創業から三年、五年といった会社でも、譲渡は行われています。長く続いている会社だけが対象というわけではありません。

ただし、買い手の見方は変わります。実績の期間が短いぶん、これまでの数字から将来を読む材料が少ないためです。本稿では、買い手が何を見るのか、評価がどう決まるのか、整えておけることを整理します。

買い手が実績の短さをどう見るか

決算が三期分しかなければ、売上が伸びているのか、たまたま良い年だったのかの判断がつきにくくなります。

そこで買い手は、数字そのものより数字が出ている理由を見ます。どういう顧客が、なぜ買っているのか。その理由が続くのか。

理由が明確な会社は、実績が短くても評価されます。特定の技術がある、許認可を持っている、他社がやっていない商流を押さえている——こうした理由は、期間の長さとは別のものです。

逆に、理由が「創業者の人脈」だけである場合、買い手は慎重になります。創業者が抜けたあとに売上が残るかどうかが読めません。

評価の仕組み

実績が短い会社では、利益を基準にした評価が使いにくいことがあります。基準になる利益が一期分しかなければ、それが平年なのか分かりません。

代わりに使われるのは、資産を基準にした評価や、将来の計画を基準にした評価です。後者は買い手が計画をどこまで信じるかによるため、幅が大きくなります。

また、買い手にとっての価値で決まる部分が大きくなります。自社の事業と組み合わせたときに生まれる効果を見込む買い手であれば、実績の短さは問題になりません。

複数の買い手に当てると、評価の幅が見えます。実績が短い会社ほど、相手による評価の差が大きくなります。

創業者が残るかどうか

実績の短い会社では、創業者が残るかどうかが大きな論点になります。

会社の仕組みがまだ創業者に集まっていることが多く、抜けると回らなくなる心配があります。買い手は、一定期間残ってもらうことを条件にすることがあります。

残る形にはいくつかあります。役員として残る、顧問として残る、株式の一部を持ったまま経営を続ける。どの形でも、残る期間と役割を契約に書きます。

残りたくない事情がある場合は、早めに伝えます。後から言うと、買い手は前提が変わったと受け取ります。残れない理由があるなら、代わりに引き継げる人を社内に育てる時間を取る形もあります。

整えておけること

実績の短さは変えられませんが、見られ方は変えられます。相談の段階から始められます。

顧客が買う理由を言葉にする。創業者の頭の中にあるものを書き出します。誰が、何のために、いくらで買っているのか。これが書けると、買い手は将来を読めます。

契約書を整える。口約束で続いている取引を、書面にしておきます。期間の短い会社では、契約書がないことが多くあります。

知的財産を会社の名義にする。商標や特許、ソフトウェアの権利が創業者個人の名義になっていることがあります。譲渡の前に整理が必要です。

創業者以外が担える部分を増やす。数か月かけて引き継いでおくと、依存が薄まります。

整えた記録は、譲渡しない場合にも使えます。顧客が買う理由を書き出す作業は、社内の誰かに引き継ぐときの資料になります。無駄にはなりません。

資金調達をしている場合

外部から出資を受けている会社では、株主が複数になっています。この場合、譲渡には株主の合意が必要です。

出資のときの契約に、譲渡についての取り決めが入っていることがあります。他の株主の同意が必要、先に買い取る権利がある、といった条項です。先に契約書を確かめます。

また、出資を受けたときの評価額が、いまの譲渡の価格より高いことがあります。この場合、出資した側が譲渡に反対することがあります。

株主が複数いる会社の譲渡は、手続きが増えます。早い段階で株主の構成と契約の内容を整理しておくと、進め方が見えます。

時期の考え方

実績が短い会社では、いつ譲渡するかの判断が難しくなります。もう少し実績を積んでからのほうが評価が上がる可能性があり、一方で待つあいだに状況が変わる可能性もあります。

判断の材料になるのは、次の点です。いまの伸びが続く見込みがあるか。資金が足りているか。創業者が続ける意欲があるか。市場の環境が変わりそうか。

伸びている途中で売る形は、買い手にとって魅力があります。伸びが止まってから売ると、評価は下がります。

ただし、伸びの途中は創業者も忙しく、譲渡の検討に時間を取れないことがあります。本業と並行して進められるかも、時期を決める要素になります。

判断に迷うときは、両方の見通しを並べて見るのが早道です。

相談のときに持ってくるもの

創業から数年の会社のご相談では、次の資料があると見通しが出しやすくなります。

これまでの決算書と申告書。期間が短くても、あるだけお持ちください。

株主の構成。出資を受けている場合は、そのときの契約書も必要です。

主要な顧客との契約または取引の記録。契約書がなければ、請求書の控えで構いません。

商標や特許などの権利の名義が分かるもの。

直近の資金の状況。月々の入出金が分かる形であれば十分です。

売るかどうかを決めていない段階でもご相談いただけます。いまの会社がどう見られるかを知っておくと、続ける判断にも使えます。

なお、ここに書いたのは一般的な整理です。個別の判断は会社の事情によって変わりますので、税務・法務の点は税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.見つかることがあります。買い手が見るのは期間の長さではなく、数字が出ている理由です。技術や許認可、押さえている商流といった理由が明確であれば、実績が短くても検討されます。
A.買い手の条件によります。実績が短い会社では、一定期間残ることを求められることが多くあります。残れない事情がある場合は、早めに伝えて進め方を調整してください。
A.できますが、株主の合意が必要です。出資のときの契約に譲渡についての取り決めが入っていることがあるので、先に契約書を確かめてください。

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相談の内容が外に出ることはありません。売るかどうかを決めていない段階でも構いません。手元の資料だけで、おおよその見通しをお伝えできます。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら