「御社に関心を持っている買い手がいる」「後継者のことでご相談は」という電話を、M&A仲介会社から受けたことのある経営者は多いはずです。一度断っても別の会社からかかってくる、話を聞くと具体的な買い手の名前は出てこない、という経験をされた方もいるでしょう。本記事では、なぜ電話営業が自社にかかってくるのか、話の中身をどう受け止めればよいか、相手を見極めるための質問、そして相談してみたくなったときに確認したいことを整理します。
なぜ自社に電話がかかってくるのか
M&A仲介会社の多くは、譲渡を検討する経営者を探すために電話営業を行っています。対象になりやすいのは、経営者の年齢が高い会社、後継者が社内にいないと推測される会社、業界の再編が進んでいる業種の会社、業績が安定している会社です。これらは登記情報、信用調査会社のデータ、業界名簿などから機械的に抽出されます。
つまり、電話がかかってくることは「自社が売りに出ていると見られている」ことではなく、「一定の条件に当てはまる会社の一つとして抽出された」ことを意味します。特別な情報が漏れているわけではありません。
電話の目的は、面談の約束を取ることです。「関心を持っている買い手がいる」という言い方は、具体的な相手が決まっている場合もあれば、同業の買い手候補を一般的に指している場合もあります。どちらなのかは、話を聞いてみないと分かりません。
話の中身をどう受け止めるか
電話で語られる内容には、事実と営業の言葉が混ざっています。「御社の業種は今、買い手が多い」「今なら高く売れる」といった言葉は、業界の傾向としては事実であっても、自社の評価とは別の話です。
受け止め方の基本は、電話の場で判断しないことです。関心があれば、資料を送ってもらう、会社名と担当者名を聞いてWebサイトを確認する、あとで折り返すと伝える。この三つで十分です。電話の場で面談の日程を決める必要はありません。
「具体的な買い手はどこですか」と聞いたときの答え方も、相手を知る手がかりになります。秘密保持の観点から社名を電話で言えないのは当然ですが、業種や規模、なぜ自社に関心を持つのかを説明できるかどうかで、話の具体性は分かります。
相手を見極める五つの質問
電話の相手に聞いてみると、立場と誠実さが分かる質問を五つ挙げます。
「報酬は誰からいただくのですか」。仲介であれば売り手と買い手の双方から、FAであれば依頼者からのみ。この答えで立場が分かります。
「着手金や月額の費用はありますか。中間金は返金されますか」。費用の全体像を口頭でも明確に答えられるかどうか。
「M&A支援機関登録制度に登録していますか」。中小企業庁の登録制度は公開されており、登録の有無は誰でも確認できます。
「中小M&Aガイドラインを遵守していますか」。遵守の宣言をWebサイトに掲載している会社が多く、確認できます。
「専任契約の期間と、契約後に解約した場合の扱いは」。契約の縛りについて、聞かれる前に説明する会社かどうか。
これらに曖昧な答えしか返ってこない場合、その電話は面談の約束を取ること自体が目的になっている可能性があります。
断り方と、しつこい電話への対応
関心がなければ、「検討していません」「必要なときはこちらから連絡します」と伝えて構いません。理由を説明する必要はありません。同じ会社から繰り返しかかってくる場合は、「今後の連絡は不要です」と明確に伝え、それでも続くようなら会社名と日時を記録しておきます。
従業員が電話を受ける場合に備えて、「M&Aや事業承継に関する営業電話は取り次がず、資料の送付先を案内する」といった対応を社内で決めておくと、経営者の負担も従業員の戸惑いも減ります。電話の内容を従業員が誤解し、「会社が売られるのでは」という不安につながることを防ぐ意味もあります。
なお、電話営業そのものが問題なのではありません。多くの仲介会社が電話で接点を作っており、そこから譲渡に至った例も多くあります。問題になるのは、決断を急がせること、費用や立場を曖昧にすること、断っても続けることです。
相談してみたくなったときに確認すること
電話をきっかけに「一度話を聞いてみよう」と思ったときは、面談の前に、その会社のWebサイトで料金体系、支援機関登録の有無、ガイドライン遵守の宣言、役員や担当者の情報を確認しておきます。面談では、電話で聞いた五つの質問への答えを書面で示してもらいます。
そのうえで、一社の話だけで決めず、複数の仲介会社の説明を聞き比べることをお勧めします。専任契約を結ぶ前であれば、比較は自由です。複数社への相談の考え方は複数の仲介会社に相談してよいかでご説明しています。
当社では、ご相談いただいたからといって契約を強要したり、繰り返し営業のご連絡を差し上げたりすることはありません。他社との比較検討も歓迎しています。相談料・着手金・月額報酬は0円で、基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系に基準額の考え方と計算例を掲載しています。
電話をきっかけに、自分の考えを整理する
営業電話は歓迎されないものですが、「自分は承継についてどう考えているのか」を自問するきっかけにはなります。親族や社内に後継者がいるのか、いないなら第三者への承継を考えるのか、いつまでに決めるのか。電話を切ったあとに、その問いだけは残しておく価値があります。
承継の選択肢を整理するには承継の選択肢診断を、後継者不在の場合の考え方は事業承継・後継者不在の方へをご用意しています。電話に急かされずに、ご自身の時間軸で考えるための材料です。