漁業には、定置網や養殖のように海面の区画を使う形と、漁船を出して獲る漁船漁業があります。ここでは後者を扱います。
この事業の承継で難しいのは、事業の前提が「許可」と「船」と「人」の3つに分かれていて、それぞれ引き継ぎ方が違うことです。会社を譲れば全部付いてくるとは限りません。
許可は、自由に売り買いできるものではない
漁船漁業を行うには、漁業の種類と規模に応じた許可が必要です。国の許可が必要なものと、都道府県の許可によるものがあり、漁業法に基づいて定められています。許可には、使う漁船や漁法が特定されているものがあります。
重要なのは、許可が資産として自由に売買できる性質のものではないことです。株式譲渡の形で会社ごと引き継ぐ場合、会社が持つ許可は会社に残りますが、許可の内容に変更が生じる場合には手続きが必要です。事業譲渡の形で船だけを買っても、許可が付いてくるとは限りません。
定置漁業権や区画漁業権といった漁業権についても、免許として与えられるもので、移転には制限があります。どの許可・免許を持っていて、それが承継できる形なのかは、必ず先に確認する必要があります。
制度の詳細と手続きは漁業法とその関係法令に定められており、改正もあります。実際の確認は、都道府県の水産を担当する部署と、弁護士・行政書士に確認してください。
漁船の評価と、更新の負担
漁船は事業の中心にある設備です。評価では、船齢、トン数、主機の状態、装備(漁具、探知機、冷凍設備)、直近の検査の状況が見られます。船は定期的な検査を受ける必要があり、検査の時期が近いと費用の見込みが論点になります。
加えて、造り替えの負担が重いのがこの業種の特徴です。船の建造には時間と費用がかかり、造船所の空きにも左右されます。引き継ぐ側は「あと何年使えるか」「次の船をいつ、いくらで造るのか」を見ます。
船が古く、近い将来に大きな投資が必要な場合、その分が価格から引かれる方向に働きます。逆に、近年に造り替えた船があれば、その投資が評価されます。
係留する場所、漁具の保管場所、冷凍・冷蔵の設備も付属して見られます。これらが自社所有か、賃借か、漁協の施設を使っているかで、引き継ぎ方が変わります。
乗組員が揃うかどうか
漁船を出すには、必要な資格を持つ乗組員が揃っている必要があります。船長・機関長には海技士の資格が要る場合があり、資格者がいなければ船を出せません。人数の要件も、漁船の規模と航行の区域によって定められています。
引き継ぐ側が見るのは、乗組員の人数と年齢構成、資格の保有状況、外国人の技能実習生や特定技能の在留資格者を受け入れているか、その受け入れの枠組みがどうなっているかです。外国人の受け入れは制度に沿った手続きが必要で、支配権が変わった場合の扱いを確認する必要があります。
加えて、乗組員の給与の決め方が論点になります。漁獲に応じて配分する歩合の形を取っている場合、固定給の会社とは労務の管理の仕方が違います。社会保険と労働保険の加入の状況、漁船保険の加入も確認されます。
人の問題は、譲渡の前に手を打ちにくい部分です。だからこそ、現在の体制を正確に説明できることが重要になります。
漁協との関係と、販路
漁獲物の販売は、漁業協同組合を通す形が多くあります。組合への出荷、市場での販売、直接の取引先への出荷が混ざっていることもあります。どの経路でいくら売っているかの構成が、収益の安定性に表れます。
漁協の組合員としての地位、施設の利用、資材の購買、資金の借入が絡んでいる場合、その関係が引き継げるかが論点になります。組合員の資格には要件があるため、支配権が変わった場合の扱いを確認する必要があります。
販路を自分で持っている場合(加工会社や小売との直接の取引、飲食店への出荷)は、その契約と関係が評価されます。直接の販路を持っていることは、価格の交渉力につながるため強みになります。
燃料の価格、資材の価格、漁獲の変動が収益を動かすため、過去数年の推移を説明できることも求められます。
引き継ぐ側の動機と、進め方
買う側の動機は、次のように分かれます。
- 同業が規模を広げる。船と許可を増やし、漁獲の量を確保する形。
- 加工や流通が原料を確保する。水産加工業や卸が、原料の安定確保のために漁業に入る形。
- 養殖との組み合わせ。種苗や餌の確保、季節による変動の平準化を図る形。
どの動機でも、許可が引き継げるかが最初の関門です。ここが確認できないまま価格の話に進むと、後で前提が崩れます。
進め方としては、①許可・免許の種類と承継の可否を行政に確認する ②船の検査と更新の見込みを出す ③乗組員の資格と人数を整理する ④漁協との関係を確認する、という順序になります。①が最初に来るのが、他の業種と違う点です。
制度・許認可・税務の扱いは個別の事情で変わります。実際に進める際は、行政庁、弁護士、税理士に確認してください。
燃料費の負担も見られます。漁船漁業は燃料の使用量が多く、価格の変動がそのまま収益に表れます。省燃費の機関に換えているか、操業の方法で使用量を抑えているかが、収益の安定に関わります。漁業経営の安定に向けた公的な制度を利用している場合は、その内容と残っている期間も確認の対象になります。