「赤字の会社は売れないのでは」というご相談を受けることがあります。結論から申し上げると、赤字でも譲渡は成立します。

買い手が見ているのは赤字という結果ではなく、赤字になっている理由と、それが直せるものかどうかです。理由によって、買い手の反応は大きく変わります。本稿では、どういう赤字が検討されやすいのか、価格にどう影響するのか、譲渡の前に何を整えられるのかを整理します。

買い手が検討しやすい赤字

買い手が「自分なら直せる」と考える赤字があります。次のような形です。

役員報酬が大きい。社長の報酬を相場まで下げれば利益が出る会社です。買い手は自社から人を送るので、同じ報酬は払いません。この場合、実質的には黒字と見られます。

社長個人の支出が混ざっている。車、交際費、保険、家族への給与。これらを整理すれば利益が変わります。

一時的な費用が出た年。大きな修繕、退職金の支給、不良在庫の処分。来期は出ない費用であれば、赤字の理由として説明できます。

設備投資の直後。減価償却が重い時期で、現金は回っている会社です。買い手は償却後の利益ではなく、現金の流れを見ます。

これらは、決算書の上では赤字でも、事業そのものは回っています。足し戻して考えたときの利益を、実質的な利益として見る考え方があります。

買い手が慎重になる赤字

一方で、買い手が慎重になる赤字もあります。

売上が減り続けている。顧客が離れている、市場そのものが縮んでいる。理由が外にあると、買い手が努力しても止められません。

粗利が出ていない。売っても儲からない構造です。値上げができない理由があるなら、買い手にも同じ制約がかかります。

何年も続いている。単年の赤字と、五年続く赤字は別の話です。続いている期間が長いほど、直せる見込みが薄いと見られます。

資金が足りていない。支払いを延ばしている、借入の返済が滞っている。買い手は買った直後に資金を入れることになります。

ただし、慎重になるというのは「検討しない」ことではありません。価格と条件が変わるということです。

価格にどう影響するか

赤字の会社の価格は、黒字の会社とは別の考え方で決まることがあります。

利益を基準にした評価が使えないため、会社が持っている資産を基準に考える方法が取られます。土地、建物、機械、在庫、現金から、借入などの負債を引いた金額が目安になります。

このほか、事業の一部だけに価値がある場合、その部分だけを譲渡する形もあります。会社全体ではなく、特定の事業や許認可、顧客を渡す形です。

赤字が一時的なもので、足し戻せば利益が出ると説明できる場合は、その利益を基準にした評価が使われます。説明できるかどうかで、評価の方法そのものが変わります。

なお、どの評価方法が適切かは会社の状況によります。複数の方法で試算して幅を見るのが一般的です。

譲渡の前に整えておけること

赤字の理由を説明できる形にしておくと、買い手の反応が変わります。相談の段階から始められます。

まず、赤字の理由を数字で切り分けます。役員報酬がいくら、社長個人の支出がいくら、一時的な費用がいくら。足し戻した後の利益がいくらになるかを出します。

次に、その根拠になる資料を揃えます。足し戻しの説明は、根拠がなければ受け入れられません。どの勘定科目のどの金額かまで示せる形にします。

そして、直せる部分を実際に直しておく方法もあります。不要な支出を止める、採算の合わない取引をやめる、在庫を整理する。数か月で数字が変わることがあります。

ただし、無理に利益を作ろうとして必要な支出を止めると、事業そのものが傷みます。DDで見られるのはそこまでなので、一時しのぎの改善は見抜かれます。

時間との関係

赤字の会社では、時間が味方になりにくいことがあります。

資金に余裕がない状態で検討を始めると、交渉の途中で資金が尽きる心配が出ます。買い手はそれを知れば、条件を強く求めます。

また、赤字が続いている会社は、年が変わるごとに純資産が減ります。資産を基準にした評価であれば、金額が下がっていきます。

だから、赤字の会社ではむしろ早く相談したほうがよいという結論になります。黒字の会社より、時間の余裕が少ないためです。

債務超過になっている場合も、譲渡の道がないわけではありません。進め方が変わるので、個別に検討します。

なお、赤字の会社でも、従業員の雇用を続けてくれる相手を選べることがあります。買い手にとっては、人と設備と許認可がそろった状態を手に入れる手段でもあるためです。価格の条件が厳しくても、残したいものが残る形は探せます。

相談のときに持ってくるもの

赤字の会社のご相談では、次の資料があると見通しが早く出せます。

直近三期の決算書と申告書。赤字の推移と、どの科目で出ているかが分かります。

借入の残高と返済の予定表。資金の余裕がどれだけあるかの判断に使います。経営者保証が付いているかどうかも確認します。

役員報酬の額と、社長個人に関わる支出の内容。足し戻しの試算に使います。

主要な取引先の売上。売上が減っている場合、どの取引先が減っているかで理由が見えます。

全部揃っていなくても構いません。手元にあるものだけで、おおよその見通しはお伝えできます。

なお、ここに書いたのは一般的な整理です。個別の判断は会社の事情によって変わりますので、税務・法務の点は税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.つくことがあります。利益を基準にした評価が使えない場合、会社が持つ資産から負債を引いた金額が目安になります。赤字が一時的なもので足し戻せば利益が出ると説明できる場合は、その利益を基準にした評価が使われます。
A.年数だけで決まるものではありません。理由が社長の報酬や一時的な費用であれば、年数が続いていても説明できます。売上が減り続けている場合は、期間が長いほど慎重に見られます。
A.必ずしもそうではありません。無理に利益を作るために必要な支出を止めると、事業が傷みます。赤字の理由を説明できる形にしておくほうが効果があります。資金に余裕がない場合は、早めのご相談をおすすめします。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら