自分が継いだ会社を、自分の代で譲る。創業した父や母が健在なら、話は自分だけでは終わりません。法的な必要と、感情の両方を整理します。
まず、株式を持っているかを確認する
法的な話から整理します。先代が株式を保有しているなら、その同意なしに全株は売れません。
株主名簿と、法人税申告書の別表二を確認してください。「全部譲った」と聞いていても、一部が残っていることがあります。
保有比率によって、できることが変わります。
過半数を持っている。実質的に先代が決定権を持ちます。
3分の1超。特別決議を単独で阻止できます。
少数。全株譲渡には同意が必要ですが、過半数の譲渡なら進められる場合があります。
役員として残っている場合
会長や相談役として登記されている場合も、確認が要ります。
取締役であれば、取締役会の決議に関わります。株式の譲渡承認、重要な財産の処分。
また、買い手から見れば、先代も交渉の相手方です。トップ面談に同席を求められることもあります。
逆に、登記はされているが実態がない場合、報酬は正常収益力の調整対象になります。
譲渡の前に、役員としての立場を整理しておくほうが進めやすくなります。
感情の問題を軽く見ない
法的な整理ができても、こちらが残ります。
創業者にとって、会社は自分が作ったものです。ゼロから立ち上げ、取引先を開拓し、従業員を雇ってきた。
それを、引き継いだ側が手放すと言う。受け入れがたいのは自然なことです。
とくに、「継がせたのに」という思いがあります。二代目に託した判断そのものを否定されたように感じることもあります。
この感情を「非合理だ」と切り捨てないでください。説得の対象ではなく、時間をかけて向き合う対象です。
伝える順序
実務的な順序です。
① 自分の中で方針を固める。なぜ譲るのか、いつごろか、譲れない条件は何か。迷いを持ったまま相談すると、反対の余地を広げます。
② 配偶者に話す。家庭内の合意を先に。
③ 先代に話す。二人で、時間を取って。
④ その後、社内へ。
先代を後回しにしないでください。幹部や取引先から伝わると、最も傷つきます。
逆に、最初に相談すると、その後の進め方に口を出されることがあります。方針を固めてから、というのが要点です。
何を説明するか
伝えるべき内容を整理します。
会社の現状。数字で。先代が経営していた時期と、何が変わったか。
譲る理由。後継者がいない、投資の必要、業界の変化、自分の年齢。
譲らなかった場合に起きること。これが最も効きます。「このまま行けば、数年後に廃業を選ぶことになる」。
従業員と取引先がどうなるか。創業者が最も気にする点です。
自分の今後。
「売りたい」ではなく「守るために譲る」という説明ができるかどうかで、受け取られ方が変わります。
一度で決めようとしない
実務の感覚です。最初の一回で同意を得ようとしないでください。
創業者にとっては、突然の話です。考える時間が要ります。
実務では、数か月かけて、何度か話すことになります。
1回目は伝えるだけ。2回目に反応を聞く。3回目に具体的な話をする。
その間、資料の準備は進めて構いません。ただし、候補先への打診は、同意を得てからにしてください。株主であれば、法的にもそうです。
急がせると、感情的な反対が固定します。
第三者に同席してもらう
有効な方法です。親子だけで話すと、感情が先に立ちます。
同席してもらう候補は、顧問税理士(長年会社を見ており、先代も信頼していることが多い)、取引金融機関の担当者、仲介会社の担当者。
第三者がいると、数字と事実の話になります。親子の会話では出てこない論点が整理されます。
また、先代が質問しやすくなります。息子や娘には聞けないことも、第三者には聞けます。
当社でも、先代への説明の場に同席することがあります。ご希望があればお申し付けください。
反対され続けた場合
合意に至らないこともあります。保有比率によって、取れる選択肢が違います。
先代が少数株主の場合。過半数の譲渡であれば進められることがあります。ただし、買い手は全株を望むのが通常で、少数株主が残る設計は価格に影響します。
先代が過半数を持つ場合。同意なしには進められません。先に株式を集約することが前提になります。
いずれにせよ、時間がかかります。そして、先代に相続が起きれば、株式は相続人に分散します。より難しくなります。
元気なうちに整理してください。
先代の居場所を残す
最後に、実務で効く工夫です。
譲渡後、先代にどういう関わり方があるかを示してください。
買い手との交渉で、顧問としての立場を用意することがあります。期間、報酬、役割を決めて。
また、社名やブランドを残すことも、創業者にとっては大きい。買い手との交渉条件に入れられます。
そして、取引先への挨拶に同行してもらう。自分が作った関係を、自分の口で引き継ぐ。
「排除される」のではなく「送り出す側に立つ」という形にできれば、受け止め方が変わります。承継後の先代の居場所も併せてご覧ください。