M&A仲介業界には「闇がある」「トラブルが多い」という言葉がついて回ります。実際に、中小企業庁は業界の問題を踏まえて中小M&Aガイドラインを改訂し、M&A支援機関の登録制度を設けています。本記事では、「闇」と言われる問題を五つに分け、それぞれの仕組みと、制度による対策、そして経営者が自分の身を守るために確認したいことを整理します。業界の中にいる立場として、伝えにくいことも先に申し上げます。
問題一:両手取引の利益相反
M&A仲介は、売り手と買い手の双方と契約し、双方から報酬を受け取る「両手取引」が一般的です。仲介者は中立の立場で条件を調整すると説明されますが、構造的には、売り手の価格を高くすれば買い手が離れ、買い手に寄れば売り手が損をするという利害の対立の真ん中に立っています。
問題になるのは、この構造を売り手に説明しないまま契約すること、特定の買い手に有利な情報だけを伝えること、成約を急ぐあまり売り手の不利な条件を勧めることです。
中小M&Aガイドライン(第3版)は、仲介者が契約の前に、双方から報酬を受け取ること、利益相反が想定される事項、相手方の手数料などを説明することを求めています。この説明があるかどうかが、最初の確認事項です。両手取引の仕組みはM&A仲介の両手取引とはで詳しく解説しています。
問題二:手数料の不透明さ
仲介の手数料はレーマン方式と呼ばれる料率表で説明されることが多いのですが、「何に料率をかけるか」(株式の価格か、負債を含めた総資産か)、最低報酬額があるか、着手金や中間金があるか、中間金は不成立のときに返るかによって、同じ料率表でも支払う金額は大きく変わります。
問題になるのは、料率だけを示して基準額の考え方を説明しないこと、最低報酬額を契約書で初めて示すこと、有利な点(着手金なし)だけを強調して不利な点(中間金は返金しない)に触れないことです。
確認したいのは、契約前に手数料の総額の目安を書面で示してもらえるか、算定基準と最低報酬額と中間金の返金の扱いが同じ紙に書かれているかです。当社の料金体系は料金体系のページに、基準額の考え方、計算例、中間金を返金しないことを含めて掲載しています。手数料の仕組みの一般的な解説はM&A仲介手数料の相場とレーマン方式の計算方法をご覧ください。
問題三:専任契約とテール条項
仲介契約の多くは専任契約で、契約期間中は他の仲介会社に依頼できません。また、契約終了後の一定期間に、その仲介会社が紹介した相手と成約した場合には報酬を支払うという「テール条項」が入ります。
これらは、仲介会社が時間と費用をかけて相手を探す以上、それ自体は不合理な条項ではありません。問題になるのは、専任期間が長すぎて動きの鈍い仲介会社から離れられないこと、テール条項の期間が長く、対象が「紹介した相手」に限定されていないことです。
中小M&Aガイドラインは、専任条項について期間の上限の目安を示し、テール条項は期間を限定し、対象を仲介者が紹介した相手に限ることを求めています。契約前に、専任の期間、解約の条件、テール条項の期間と対象を確認します。詳しくは専任条項の留意点と仲介契約を途中で解除したら費用はかかるかをご覧ください。
問題四:不適切な買い手
会社を譲り受けた後に、約束した雇用を守らない、会社の資金を引き出す、経営者の個人保証を解除しない、といった買い手による問題が報じられ、業界の信頼を損ねました。仲介会社が買い手の実態を確かめずに紹介したことが背景にある例もあります。
中小M&Aガイドライン(第3版)は、仲介者に対して不適切な譲り受け側を排除する取り組みを求めており、買い手の資力や過去の経緯の確認、経営者保証の解除に関する説明などが含まれます。
売り手として確認したいのは、仲介会社が買い手をどう調べているか、個人保証の解除を契約の条件にできるか、譲渡後の雇用や資金の扱いを契約に書けるかです。当社の遵守事項は中小M&Aガイドライン遵守の宣言に掲載しています。
問題五:強引な営業と決断の急かし
電話営業やダイレクトメールが繰り返し届くこと、面談で「今月中に決めてほしい」と急かされること、断っても連絡が続くことは、業界への不信の大きな原因です。営業手法そのものは違法ではありませんが、経営者が十分に考える時間を奪う営業は、譲渡の判断を歪めます。
身を守る方法は単純で、電話の場で決めない、書面で受け取る、複数社を比較する、期限を切られても自分の時間軸で答える、の四つです。営業電話への具体的な対応はM&A仲介会社からの電話営業はなぜ来るのかにまとめています。
制度で確認できること、自分で確認すること
制度の面では、二つの公開情報があります。一つは中小企業庁のM&A支援機関登録制度で、登録された支援機関はデータベースで検索できます。登録にあたって中小M&Aガイドラインの遵守を宣言することが求められています。もう一つは、各社がWebサイトに掲載するガイドライン遵守の宣言で、何を守ると宣言しているかを読むことができます。
ただし、登録や宣言があることと、実際の担当者の行動が誠実であることは別です。最後は、契約前の説明が具体的か、費用と契約の縛りを書面で示すか、決断を急がせないか、悪い材料も先に伝えるかで判断するほかありません。
当社は仲介の立場で、売り手・買い手の双方から報酬をいただきます。だからこそ、どちらか一方に都合のよい説明をしないこと、想定と違う見通しも最初に申し上げることを、仕事の前提に置いています。伝えにくいことから先に申し上げる姿勢は、会社概要の役員メッセージにも書いています。