本稿は、経営者の方ではなくM&A仲介の実務者、およびこれから仲介会社で働こうとしている方に向けた実務教材です。受託は、案件が動き出す起点であると同時に、仲介者としての説明責任が最も重く問われる場面です。特に専任契約は、オーナーの選択肢を一定期間制約する契約ですから、内容を理解しないまま署名をもらうようなことがあってはなりません。本稿では、専任と非専任の違い、契約書で必ず説明すべき条項、ガイドラインが求める事項、そして料金の伝え方を整理します。受託するかどうかの判断そのものは「受託するかどうかの判断基準」を参照してください。

専任・非専任とは何が違うのか

言葉の整理から始めます。専任(専任媒介・専任仲介)は、契約期間中、依頼者が他の支援機関に同じ案件を依頼しないことを約する形態です。非専任は、複数の支援機関に並行して依頼できる形態を指します。呼称は会社によって異なりますが、実質的な違いは「他社に同時に頼めるかどうか」の一点です。

加えて実務では、次の点も併せて確認します。

  • 直接交渉の可否:依頼者が仲介者を通さずに買い手候補と直接交渉することを制限する条項があるか
  • 自ら発見した相手方の扱い:オーナー自身が見つけてきた相手と成約した場合に報酬が発生するか
  • 契約期間と更新:期間の長さ、自動更新の有無、更新時の再説明
  • 解除の条件:いつ、どのような手続きで解除できるか。違約金の有無
  • テール条項:契約終了後の一定期間内に、紹介済みの相手と成約した場合に報酬が発生する定め

ここで押さえておきたいのは、専任か非専任かという二択より、これらの条項の組み合わせで実質的な拘束の強さが決まるということです。「非専任だから自由です」と説明しておいて、直接交渉の禁止と長いテール条項が入っていれば、説明として不誠実です。

それぞれの長所と短所を、正直に説明する

受託を取りたい気持ちから、専任の長所だけを並べたくなります。しかしオーナーは後で必ず比較します。最初に両面を説明したほうが、結果的に信頼されます。

依頼者から見た長所依頼者から見た短所
専任窓口が一つで負担が少ない。情報の管理範囲が限定され漏洩リスクが下がる。支援機関が腰を据えて動くその支援機関の力量と買い手網に結果が左右される。期間中は他社に頼めない
非専任複数のルートに同時に当たれる。比較しながら進められる同じ会社の情報が複数経路で市場に出て、特定される危険が高まる。買い手側に「あちこちに出ている案件」と見られることがある。窓口が複数で依頼者の負担が増える

特に非専任の短所として実務上大きいのが、情報が広がることによる特定リスクです。ノンネームシートが複数のルートで同じ買い手に届くと、それだけで「同じ会社だ」と推測されます。中小企業の譲渡において、噂が立つことの損失は金額に換算しにくいだけに重い。この点はオーナーに具体的に説明してください。

どちらが正しいという話ではありません。オーナーの状況——時間の余裕、社内の情報管理体制、支援機関との関係——によって適切な形は変わります。選ぶのはオーナーであり、こちらは判断材料を過不足なく出す。これが受託時の基本姿勢です。

仲介契約書で必ず説明する条項

契約書を渡して「ご確認ください」で終わらせないでください。次の条項は、口頭で内容を説明し、質問を受ける時間を取ります。

  • 業務の範囲:何をして、何をしないか。仲介者は当事者の代理人ではなく、法務・税務の判断は専門家に委ねること
  • 報酬の体系と発生時期:後述
  • 専任・非専任と直接交渉の扱い:前述の組み合わせを具体例で説明する
  • テール条項:対象となる相手方の範囲(紹介した先に限る等)、期間、報酬の額。ここは特に丁寧に。詳しい解説は「テール条項とは」を参照
  • 契約期間・更新・解除:途中でやめたくなったときにどうなるかは、オーナーが最も気にする点です
  • 秘密保持:情報の取り扱い範囲、契約終了後の資料の返却・廃棄
  • 免責と責任:成約を保証するものではないこと
  • 利益相反:仲介形態であること、双方から報酬を受ける可能性があること、その場合の対応

説明した事実は記録に残してください。日付、場所、説明した項目、質問と回答。数年後に争いになったとき、記録の有無が決定的な差になります。契約類型の全体像は「M&A仲介契約の種類と注意点」にまとめています。

中小M&Aガイドライン第3版が求める説明事項

中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)は、仲介者・FAに対して、契約締結前の説明と書面交付を求めています。実務上、少なくとも次を押さえてください。

  • 仲介者としての立場(売り手・買い手双方の間に立つこと)と、利益相反のおそれがある事項の明示
  • 手数料の体系、算定方法、発生の時期を、依頼者が理解できる形で説明すること
  • 専任条項・テール条項など、依頼者を制約する条項の内容と期間の明示
  • 他の支援機関へのセカンドオピニオンを求めることを不当に制限しないこと
  • 秘密保持の取り扱いと、契約終了時の情報の扱い

形式的に書面を渡せば足りるという話ではありません。相手が理解したかどうかまでが説明責任の射程だと考えてください。当社では、料金の説明の際に必ず具体的な金額例を紙に書いて示します。率だけを口頭で言われても、経営者は自社の場合の金額をその場で計算できません。ガイドライン対応の実務は「中小M&Aガイドライン第3版の実務対応」に整理しました。

料金の説明|当社の体系をどう伝えるか

当社の料金体系は次のとおりです。受託の場では、この内容を順に、金額例つきで説明します。

  • 相談料・着手金・月額報酬:0円
  • 中間金:基本合意の時点で、成功報酬額の10%。成功報酬から全額を差し引きます。基本合意後に成立に至らなかった場合も返金しません。この点は必ず明示してください
  • 成功報酬:移動総資産レーマン方式。基準額は株式価値(譲渡対価)+負債総額で、最低報酬額は2,000万円(税別)です
  • 料率:基準額に対し、5億円以下の部分5%、5億円超10億円以下4%、10億円超50億円以下3%、50億円超100億円以下2%、100億円超1%を段階的に適用します

金額例を示すと理解が早まります。株式価値1.5億円・負債1億円なら基準額2.5億円で計算上1,250万円ですが、最低報酬額により2,000万円、うち中間金200万円・成約時1,800万円。株式価値3億円・負債2億円なら基準額5億円で2,500万円、中間金250万円・成約時2,250万円。株式価値7億円・負債3億円なら基準額10億円で4,500万円、中間金450万円・成約時4,050万円となります。

説明上の注意を二つ。ひとつは、「完全」を冠した成功報酬の表現を使わないこと。中間金がある以上、その言い方は実態と異なり、誤認を招きます。当社は「成功報酬型」と表現します。もうひとつは、レーマン方式には基準額の取り方に複数の考え方があり、当社は移動総資産を基準としていると正確に伝えることです。方式の違いは「レーマン方式の種類」で中立的に解説していますので、比較検討したいというオーナーには案内してください。他社との優劣を語る必要はありません。自社の体系を正確に伝えれば足ります。

本稿は仲介実務の一般的な型を解説するものであり、個別案件における法的・税務的判断は、弁護士・税理士等の専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.長所と短所を両方示し、選択はオーナーに委ねることです。専任には窓口の一本化と情報管理の面での利点がありますが、その支援機関の力量に結果が左右されるという短所もあります。両面を示したうえで、当社であれば具体的にどう進めるかを説明する。短所を隠して受託した契約は、途中で必ず不信につながります。
A.支援機関が紹介した相手と、契約終了直後に依頼者が直接成約することを防ぐための条項で、一定の合理性があります。ただし対象となる相手方の範囲が広すぎたり、期間が長すぎたりすれば依頼者の不利益は大きくなります。対象は実際に紹介した先に限る、期間は合理的な範囲にとどめる、といった設計にしたうえで、内容と期間を明確に説明してください。
A.中間金がある以上、「完全」を冠した成功報酬の表現は用いません。当社は「成功報酬型」と表現し、中間金が基本合意時に発生し成功報酬から差し引かれること、基本合意後に成立しなかった場合も返金しないことを明示します。またレーマン方式は基準額の取り方が複数あるため、当社が移動総資産(株式価値+負債総額)を基準としていることを正確に伝えてください。

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説明できるアドバイザーが、信頼される。

プラチナパートナーズでは、契約内容と料金を自分の言葉で説明できるアドバイザーを育てています。受託から成約までの実務を、一件ごとに一緒に確認します。
経営者の方のご相談は、無料相談フォーム(またはinfo@platinumpartners.jp)から承ります。

Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら