会社を譲ることを考え始めたとき、相談先は一種類ではありません。M&A仲介会社、FA(ファイナンシャル・アドバイザー)、銀行や信用金庫、顧問税理士、公的な支援機関、そして事業引継ぎのプラットフォームがあります。どれも「M&Aの相談先」と呼ばれますが、扱う範囲と立場が違います。
違いを知らずに1か所だけに相談すると、その相手が得意な形に話が寄ります。悪意があるからではなく、見えている範囲と、収入の立ち方が違うからです。ここでは、それぞれが何をする相手なのかを並べて整理します。
M&A仲介会社とFAは、立場が違う
仲介会社は、売り手と買い手の両方の間に立ちます。両方から依頼を受けて成立を目指す形で、相手を探すところから条件の調整、契約の段取りまでを通して担います。中小企業のM&Aではこの形が多く使われています。
FAは、売り手または買い手の一方だけについて助言します。片方の利益のために条件を交渉する立場なので、相手方と利害が対立する場面では依頼者側に立ちます。
どちらが良いという話ではなく、立場の違いが交渉の進み方に出ます。仲介は両者の間を取りに行くので話がまとまりやすく、FAは一方の条件を押すので時間がかかることがあります。仲介の形については、両方から手数料を受け取る点が利益相反として議論されてきました。中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)は、仲介者が取るべき措置を定めています。契約を結ぶ前に、どちらの立場の相手なのかを確かめてください。
金融機関に相談すると何が起きるか
取引のある銀行や信用金庫も相談先になります。融資の状況と個人保証の事情を知っているので、債務の整理を含めた話ができるのが強みです。金融機関がM&Aの仲介・助言を自ら行う場合もあり、グループ内の会社や提携先を紹介する場合もあります。
注意したいのは、借入のある金融機関に相談すると、その事実が融資の判断に関わる部署にも共有されうることです。会社を譲る検討をしていることが伝わると、新規の融資や条件更新の話に影響する可能性があります。これは不当な扱いという意味ではなく、情報として入るということです。相談のタイミングは、進め方が固まってからのほうが扱いやすい場合があります。
一方で、債務が大きい場合や保証の整理が論点になる場合は、金融機関を早い段階で巻き込まないと話が進みません。どちらが先かは、借入と保証の状況で決まります。
顧問税理士は最初の相談相手になりやすい
顧問税理士は、決算の中身と株主構成を知っています。譲渡した場合の税負担の見通しや、自社株の評価が高くなっている場合の論点を扱えるので、最初に話す相手として自然です。相続の相談を受けていることも多く、承継全体の文脈を把握している場合があります。
ただし、M&Aの相手探しや条件交渉は税理士の業務の範囲外です。税理士がM&Aの事業者を紹介する形になることが多く、その紹介に関する取り決めは事務所ごとに違います。紹介を受ける場合、顧問料と紹介の関係がどうなっているかを確かめておくと、後で気持ちが揺れません。
なお、税務の扱いは制度の改正で変わります。譲渡益の課税や事業承継税制の期限は年によって前提が動くので、具体的な数字は必ずその時点で税理士に確認してください。
公的機関と、譲渡先を探すプラットフォーム
各都道府県に事業承継・引継ぎ支援センターがあります。相談に費用がかからない形で運営されており、特定の取引に誘導する立場ではないので、「やめるか続けるか決めていない」段階でも使えます。譲り渡し・譲り受けの登録制度を案内する役割も持っています。
民間のプラットフォームは、案件情報を掲載して買い手を探す形です。自分で進める部分が多いぶん費用が抑えられる形が多く、一方で交渉や契約の実務は自分か別の専門家が担うことになります。
商工会議所・商工会、よろず支援拠点も入口になります。これらは整理の段階に向く相手で、実行の段階では別の相手が必要になる、という整理で考えると分かりやすくなります。
同じ会社でも、聞く部署で答えが変わる
相談先を選ぶとき見落としやすいのが、同じ組織の中でも窓口によって扱いが違うことです。金融機関であれば、融資の担当者とM&Aを扱う部署は別で、見ている指標も違います。融資の担当者は返済の確実性を見ますが、M&Aの部署は取引の成立を見ます。
仲介会社でも、最初に説明する担当と、実際に案件を進める担当が別のことがあります。説明の段階で聞いた進め方が、担当が替わった後も同じとは限りません。「最後まで同じ人が付くのか」を最初に確かめておくと、後の食い違いが減ります。
税理士事務所も同じで、担当者が決算を見ている人と、承継の相談に対応する人で分かれる場合があります。どの立場の人に話しているのかを把握しておくと、返ってきた助言の範囲が分かります。
相談先の数を増やすこと自体は悪いことではありません。ただ、増やすほど、自分の情報が広がります。どの相手にどこまで話したかを記録しておくと、秘密の管理がしやすくなります。
相談先を選ぶときに確かめる5つのこと
どの相手に当たるにしても、最初に確かめておくことは共通しています。
- 立場。両者の間に立つのか、自分の側に立つのか。
- 費用の全体。いつ、どの名目で、いくら発生するのか。成約しなかった場合に何が残るのか。
- 契約の縛り。他に相談してはいけない期間があるか、解約したときに何が残るか。
- 秘密の扱い。誰に、どの段階で、何を伝えるのか。会社名を出す前に承諾を取る形になっているか。
- 担当者が最後まで付くか。入口の説明をした人と、実際に進める人が同じかどうか。
この5つは、相手の種類にかかわらず聞けます。答えが曖昧な項目があれば、そこが後で揉める場所になります。