「M&Aのご案内です」という電話が週に何度もかかってくる。「御社を買いたい会社がいます」というDMが毎月届く——。そうした営業に、うんざりされている経営者様は少なくありません。断っても別の会社からまたかかってくる、仕事の手を止められて迷惑だ、そもそもどこで自社の情報を知ったのか不気味だ、というお声を、私どもも同業として耳が痛い思いで伺うことがあります。本稿では、M&A仲介会社の一員という立場からあえて逃げずに、営業が集中する背景、注意していただきたい営業の特徴、そして国のガイドラインに基づく「正しい断り方」まで、順を追ってご説明します。

なぜ経営者にM&Aの営業が集中するのか

まず、営業電話やDMが増えている背景から整理します。ひとつはM&A市場そのものの拡大です。レコフデータの調査によれば、2025年のM&A件数は5,000件を超え、2年連続で過去最多を更新しました。帝国データバンクの2025年調査では後継者不在率が50.1%にのぼり、事業承継の受け皿としてM&Aを活用する流れは、社会的にも定着しつつあります。

市場が拡大すれば、参入する支援機関も増えます。M&A仲介業は許認可制ではないため参入障壁が低く、新規参入した会社ほど、譲渡を検討する会社との接点を持つために電話やDMといったアウトバウンド営業に頼りがちです。営業先のリストは、商業登記や信用調査会社のデータ、業界名簿など、公開・市販されている情報から作成されるのが一般的です。「なぜうちの会社を知っているのか」と不気味に感じられるかもしれませんが、多くの場合、特別な情報漏洩があったわけではなく、機械的なリスト営業の一環です。

つまり、営業が来ること自体は「御社が狙われている」わけでも「経営状態を見透かされている」わけでもありません。ただし、営業の「やり方」には見過ごせない問題を含むものがあり、国もルールを設けて対応しています。次にその見分け方をご説明します。

注意したい営業の特徴|ガイドラインが禁じる類型

中小企業庁が定める「中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)」は、M&A支援機関の広告・営業活動に規律を設けています。そこで問題とされている類型を知っておくと、受けた営業を冷静に評価できます。

「買いたい会社がいる」と言いながら、具体的な話が出てこない

「御社をぜひ買収したいという会社がある」と持ちかけながら、面談してみると具体的な相手の名前も条件も出てこず、まずは仲介契約の締結を求められる——という営業手法が、業界の信頼を損ねてきたことは事実です。ガイドラインは、虚偽の内容や誤認を招く表現による広告・営業を禁じています。買い手の存在を示されたときは、「どのような根拠に基づくお話ですか」と確認し、書面での説明を求めてよいのです。

その場での面談や契約など、即時の判断を迫る

「今週中にお返事いただかないと、この話は流れます」といった形で即断を迫る営業も、ガイドラインが問題とする類型です。会社の譲渡は、経営者様の人生でも一度あるかどうかの重い意思決定です。それを電話口の勢いで決めさせようとする相手は、経営者様の利益よりも自社の成約を優先している可能性を疑ってよいでしょう。

根拠を示さず、高すぎる譲渡価格を口頭で示す

「御社なら〇億円で売れます」と、財務資料も見ないうちに高い金額を口にする営業にも注意が必要です。関心を引くための「つかみ」として過大な金額を示し、契約後に現実的な水準へ下げていく——という進め方は、誤認を招く営業にほかなりません。企業価値の評価は、本来、資料に基づく算定と説明があって初めて意味を持ちます。

勧誘であることを告げずに接触してくる

「経営についての情報交換」「アンケート」などの名目で接触し、実際にはM&Aの勧誘だった、というケースです。ガイドラインは、勧誘の目的を告げない営業を不適切なものとして挙げています。目的を偽る相手と、会社の将来を扱う契約を結ぶべきではありません。

営業の停止を求めるのは、経営者の正当な権利です

最もお伝えしたいのはこの点です。中小M&Aガイドライン(第3版)は、顧客が勧誘を望まない意思を示した場合、支援機関は直ちに営業を停止すべきことを定めています。つまり、「今後の連絡は不要です」と明確に伝えることは、単なるお願いではなく、国のガイドラインに裏付けられた意思表示であり、支援機関の側にはそれに従うべき規律があるのです。

あわせて知っておいていただきたいのが、M&A支援機関登録制度です。これは、国(中小企業庁)がガイドラインの遵守を宣言した支援機関を登録・公表する制度で、登録機関はガイドラインに沿った営業活動を行うことを自ら宣言しています。停止を求めたにもかかわらず執拗な営業が続く場合、その事業者がガイドラインの趣旨に反する行動を取っていることになりますから、社内で対応をルール化し、毅然と対応して差し支えありません。

上手な断り方・付き合い方|そのまま使える文例

とはいえ、実際の電話口で理路整然と断るのは意外と難しいものです。ポイントは、曖昧にしないこと。「今は考えていない」「忙しいのでまた今度」といった返答は、「時期を改めれば可能性がある」と受け取られ、再度の連絡を招きます。次のような言い方をおすすめします。

  • 電話の場合:「M&Aの予定はありません。今後のご連絡は不要です。リストからの削除をお願いします」
  • DM・メールの場合:「貴社からのご案内は今後不要です。送付リストからの削除をお願いいたします」と返信または書面で通知する
  • 受付・事務担当の方向け:「M&A関連の営業は、すべてお断りするよう社長から指示されています」と一次対応をルール化する

「停止の意思を明確に伝えたこと」を記録に残しておくと、それでも連絡が続いた場合の判断材料になります。いつ・どの会社から・誰が電話を受け、どう答えたかを簡単にメモしておくだけで十分です。

一方で、すべての営業を門前払いにする必要はありません。将来の選択肢として情報収集をしておきたい場合は、「検討の予定はないが、資料だけ送ってほしい。電話は不要」と条件を付けて受け取る方法もあります。主導権を先方に渡さず、ご自身のペースを守ることが肝心です。

本当に検討したくなったときの動き方

営業を断ることと、M&Aという選択肢を捨てることは、まったく別の話です。後継者不在や事業の将来性を考え、いつか譲渡を検討したいとお考えなら、営業電話に応じる形ではなく、ご自身のペースで動かれることをおすすめします。

  • 複数の支援機関を比較する——ガイドラインもセカンドオピニオンの取得を認めており、1社の話だけで決める必要はありません
  • 手数料体系を契約前に書面で確認する——算定基準・支払時期・最低報酬額まで明示できない相手は避ける
  • 専任条項・テール条項など契約内容を確認する——詳しくは「専任契約とテール条項|M&A仲介契約を結ぶ前に確認すべきこと」をご覧ください
  • M&A支援機関登録制度への登録や、ガイドライン遵守宣言の公開状況を確認する

仲介会社の比較の視点は「M&A仲介会社の選び方|失敗しない7つのチェックポイント」で詳しく整理しています。受け身で選ぶのではなく、ご自身の基準で選ぶ。それが、営業に振り回されない最善の方法です。

当社の姿勢|ご意向を尊重することをお約束します

最後に、当社の立場を申し上げます。株式会社プラチナパートナーズは、中小M&Aガイドラインの遵守を宣言し、全42項目の遵守事項を遵守宣言のページで公開しています。営業活動においても、勧誘を望まないという意思を示された方へ重ねてご連絡を差し上げることはいたしません。ガイドラインに定められた規律である以前に、会社の譲渡という重い意思決定は、経営者様ご自身のタイミングで始まるべきものだと考えているからです。

ですから、この記事を読んで営業への対処が整理できたなら、それで十分です。そのうえで、いつかご自身のタイミングで事業承継やM&Aを考えたくなったとき、比較検討の一社として当社を思い出していただけたら、それに勝る喜びはありません。ご相談はいつでも無料で、ご契約やご決断を急がせることはありません。

よくあるご質問

A.できます。中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)は、顧客が勧誘の停止を求める意思を示した場合、支援機関は直ちに営業を停止すべきことを定めています。「今後の連絡は不要です」と明確に伝えることが、最も確実な対処法です。
A.慎重に受け止めることをおすすめします。具体的な相手の存在を確認できないまま面談や契約を促す営業は少なくなく、中小M&Aガイドラインも虚偽や誤認を招く表現による営業を禁じています。関心がある場合も、根拠の説明を書面で求め、その場では判断しないことが大切です。
A.不利になることはありません。M&Aは経営者様ご自身のタイミングで、複数の支援機関を比較しながら検討するのが本来の姿であり、中小M&Aガイドラインもセカンドオピニオンの取得を認めています。断ったことを理由に検討の機会が失われることはありませんので、ご安心ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら