本稿は、経営者の方ではなくM&A仲介の実務者、およびこれから仲介会社で働こうとしている方に向けた実務教材です。M&Aの情報が外に漏れて困るのは、仲介会社ではなく譲渡を検討する会社です。従業員が不安になり、取引先が距離を置き、金融機関の見方が変わる。いずれも、譲渡が実現するかどうかとは無関係に起きてしまいます。そして漏れる経路のかなりの部分は、初期の面談まわりにあります。どこで会い、誰が同席し、どの手段で連絡するか。本稿では、初期接点を情報管理の観点から設計する方法を整理します。

初期接点は、情報管理の第一関門

まず、何がどう漏れるのかを具体的に想像してください。よくある経路は次のとおりです。

  • 見慣れない来客が続き、社内で憶測が広がる
  • 会議室に置かれた資料や、机上の名刺が目に入る
  • 会社の代表宛の連絡を、経理や総務が取り次ぐ
  • 移動中や飲食店での会話が、関係者に聞かれる
  • メールの誤送信、共有フォルダの権限設定の誤り

どれも高度な情報漏えいではなく、段取りの不足です。裏を返せば、段取りで防げます。打診の順番を含む情報管理の全体像は「打診の順番をどう決めるか」も参照してください。

もう一つ押さえておきたいのは、漏れたときに困るのは当社ではなく譲渡企業だという点です。仲介者にとっては一件の案件でも、経営者にとっては従業員の生活と、長年の取引関係がかかっています。だから段取りは、こちらの都合(移動時間、効率)より、相手の事情を優先して組みます。この優先順位を最初に決めておけば、迷う場面はほとんどなくなります。

場所の選び方|それぞれの利点と注意

場所は、こちらが決めるものではなく、経営者に選んでいただくものです。そのために、選択肢と注意点を並べてお示しします。

場所利点注意すること
対象会社の事務所現場や雰囲気が分かる。移動の負担がない来客が社内の目に触れる。資料の置き場所に注意
当社のオフィス社内の目に触れない。資料を安全に扱える経営者に移動の負担がかかる
外部の貸会議室双方に中立。個室が確保できる予約名義に配慮する。備品の忘れ物に注意
オンライン移動が不要。短時間の相談に向く周囲に人がいないか。画面共有と録画の扱い
ご自宅・その他ご本人が最も落ち着ける場合があるご家族の同席が前提になることを確認する

会社を訪問する場合、訪問の名目をどう扱うかは、必ずご本人に決めていただきます。こちらから社内向けの説明を作って差し上げるようなことはしません。会社の内部にどう伝えるかは経営者の領分であり、外部の人間が肩代わりする事柄ではないからです。

同席者は、増やさないことから考える

同席者の判断は、二つの問いで整理できます。この人が知ることで、判断は前に進むか。知る人が増えることの影響を、本人は理解しているか。

  • 社内の方:初期は原則として経営者のみ。番頭格の幹部を入れるかは、社内で知る人を増やす判断そのものなので、ご本人に決めていただきます
  • ご家族:株主であれば、いずれ意向確認が必要です。ただし意見が割れている場合は、同席が本音の障害になることもあります
  • 顧問の先生:同席いただけると論点整理は速く進みます。当社は税務顧問業務を行わず、成約後も顧問契約は先生に残る前提ですので、役割を奪わない進め方を最初にお伝えします
  • 当社側の人数:初回から複数名で伺うと、相手に構えを生みます。原則は少人数、記録係を入れる場合も事前にお伝えします

本人以外の方が相談の入口になっている場合の扱いは「相談者が経営者本人でないとき」で詳しく扱っています。士業の方との役割分担は士業・金融機関の方向けのご案内もご覧ください。

同席者が増えた場合は、面談の進め方も変えます。全員に同じ説明をしてから、経営者の方とだけ短い時間を取る。あるいは、日を分けて別々に伺う。同席者がいる場では話せないことが必ずあるという前提で組み立ててください。人数が増えるほど、本音が出る場を別に用意する必要が出てきます。

連絡手段と、持ち物の設計

面談の前後の連絡も、同じ設計の対象です。

  • 連絡先はご本人が指定した経路に限る:会社の代表宛の連絡は、取り次ぎの過程で必ず人の目に触れます。ご本人が使いやすい経路を最初に確認します
  • 会社名を出すかどうかを決めておく:こちらの社名を出してよいか、出さないほうがよいかを、事前に確認しておきます
  • 資料は必要最小限だけ持参する:過去の案件の資料を同じ鞄に入れて持ち歩かない。他社の情報が目に触れることは、それ自体が信用の失点です
  • メールの宛先は送信前に音読する:似た名字の誤送信は、実際に起こります
  • ファイルの共有範囲を都度確かめる:共有リンクの権限設定は、作ったときではなく送る直前に確認します

受領した資料の保管と版管理は「受領資料の整理術」に整理しています。

オンライン面談でとくに気をつけること

オンラインは移動の負担がなく、初期の相談では有効です。ただし固有の注意があります。

場面確かめること
開始時周囲に人がいないか。ご本人が話しやすい環境か
画面共有共有するウィンドウを限定する。通知が画面に出ない設定にする
録画原則として行わない。行う場合は目的と保管期間を説明し、承諾を得る
資料の送付宛先と権限を送信直前に確認する。不要になった共有は速やかに閉じる
終了時次の一歩と宿題を口頭で確認し、当日中に文字で返す

オンラインでは、相手の表情から読み取れる情報が減ります。伺った内容をその場で読み上げて確認する手順を、対面以上に丁寧に踏んでください。秘密保持の説明の型は「初回面談で秘密保持をどう説明するか」に整理しています。

本稿は仲介実務の一般的な型を解説するものであり、個別案件における税務・法務・労務の具体的な適用は、税理士・弁護士・社会保険労務士等の専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.現場が分かる利点はありますが、社内の目に触れる負担もあります。どこで行うかは経営者の方に決めていただくのが原則で、そのために場所ごとの利点と注意点を先に並べてお示しします。
A.こちらから社内向けの説明を作ることはしません。会社の内部にどう伝えるかは経営者の領分です。必要であれば、情報が広がる経路と時期のご相談には応じます。
A.進む面はありますが、社内で知る人を増やす判断そのものです。誰まで知るのかは、影響を踏まえてご本人に決めていただきます。初期は経営者の方のみで伺うことが多いです。
A.原則として行いません。記録が必要な場合は、目的と保管期間をご説明したうえで承諾をいただきます。伺った内容は、その場で読み上げて確認し、当日中に文字でお返しします。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら