアフリーの基準を満たす建物を用意する事業なので、地価の影響を強く受けます。商圏を考えるときに、県全体の数字だけでは足りない理由もここにあります。
「住宅」であって「施設」ではない
承継を考えるうえで、この点の理解が出発点になります。
サ高住が提供を義務づけられているのは安否確認と生活相談です。介護サービスそのものは含まれません。入居者が介護を必要とする場合、外部の訪問介護や通所介護を利用するか、特定施設入居者生活介護の指定を受けた棟であれば内部で提供します。
つまり、サ高住の事業は次のどれかの形を取ります。
- 住宅の賃貸のみ。収入は家賃と管理費、サービス費
- 住宅+併設の介護事業所。同一法人が訪問介護等を併設し、両方から収入を得る
- 住宅+特定施設の指定。介護保険の給付を直接受ける
この違いによって、何を譲渡するのかがまったく変わります。建物と入居者だけなのか、介護事業所の指定も一緒なのか。前者は不動産の取引に近く、後者は介護事業の承継になります。
承継のときに見られる点
評価の目は次のようなところに向きます。
- 入居率。この事業の収益を決める最大の指標です。戸数ではなく埋まっている戸数が収入になります
- 建物の権利。自社所有か、賃借か、サブリースか。オーナーが別にいる形では、賃貸借契約の条件が事業の価値を左右します
- 併設事業所の有無と指定。訪問介護・通所介護・特定施設のいずれを持つか
- 入居者の要介護度の分布。重度化が進んでいる場合、必要な体制が変わります
- 建築年と修繕計画。制度開始が平成23年なので、初期に建った棟は築15年前後です
- 登録の更新。登録は5年ごとの更新制です
- 地域の供給密度。同じ商圏に何棟あるか。全国平均では測れません
都道府県別のデータが公開されているため、商圏の供給状況は誰でも確認できます。譲り受ける側も必ず見ています。自社の入居率がその地域の中でどう位置づくかを説明できるようにしておくと、話が具体的に進みます。
高齢者向け施設の実務は「有料老人ホーム・サービス付き高齢者住宅のM&A」に、介護分野全体の動きは「介護業界の動向」に整理しています。