仲介会社を選ぶときに手数料や規模を比べる方は多いのですが、実際の進行を左右するのは担当者個人です。同じ会社でも、担当が違えば結果が変わります。何を見て判断すべきかを整理します。
なぜ人で決まるのか
M&Aの実務は、標準化しにくい仕事です。
どの買い手に当てるか、どの順で打診するか、条件が割れたときにどう着地させるか、悪い知らせをいつ誰に伝えるか。これらはマニュアルでは決まりません。
会社の看板は、候補先のネットワークや管理体制には効きます。ただし、目の前の一件を進めるのは担当者です。だから会社を選ぶのと同じ重さで、人を見る必要があります。
初回面談で見る4点
会って最初にわかることがあります。
① 聞く時間と話す時間の比率。自社の説明ばかりで、会社の話を聞かない担当者は、この後も同じです。
② 都合の悪い話をするか。期間がかかること、まとまらない可能性、費用の負担。いい面だけを話す人は信用できません。
③ わからないことを「わからない」と言えるか。税務や法務の細かい論点で、その場で断定する人は危険です。
④ 数字の根拠を説明できるか。「このくらいの価格になります」に対して、なぜそうなるかを説明できるか。
経験をどう確認するか
「実績は豊富です」という言葉には中身がありません。具体的に聞いてください。
ご自身が主担当として関わった件数。会社の実績ではなく、その人の件数です。
同じ業種の経験。業種特有の論点(許認可、在庫、職人の雇用形態)を知っているかどうかは、進行の速さに直結します。
まとまらなかった案件の話。これを聞くと人柄が出ます。「なぜ流れたのか」を自分の反省として語れる人は、次の案件でも学んでいます。相手のせいにする人は、同じことを繰り返します。
守秘義務があるため詳細は話せませんが、抽象度を上げた形でなら話せます。
担当が交代する仕組みを確認する
見落とされやすい点です。面談に来た人が、そのまま最後まで担当するとは限りません。
初回は営業担当、契約後に実務担当へ引き継ぐという体制の会社があります。それ自体が悪いわけではありませんが、知らずに進めると「話が違う」と感じることになります。
確認すべきは三つ。誰が主担当か。何人体制か。担当が異動・退職した場合どうなるか。
体制の説明を求めるのは、失礼なことではありません。答えられない会社のほうが問題です。
相性という要素
実務的な話として、相性は無視できません。
譲渡の検討は、数か月から1年以上続きます。その間、家族にも社員にも言えないことを話す相手になります。
話しづらい、急かされる、こちらのペースを尊重しない。この感覚は当たります。「まだ決めていない」と言ったときの反応を見てください。
逆に、迎合しすぎる人も困ります。すべてに「おっしゃるとおりです」と答える担当は、買い手にも同じ態度を取ります。必要なときに反対意見を言える人のほうが、結果的に役に立ちます。
複数社に会ってみる
一社だけ会って決めると、比較の基準がないまま判断することになります。
2〜3社に会うことをお勧めします。同じ質問をすると、答えの違いがはっきり出ます。価格の見立て、期間の見込み、想定する買い手の像。
中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月)は、専任条項を設ける場合でも他の支援機関へのセカンドオピニオンを求めることを妨げないことを求めています。比較を嫌がる会社は、その時点で判断材料です。
ただし、会いすぎるのも情報管理の面で得策ではありません。3社程度が現実的です。
契約後に合わないとわかったら
進めてみて、どうしても合わないと感じることがあります。
まず、担当の変更を申し入れるという選択肢があります。会社を替えるより現実的で、応じる会社は多くあります。
それでも難しい場合、契約の解除を検討します。ここで重要なのが、契約書の中途解約条項です。解約時に費用が発生するか、既払いの着手金・月額報酬は返るか、テール条項がどう残るか。
契約前に、この部分を必ず読んでおいてください。合わなかったときのことは、始める前にしか確認できません。
最後は、任せられるかどうか
選ぶ基準をいくつか挙げましたが、突き詰めると一つです。
この人に、会社の情報と従業員の行き先を預けられるか。
手数料の多寡より、会社の規模より、ここが結論を分けます。数千万円の差より、まとまらなかったときの損失のほうが大きいためです。
迷ったら、決めなくて構いません。その場で契約を求められても、持ち帰ってください。急がせる相手とは、急いで組まない。これが一番の防御になります。