後継者がいないとわかったとき、多くの経営者様の頭に浮かぶのは「売るか、たたむか」という二択です。しかし実際には、会社の行き先にはもう少し幅があります。そして、それぞれが成り立つ条件と、かかる時間・費用・周囲への影響は大きく異なります。
本稿では、M&A以外の選択肢を横並びで比較します。廃業とM&Aの二者比較は「廃業とM&Aはどちらを選ぶべきか|費用・手取り・従業員への影響を比較」で、休眠会社の扱いは「休眠会社は売れるのか|売却できるケースと廃業との比較」で詳しく扱っていますので、本稿は選択肢全体の地図としてお読みください。
「売る」か「やめる」かの二択ではない
会社の将来について取りうる道は、大きく6つあります。
- ① 親族に承継する——子や配偶者、兄弟に株式と経営を引き継ぐ
- ② 役員・従業員に承継する——社内の人材が株式を買い取り、経営を引き継ぐ
- ③ 第三者に譲渡する(M&A)——外部の企業や個人に株式または事業を譲る
- ④ 廃業する(解散・清算)——事業を終え、資産を換価して負債を返済し、法人を消滅させる
- ⑤ 休眠させる——事業活動を止めるが、法人は存続させる
- ⑥ 当面は継続する——現状のまま経営を続け、判断を先送りする
この6つは、排他的ではありません。①がだめなら②、②がだめなら③、というように順に検討していくものです。そして重要なのは、④と⑤は、①〜③がいずれも成り立たなかったときの帰結だという点です。
後継者不在は広く共通する課題で、帝国データバンクの2025年の調査によれば後継者不在率は50.1%とされています。①と②が難しい会社は決して少数派ではありません。
6つの選択肢を、一覧で比べる
| 選択肢 | 成り立つ条件 | おおよその期間 | 従業員 | 経営者の手元 |
|---|---|---|---|---|
| ① 親族承継 | 継ぐ意思と適性のある親族がいる | 数年(計画的な移転が必要) | 維持される | 対価を得ない場合が多い |
| ② 役員・従業員承継 | 候補者に意欲があり、株式の買取資金の目処が立つ | 1〜数年 | 維持される | 買取価格による |
| ③ 第三者譲渡(M&A) | 事業として引き継ぐ価値がある | 半年〜1年半程度 | 維持されることが多い | 譲渡対価を得る |
| ④ 廃業(解散・清算) | 資産で負債を完済できる | 数か月〜1年以上 | 解雇せざるを得ない | 残余財産があれば分配 |
| ⑤ 休眠 | 事業を止めても支障がない | 比較的短期間で移行可能 | 実質的に解雇となる | 資産は会社に残る |
| ⑥ 継続 | 経営者の健康と意欲が続く | — | 維持される | — |
この表で最も差が出るのが、従業員の欄です。①②③は雇用が維持される可能性が高く、④⑤は原則として雇用を終えることになります。従業員のことを最優先に考えるのであれば、選択肢は実質的に3つに絞られます。
また、経営者の手元に残るものにも大きな差があります。親族承継では対価を得ないことが多く、廃業では資産を換価し負債を返済した後の残余財産が分配されます。第三者譲渡では、事業としての価値が対価に反映されます。
①②③のそれぞれの実務は、「親族内承継の進め方|株式の移し方と揉めないための準備」「従業員承継(MBO・EBO)とは|社内承継の進め方と資金の壁」「第三者承継とは|親族・社内に後継者がいない場合の選択肢」で解説しています。
廃業(解散・清算)にかかる費用と時間
「たたむだけなら、費用はかからないだろう」と考えられがちですが、実際には相応の支出と手間が生じます。
手続きの流れ
会社を消滅させるには、株主総会での解散決議、清算人の選任、債権者への公告と催告、資産の換価と債務の弁済、残余財産の分配、清算結了の登記という一連の手続きが必要です。債権者保護のための公告期間が法定されているため、最短でも数か月、実務では半年から1年以上かかることが一般的です。
見落とされやすい費用
- 従業員への対応:解雇予告手当、未消化の有給休暇、退職金制度がある場合はその支払い
- 原状回復:賃借している事務所・工場・店舗を明け渡す際の内装撤去、設備の解体
- 設備・在庫の処分:機械設備の撤去費、産業廃棄物の処理費。売れると思っていた設備が、処分費のかかる負債になることは珍しくありません
- リース契約の中途解約:残債の一括精算を求められることがある
- 登記・公告の費用:登録免許税、官報公告の掲載料
- 専門家報酬:清算手続きに伴う司法書士・税理士への報酬
- 税負担:資産を売却した際の譲渡益に対する課税、残余財産の分配に伴う課税
これらを積み上げると、想定していた手取りが大きく目減りする、あるいは持ち出しが生じるということもあります。廃業を検討される場合は、必ず概算を出してから判断してください。
債務超過の場合
資産で負債を完済できない場合、通常の清算手続きでは終えられず、特別清算や破産といった法的整理を検討することになります。この場合、経営者保証があれば個人への影響も生じます。事業の一部でも譲渡できないか、あるいは再生型の手法が取れないかを、早い段階で専門家に相談すべき局面です。
休眠という選択|止めることと、たたむこと
休眠は、事業活動を停止しながら法人は存続させる状態です。廃業との違いを整理します。
| 休眠 | 廃業(解散・清算) | |
|---|---|---|
| 法人格 | 存続する | 消滅する |
| 手続き | 異動届出書の提出など、比較的簡易 | 解散決議・公告・清算・登記の一連の手続き |
| 費用 | 当面は小さい | 相応の費用が発生 |
| 継続的な負担 | 申告義務が続く。均等割が生じる場合がある | 結了後はなくなる |
| 再開 | 可能 | 不可能 |
| 許認可 | 更新できずに失効することがある | 失われる |
休眠が向くのは、再開の可能性を残したい場合や、すぐに清算できない事情がある場合です。たとえば、資産の売却先が決まっていない、係争中の案件がある、といったケースです。
一方で、休眠には注意点もあります。放置すると、みなし解散の対象となる可能性があります。また、許認可は更新されずに失効し、取引先との関係も途絶えるため、時間が経つほど再開や譲渡は難しくなります。休眠したまま何年も経過した会社を譲渡しようとしても、買い手から見た価値は大きく下がっているのが実情です。
したがって、休眠は「決めるまでの一時的な状態」として位置づけるべきもので、恒久的な解決策ではありません。
判断の順序|どこから確かめるか
選択肢が6つあるとして、どの順で確かめればよいのか。実務でお勧めしている順序は次のとおりです。
ステップ1|親族・社内に候補がいるか、率直に確かめる
「継ぐ気はないだろう」という思い込みで確認していないケースが、実際にあります。逆に、継ぐ意思があっても切り出せずにいる場合もあります。まずは本人に直接尋ねてください。
ステップ2|第三者に譲渡できるかを確かめる
ここが最も重要です。「うちのような会社を買う人はいない」と決めつけて、確かめずに廃業を選ぶのは、最ももったいない判断です。赤字であっても、規模が小さくても、買い手がつくケースはあります。評価されるのは利益だけではなく、取引先との関係、技術、許認可、人材、立地といった要素です(「赤字企業でも売却できる?買い手が評価する「見えない資産」」)。
確かめるのに費用はかかりません。当社を含め、多くの支援機関が初回の相談を無料で受けています。数回の面談で、譲渡の可能性はおおよそ判断できます。
ステップ3|廃業の概算を出す
ステップ2と並行して、廃業した場合の費用と手取りを概算します。顧問税理士に相談すれば、おおよその見当はつきます。この数字と、譲渡した場合の見通しを並べて初めて、比較ができます。
ステップ4|従業員と取引先への影響を評価する
金額だけでは決められない部分です。従業員が何人いて、その方々の年齢と再就職の見通しはどうか。取引先が自社の供給に依存していないか。地域における自社の役割は何か。この評価が、最終的な判断を左右することは多くあります。
ステップ5|決める
ここまで揃えば、判断できます。そして、どれを選んでも、それは十分な根拠に基づく決断です。
まとめ|順番を守れば、選択肢は減らない
会社の行き先には、親族承継、従業員承継、第三者譲渡、廃業、休眠、継続という6つの道があります。従業員の雇用を維持できるのは前の3つで、廃業と休眠は雇用を終えることになります。
そして、判断には順序があります。①親族・社内の候補を確かめ、②第三者への譲渡の可能性を確かめ、③廃業の概算を出し、④影響を評価してから、決める。この順序を守れば、選択肢を自ら狭めることはありません。
逆に、順序を飛ばして廃業を決めてしまうと、後から「実は買い手がいたかもしれない」という思いが残ります。廃業は、いつでも選べます。しかし譲渡は、時期を逃すと選べなくなります。設備が古くなり、キーマンが退職し、経営者の体力が落ちるにつれて、引き継げるものは減っていくからです。
当社プラチナパートナーズでは、「売れるかどうかを確かめたい」というだけのご相談も数多くお受けしています。譲渡が難しいと判断される場合は、その理由も率直にお伝えします。相談料・着手金・月額報酬はいただいておりません。判断材料を集める一環として、お気軽にお声がけください。