成功報酬の話ばかりに目が向きますが、それとは別に実費を請求される場合があります。金額は大きくないことが多いものの、契約書に書いてあるかどうかで扱いが変わります。確認すべき点を整理します。
実費として請求され得るもの
仲介契約に「実費は別途」と書かれている場合、次のようなものが対象になり得ます。
交通費・宿泊費。遠方の買い手候補を訪問する、現地調査に同行する、といった場面で発生します。
郵送費・通信費。契約書の郵送、資料の送付。
証明書の取得費用。登記事項証明書、印鑑証明書、固定資産評価証明書など。
翻訳費用。海外の買い手が絡む場合です。
いずれも少額ですが、案件が長引けば積み上がります。
契約書のどこを見るか
仲介契約(アドバイザリー契約)の費用条項を見てください。確認するのは3点です。
① 実費が別途かどうか。「報酬に含む」と書いてあれば、追加の請求はありません。
② 事前承諾が要るか。「一定額を超える場合は依頼者の事前承諾を得る」という定めがあると安心です。金額の基準が書かれているかを見てください。
③ 不成立の場合どうなるか。案件がまとまらなかった場合でも実費は請求される、という設計が一般的です。
当社の場合
当社の考え方を明記しておきます。当社では相談料・着手金・月額報酬をいただいておりません。
お客様にご負担いただくのは、基本合意時の中間金(成功報酬額の10%)と、成約時の成功報酬です。中間金は成功報酬から全額差し引きますが、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。
詳細は料金体系のページで公開しています。実費の扱いについても、契約前に書面でご説明します。
金額が読めない項目に注意する
実費そのものより問題になりやすいのが、金額の上限が決まっていないことです。
「実費は依頼者負担」とだけ書かれていると、何にいくらかかるのかが事前に分かりません。遠方への出張が重なれば、数十万円になることもあり得ます。
対応としては、上限額を契約書に入れてもらうか、一定額を超える支出は事前承諾制にしてもらうことです。どちらも珍しい要求ではありません。断られる場合は、その理由を聞いてください。
誰の分の費用か
意外に整理されていないのが、誰が動いた分の費用かです。
仲介の場合、担当者は売り手と買い手の両方のために動きます。買い手候補を訪問した交通費は、売り手だけが負担すべきものでしょうか。
実務では、仲介の場合は双方で按分する、あるいはそれぞれが自分の案件のために要した分を負担するという整理をします。
ここが曖昧な契約書は、請求の段階で揉めます。締結前に確認してください。
案件が長引いたときに効いてくる
実費が問題になるのは、案件が想定より長引いたときです。
買い手候補を10社当たって決まらず、さらに10社当たる。その間、面談のたびに交通費が発生します。半年で終わる想定が1年半になれば、実費も3倍です。
月額報酬がある会社では、この期間の長さが直接コストになります。着手金・月額報酬が無い体系でも、実費が別途なら同じ構造が小さく働きます。
したがって、確認すべきは金額そのものより「期間が延びたときにどうなるか」です。契約の有効期間、更新の条件、その間の費用。この3つをセットで見てください。
領収書の扱い
実務的な話をします。実費を請求されたら、明細と領収書の写しを求めてください。これは失礼な要求ではなく、経理処理のために必要です。
会社の経費として計上する以上、何に使ったのかが分かる資料が要ります。「実費一式 ◯◯円」という請求書だけでは、税務上の説明が難しくなります。
明細を出せない会社は、そもそも管理ができていません。これも判断材料の一つになります。
士業への費用とは別
混同されやすい点です。仲介会社への実費と、弁護士・税理士・司法書士への報酬は別物です。
最終契約書のレビューを弁護士に依頼すれば、その費用は直接その弁護士へ支払います。株式の名義書換や役員変更の登記を司法書士に頼めば、その報酬と登録免許税がかかります。
これらは仲介の報酬に含まれないのが通常です。「専門家費用は別途」という前提で、総額を把握してください。費用の総額で比べるも併せてご覧ください。
総額で見る習慣を持つ
まとめます。実費は金額としては小さいことが多いのですが、費用の全体像を把握する練習として見る価値があります。
成功報酬がいくらか、中間金はいつ発生して返金があるのか、実費は別途か、専門家費用はいくら見込むか。この4つを紙に書き出せば、総額が見えます。
見積もりの段階で「だいたい◯千万円」としか説明されない場合、内訳を書面で出してもらってください。中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月)も、手数料の体系と算定基準を明確に説明することを支援機関に求めています。