居宅介護支援事業所の価値は、設備でも建物でもなくケアマネジャーという人そのものにあります。人が動けば事業も動く。この単純な構造が、承継の設計を決めます。
居宅介護支援事業所を取り巻く承継の環境
在宅の介護を支える要でありながら、介護支援専門員の確保が全国的に厳しくなっています。資格の取得には実務経験が要り、すぐに増やせるものではありません。
単独で運営する事業所ほど、一人の退職が事業の継続に直結します。管理者の高齢化や、人員の減少を機に、他の法人へ託す例が続いています。買い手にとっては、有資格者と利用者をまとめて得られる数少ない機会です。
管理者の要件が、承継の前提になる
この事業では、管理者に主任介護支援専門員であることが求められる取り扱いがあります。主任の資格は、一定の実務経験と研修の修了を経て得られるもので、代わりの人をすぐに立てられません。
経営者が管理者を兼ねている場合、退任すれば要件を欠くおそれがあります。承継では「誰が管理者になるか」を、譲渡条件と同じ重さで決める必要があります。買い手に主任の資格を持つ人材がいるかどうかが、相手選びの条件にもなります。要件の詳細は所管の自治体にご確認ください。
スキームによる指定の扱い
会社ごと引き継ぐ株式譲渡であれば、指定は同じ法人に帰属したまま維持されるのが原則です。役員や管理者の変更に伴う届出は必要ですが、利用者の担当が変わらずに済みます。
事業譲渡で事業所だけを移す場合は、譲受側で改めて指定を受けることが原則となります。その場合、利用者との契約も結び直すことになり、この機会に他の事業所へ移る方が出る可能性があります。
利用者数と、担当の持ち件数
買い手が確認するのは、利用者の総数、ケアマネジャー一人あたりの担当件数、要介護度の分布です。介護報酬は担当件数に応じた設計になっているため、持ち件数が採算を直接決めます。
あわせて、利用者がどこから来ているか(病院からの退院時の紹介、地域包括支援センター、自法人の他事業)も見られます。紹介の経路が特定の先に偏っている場合、承継後もその関係が続くかが論点になります。
ケアマネジャーが残るかどうか
この事業で最も重要な確認事項です。利用者はケアマネジャー個人を信頼しているため、担当者が替われば、別の事業所へ移ることを選ぶ方もいます。
買い手が知りたいのは、在籍するケアマネジャーの人数、勤続年数、主任資格の有無、そして承継後も残る見込みがあるかです。処遇をどう設計するかは、条件交渉の重要な一部になります。従業員への伝え方も慎重な設計が要りますので、早い段階からご相談ください。
自法人のサービスとの関係
訪問介護やデイサービスを同じ法人で運営している場合、ケアプランで自法人のサービスをどれだけ使っているかが確認されます。集中割合が高いと、報酬上の取り扱いに影響する場合があります。
買い手にとっては、居宅介護支援事業所を持つことが他のサービスの利用につながるという面もあり、これが買収の動機になることもあります。ただし、公正な運営が前提です。割合の推移を整理しておいてください。
事務所と、運営のコスト
居宅介護支援事業所は、大きな設備を必要としません。事務所と、訪問のための車両や自転車、そして記録のためのシステム。固定費が軽いぶん、人件費が費用のほとんどを占めます。
買い手が確認するのは、事務所が賃借か、他の事業所と併設しているか、そして介護支援専門員が使っているシステムの契約条件です。併設している場合は、承継の範囲をどこで区切るかが論点になります。
記録と、実地指導への備え
ケアプラン、モニタリングの記録、サービス担当者会議の記録。この分野では書類の整備そのものが業務の質とみなされます。実地指導で確認されるのも、多くはこの記録です。
買い手は、記録が法令どおりに整えられているか、過去の指摘と改善の履歴を確認します。整理されていれば、それだけで運営の質が伝わります。
価値を下げてしまう要因
- 主任介護支援専門員の後任が想定されていない
- ケアマネジャーの退職が続いている
- 一人あたりの担当件数が低いまま
- 紹介経路が一つに偏っている
- 実地指導の指摘と改善の記録が残っていない
売却を考え始めたら、先に整えておきたいこと
- 主任資格を持つ人を確保・育成する
- 利用者数・担当件数・要介護度の分布を数期分整理する
- 紹介経路別の新規獲得件数をまとめる
- ケアマネジャーの在籍状況と資格を一覧にする
- 実地指導の履歴を整理する
介護分野全般は「介護事業のM&A」もあわせてご覧ください。
まとめ
居宅介護支援事業所の承継では、管理者の要件・ケアマネジャーの定着・担当件数・紹介の経路が柱になります。人がすべてと言ってよい事業です。
利用者にとって、担当のケアマネジャーが替わることは大きな変化です。人が残る形で引き継ぐことが、この分野の承継で最も大切になります。
本稿の内容は執筆時点(2026年9月)の一般的な整理です。許認可・税務・法務の取り扱いは個別の事情により異なりますので、具体的な検討にあたっては所管官庁および税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。