設備投資に補助金を使った、雇用関係の助成金を受けた。譲渡の前に、必ず確認すべきことがあります。手続きを飛ばすと、返還を求められる場合があります。

まず、受けているものを一覧にする

最初の作業は棚卸しです。過去5年程度をさかのぼって、次を整理してください。

補助金・助成金の名称。国、都道府県、市区町村、業界団体。

交付決定の日付と金額。

対象となった経費・設備。

交付規程・要綱。交付決定通知書と一緒に保管されているはずです。

報告義務の有無と期限。

経理担当者も忘れていることがあります。総勘定元帳の雑収入や特別利益を数期分たどると出てきます。

財産処分の制限を確認する

設備投資に対する補助金で、最も重要な論点です。

補助金で取得した財産には、処分制限期間が定められていることがあります。この期間内に、目的外使用、譲渡、交換、貸付、担保提供を行う場合、事前に交付元の承認が必要とされるのが一般的です。

承認を得ずに処分すると、補助金の返還を求められる可能性があります。

株式譲渡の場合、財産の所有者は会社のままなので「処分」にあたらないと整理されることが多いのですが、これは補助金ごとに扱いが異なります。必ず事務局に照会してください。

事業譲渡・会社分割では特に注意

事業譲渡や会社分割では、財産の所有者が変わります。

この場合、処分にあたる可能性が高く、承認の手続きが必要になります。

承認が得られるかは、補助事業の目的が引き続き達成されるかによります。同じ事業を、同じ場所で、同じ目的で続けるなら、承認されることが多い。

ただし、手続きに時間がかかります。申請から承認まで数週間から数か月。クロージングの日程に織り込んでください。

「後から届け出ればよい」という扱いではありません。事前の承認です。

事業継続の要件を確認する

補助金によっては、一定期間の事業継続が要件とされています。

また、成果の報告が求められるものもあります。売上、雇用、生産性の指標を、数年にわたって報告する。

譲渡後、この報告義務を誰が果たすのかを決めておいてください。株式譲渡なら会社が引き続き負いますが、担当者が代わると、報告が抜けます。

報告を怠ると、返還を求められる場合があります。引き継ぎ資料に、報告の時期と様式を必ず入れてください。

雇用関係の助成金は別の論点

雇用調整助成金、キャリアアップ助成金、両立支援等助成金など、雇用関係の助成金には別の注意点があります。

多くは、受給後の一定期間、対象となった労働者を解雇しないことなどが要件とされています。

譲渡後に人員を整理すると、要件を満たさなくなる可能性があります。

また、不正受給があった場合は、返還に加えて事業主名の公表といった措置が取られることがあります。

過去の受給内容と要件を、社会保険労務士に確認してもらってください。デューデリジェンスで見られる論点です。

買い手にどう説明するか

開示は早い段階で行ってください。用意するもの。

受給の一覧。名称、金額、時期、対象。

交付決定通知書と交付規程の写し。

処分制限期間と、その残存期間。

報告義務の内容と期限。

事務局への照会の記録。照会済みなら、その回答も。

これを先に出すと、買い手の不安が減ります。逆に、デューデリジェンスで出てくると、「他にもあるのでは」という疑いを招きます。

価格への影響

補助金の存在が価格に影響する場面は2つです。

① 返還リスクがある場合。買い手は、返還の可能性を価格から差し引くか、特別補償(返還が生じた場合は売り手が負担する)を求めます。

② 過去の利益に補助金収入が含まれている場合。一過性の収入として、正常収益力から除かれます。

逆に、補助金で取得した設備が事業に貢献していることは、価値として評価されます。「補助金があったから安く設備を入れられた」のは事実です。

一過性の特需があった期も併せてご覧ください。

買い手側も補助金を使える場合がある

視点を変えます。買い手が補助金を使える場合があります。

事業承継・M&A補助金には、M&Aに要する費用(専門家の費用など)や、買収後の設備投資を対象とする枠があります。

ただし、要件や対象は年度ごとに変わります。また、多くの補助金は交付決定の前に契約・支出したものは対象外です。

必ずその年度の公募要領で確認し、申請のタイミングを案件の進行と合わせて設計してください。

当社は中小M&Aガイドライン(第3版)の遵守を宣言し、M&A支援機関登録の手続を進めております。

事務局への照会は早めに

最後に、実務の順序です。

譲渡を検討し始めた段階で、交付元に照会してください。「資本構成の変更を検討している。手続きが必要か」と聞けば足ります。

案件の詳細を伝える必要はありません。一般的な確認として聞けます。

回答は、担当者名と日付を控えて記録してください。後から「聞いていた」と示せる形にします。

この一手間を惜しむと、クロージング直前に手続きが必要と分かり、日程が崩れます。実際に起きることです。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.譲渡自体はできますが、確認と手続きが必要です。補助金で取得した財産には処分制限期間が定められていることがあり、期間内の譲渡等には事前に交付元の承認が必要とされるのが一般的です。承認を得ずに処分すると返還を求められる可能性があります。
A.株式譲渡では財産の所有者が会社のままなので「処分」にあたらないと整理されることが多いのですが、補助金ごとに扱いが異なります。必ず事務局に照会してください。事業譲渡や会社分割では所有者が変わるため、承認の手続きが必要になる可能性が高くなります。
A.多くは受給後の一定期間、対象となった労働者を解雇しないことなどが要件とされています。譲渡後に人員を整理すると要件を満たさなくなる可能性があります。過去の受給内容と要件を社会保険労務士に確認してもらってください。
A.早い段階です。受給の一覧、交付決定通知書と交付規程の写し、処分制限期間の残存、報告義務の内容と期限、事務局への照会の記録を用意してください。デューデリジェンスで出てくると「他にもあるのでは」という疑いを招きます。
A.譲渡を検討し始めた段階です。案件の詳細を伝える必要はなく、「資本構成の変更を検討している。手続きが必要か」と一般的な確認として聞けます。回答は担当者名と日付を控えて記録してください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら