供給が増えれば、ふつう埋まり方は悪くなります。ところが有料老人ホームでは、逆のことが起きています。
厚生労働省の公表統計によれば、5年間で施設数は15.7%、定員は18.1%増えました。それでも在所率は84.0%から87.1%へ上昇しています。本稿ではこの需給の関係を確認し、承継の観点で何が焦点になるかを整理します。
本稿の数値は厚生労働省「令和6(2024)年 社会福祉施設等調査の概況」(令和6年10月1日現在)によります。5年間の増減率は本稿で算出しました。サービス付き高齢者向け住宅であるものは同調査の「有料老人ホーム」に含まれません。制度・税務・法務の取り扱いはご状況により異なりますので、実際のご判断にあたっては顧問の専門家にもご確認ください。
5年で2,504施設、定員は11万人増えた
厚生労働省「令和6(2024)年 社会福祉施設等調査の概況」(令和6年10月1日現在)によれば、有料老人ホーム(サービス付き高齢者向け住宅であるものを除く)の推移は次のとおりです。
| 年(各年10月1日現在) | 施設数 | 定員 |
|---|---|---|
| 令和2年(2020) | 15,956 | 606,394人 |
| 令和3年(2021) | 16,724 | 635,879人 |
| 令和4年(2022) | 17,327 | 661,490人 |
| 令和5年(2023) | 17,833 | 686,128人 |
| 令和6年(2024) | 18,460 | 716,159人 |
| 5年間の増減 | +2,504(+15.7%) | +109,765人(+18.1%) |
出典:厚生労働省「令和6(2024)年 社会福祉施設等調査の概況」(令和6年10月1日現在)より作成
令和6年だけでも627施設(3.5%)増えました。5年とも増え続けており、減った年はありません。
他の高齢者向け施設と比べると、伸び方の違いがはっきりします。同資料によれば、老人福祉施設(養護老人ホーム・軽費老人ホーム等)は5,228施設から5,069施設へ減少。養護老人ホームは918施設、軽費老人ホームは2,331施設(うちケアハウス2,037施設)です。
公的な性格の強い施設が減り、民間の有料老人ホームが増えている。これが高齢者住まいの5年間です。
それでも在所率が上がっている
ここがこの分野の特徴です。同資料によれば、有料老人ホームの在所者数は591,173人、在所率は87.1%で、前年の84.0%から3.1ポイント上昇しました。
| 定員 | 在所者数 | 在所率(令和6年) | 在所率(令和5年) | |
|---|---|---|---|---|
| 有料老人ホーム | 712,728人 | 591,173人 | 87.1% | 84.0% |
| 老人福祉施設 | 154,775人 | 136,868人 | 89.0% | 89.0% |
| 保育所等 | 2,225,103人 | 1,881,378人 | 84.9% | 85.0% |
| 障害者支援施設等 | 182,975人 | 146,686人 | 91.9% | 92.0% |
| (全施設 総数) | 3,506,823人 | 2,971,644人 | 86.5% | 85.8% |
出典:厚生労働省「令和6(2024)年 社会福祉施設等調査の概況」(令和6年10月1日現在)より作成
定員が1年で3万人増えたにもかかわらず、在所率が3.1ポイント上がった。これは増えた定員以上に入居者が増えたということです。
他の施設種別が横ばい(老人福祉施設89.0%で変わらず、障害者支援施設等は0.1ポイント低下)であるなかで、有料老人ホームだけが3.1ポイントという大きさで動いています。
ただし87.1%という水準は、特別養護老人ホームの94.5%(別調査)には届きません。空きが13%残っているという読み方もできます。
担い手23万人、介護職員14万人
同資料によれば、有料老人ホームの常勤換算従事者数は233,774人で、うち介護職員が142,481人です。
| 職種 | 有料老人ホーム |
|---|---|
| 総数 | 233,774人 |
| 介護職員 | 142,481人 |
| 保健師・助産師・看護師 | 23,064人 |
| 施設長・管理者 | 13,784人 |
| 調理員 | 13,447人 |
| 事務員 | 10,123人 |
| 生活指導・支援員等 | 9,467人 |
出典:厚生労働省「令和6(2024)年 社会福祉施設等調査の概況」(令和6年10月1日現在)より作成
介護職員が従事者の61.0%を占めます(本稿で算出)。看護職員も23,064人在籍しており、医療的な対応が求められる場面が増えていることがうかがえます。
1施設あたりでは、従事者12.7人・定員38.8人という計算になります(本稿で算出)。サービス付き高齢者向け住宅の1棟あたり35.0戸と近い規模です。
承継のときに見られる点
評価の目は次のようなところに向きます。
- 在所率。この事業の収益を決める最大の指標です。全国平均は87.1%。自施設がその上か下かで、話の出発点が変わります
- 介護付きか、住宅型か、健康型か。特定施設入居者生活介護の指定があれば介護保険の給付を直接受けられ、収益構造が変わります
- 建物の権利。自社所有か、賃借か、サブリースか。賃借であれば賃料水準と契約期間が事業の価値を左右します
- 入居一時金の残高。前受金として引き継ぐ債務になります。償却の方法と未償却残高の確認が要ります
- 入居者の要介護度分布。重度化が進むと必要な人員体制が変わります
- 介護職員の確保と定着。従事者の61.0%を占める職種です
- 建築年と修繕計画。5年で15.7%増えた分野なので、新旧の差が大きくなっています
供給が増えているのに埋まっている、という状態は長く続くとは限りません。自施設の在所率が全国平均と比べてどう動いてきたか、直近3年の月別データで説明できるようにしておくと、話が具体的に進みます。
サ高住は「サービス付き高齢者向け住宅業界の動向」に、実務は「有料老人ホーム・サービス付き高齢者住宅のM&A」に整理しています。