「費用をもう少し抑えられないか」——当然のお気持ちです。ただ、率直に申し上げると、効果がある方法と、ほとんど効果がない方法がはっきり分かれます。労力をかけても総額が数万円しか動かない一方で、ほとんど手間をかけずに数百万円が変わることもあります。本稿では、どこに手を入れると実際に総額が動くのかを、優先度をつけて整理します。手数料交渉そのものは「M&A仲介手数料は交渉できるのか」もご覧ください。
まず、費用の全体像を把握する
抑える方法を考える前に、何にいくらかかるのかを整理します。M&Aで売り手側に発生する費用は、おおむね次のとおりです。
| 費目 | 性質 | 動かせる余地 |
|---|---|---|
| 仲介手数料 | 取引規模で決まる。最低額の定めあり | 小さい |
| 弁護士費用 | 契約書の作成・レビュー | 中程度(範囲の設定次第) |
| 税理士費用 | 税務の設計、申告 | 小さい(削るべきでない) |
| 司法書士費用・登記費用 | 名義書換、役員変更登記など | 小さい |
| 資料整備の費用 | 株主名簿、議事録、契約書の整理 | 中程度(前倒しで減る) |
| 税金 | 譲渡益課税ほか | 大きい(設計次第で変わる) |
この表から分かることは二つあります。第一に、金額として最も大きく動くのは税金だということ。第二に、仲介手数料は最も動かしにくいということです。
にもかかわらず、多くの方は手数料の交渉に労力を向けられます。優先順位としては、逆のほうが合理的です。
効きにくいもの|手数料の値引き交渉
率直に申し上げます。仲介手数料の大幅な値引きに応じられることは、多くありません。
理由は費用構造にあります。M&A一件に要する工程は、譲渡価格が半分になっても半分にはなりません。企業概要書の作成、候補先への打診、交渉の中継、デューデリジェンスの調整——どれも規模に比例しない作業です。加えて、成約に至らなかった案件の費用も、成功報酬に織り込まれています。
最低手数料が設けられているのも同じ理由です。当社の最低手数料は2,000万円(税別)ですが、これは案件一件あたりに必要な工数とコストから設定されている金額です。詳しくは「最低手数料はなぜあるのか」をご覧ください。
ただし、交渉すべきでないという意味ではありません。金額そのものより、契約条件——専任の期間、テール条項の範囲、中途解約の可否、実費の扱い——のほうが交渉の余地があり、しかも結果への影響が大きいことがあります。値引きより条件、というのが実務的な考え方です。
効くもの①|準備を前倒しにする
実際に総額を動かすのは、準備の前倒しです。地味ですが、効果は確実にあります。
デューデリジェンスで問題が見つかると、追加の調査が必要になり、専門家の稼働が増えます。場合によっては価格の減額につながります。その問題の多くは、事前に整理しておけるものです。
- 株主名簿と名義株の整理——誰が株主かを確定させておく
- 議事録・押印書類の整備——過去の決議が書面で残っているか
- 契約書の整理——主要取引先、賃貸借、リースの契約書を揃える
- 労務の点検——未払残業、社会保険の加入状況、就業規則
- 許認可の確認——有効期限、承継の可否
- 役員貸付金・借入金の整理——会社と個人の資金の混在を解消する
これらは、譲渡を検討し始めた段階から着手できます。早く始めるほど、自社の人手で対応できる範囲が広がり、外部への依頼が減ります。交渉が始まってから慌てて整理すると、専門家に依頼せざるを得なくなり、費用も時間もかかります。
関連する論点は「社内規程・契約書が未整備の会社」「議事録・押印書類が残っていない会社」で整理しています。
効くもの②|税務の設計を早く始める
金額として最も大きく動くのは税金です。株式譲渡益への課税は20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)ですので、譲渡益が3億円なら税額は6,000万円を超えます。
この領域には、検討すべき論点がいくつもあります。役員退職金との組み合わせ、譲渡の時期、相続で取得した株式の取得費加算の特例、法人株主と個人株主の違いなど、設計によって手取りが変わり得る要素があります。
また、ミニマムタックスは譲渡益が大きい場合に影響します。2025年分から3.3億円控除・22.5%、2027年分からは1.65億円控除・30%として強化されます。2026年12月31日までの譲渡契約であれば現行制度が適用されますので、時期そのものが検討材料になり得ます。
重要なのは、これらの検討は早く始めないと選択肢が残らないという点です。最終契約の直前になってから相談しても、できることは限られます。譲渡を考え始めた段階で顧問税理士に相談してください。具体的な税額と適用の可否は、必ず税理士にご確認ください。
効くもの③|依頼の範囲を明確にする
専門家費用は、作業量に応じて決まることが多い費目です。したがって、範囲を明確にすることで費用は動きます。
- 弁護士への依頼範囲——契約書の作成からか、レビューのみか。交渉への同席は含むか
- 見積もりと上限——時間制の場合、想定される総額と上限の有無を確認する
- DDの対象範囲——買い手側が依頼するものですが、範囲が広がれば期間も延びます。論点を絞る協議は可能です
- 資料の提供方法——整理された形で出せば、専門家の稼働は減ります
とくに最後の項目は重要です。散らかった資料を渡せば、整理する時間そのものが費用になります。同じ内容でも、揃えて出すか、都度探して出すかで、かかる時間はまったく違います。
なお、税理士費用を削ることはお勧めしません。税務の検討が不十分だと、数百万円の費用を惜しんで数千万円の税負担を招くことになりかねません。ここは投じるべき費用です。
優先順位をつける
ここまでを整理すると、優先順位は次のようになります。
- 優先度・高——税務の設計を早く始める(手取りへの影響が最も大きい)
- 優先度・高——準備を前倒しにする(DDでの指摘と追加費用を減らす)
- 優先度・中——専門家への依頼範囲を明確にする
- 優先度・中——契約条件を交渉する(専任期間、テール、解約、実費)
- 優先度・低——手数料の金額そのものを値引き交渉する
そして、費用を抑えることと並んで——あるいはそれ以上に——重要なことがあります。成約条件を良くすることです。譲渡価格が数千万円変われば、手数料の差は相対的に小さくなります。雇用条件や表明保証の範囲も、金額に換算すれば無視できません。
したがって私どもがお勧めしたいのは、「費用を減らす」ではなく「手取りを最大化する」という発想です。費用の削減はその一部にすぎません。
当社は、相談料・着手金・月額報酬を0円とし、ご相談の初期段階で手数料の見込みをお伝えしています。中間金は成功報酬額の10%で、成約時の成功報酬から全額を差し引きます(基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません)。ただし、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。金額をご確認のうえでご判断いただければと思います。
よくあるご質問
Free Consultation
どこに手を入れると効くのか、お伝えします。
費用の全体像と、優先して取り組むべきことをご説明します。ご相談の段階で費用は発生しません。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。