面談の終わりに、経営者からこう言われることがあります。「他社にも話を聞いてみたいのですが」。このとき、実務者の姿勢がはっきり出ます。引き止めるのか、送り出すのか。本稿では、セカンドオピニオンの申し出をどう受け止めるか、囲い込みがなぜ依頼者の利益を損なうのか、比較の材料をどう揃えるかを整理します。当社の募集要項は採用情報をご覧ください。

「他社にも聞きたい」は、健全な申し出である

会社の譲渡は、多くの経営者にとって人生で一度の意思決定です。何十年も続けた会社、家族の生活、従業員の雇用がかかっています。その判断にあたって複数の意見を聞きたいと考えるのは、当然のことです。

仕入先を一社だけ見て決める経営者はいません。設備投資でも、融資でも、複数を比べてから決めます。M&Aの支援機関だけが例外である理由はありません。

実務者の側に生じる感情は分かります。時間をかけて関係をつくり、資料も作った。ここで他社に流れたらどうしよう、という不安です。ただ、その不安はこちらの都合であって、依頼者の利益とは関係がありません。

むしろ、比較を経て選ばれた依頼のほうが、その後が安定します。比べたうえで決めた人は、途中で迷ったときに自分の判断に戻れます。比べずに決めた人は、後から別の情報に触れるたびに揺れます。長い案件ほど、入口での納得が効いてきます。

やってはいけない反応

次の反応は、その場では依頼をつなぎ止めるように見えて、依頼者の判断を歪めます。

やってはいけない反応なぜ問題か
他社の批判を始める依頼者は比較の材料ではなく、業界への不信を持ち帰る。自社の評価も下がる
「今決めないと機会を逃す」と急がせる存在しない期限で判断を迫ることになり、後から必ず問題になる
不安を強める言い方をする恐怖で動いた決断は、後で覆る。従業員や家族に説明できない
相談したことを責める以後、依頼者は本当のことを言わなくなる。案件の情報が入らなくなる
比較に必要な情報を出し渋る比較を妨げること自体が、自社の説明に自信がないという表明になる

特に急がせることの害は大きいものです。M&Aは検討から成約まで数か月から1年かかります。数日の判断の遅れが決定的な差になる場面は、実際にはほとんどありません。「今すぐ」を持ち出す説明は、たいてい説明する側の事情から出ています。

当社は、ご契約やご決断を急がせないことを方針として明示しています。この方針は、依頼者のためであると同時に、こちらが説明の質で選ばれるための規律でもあります。

専任契約との関係を、正しく説明する

ここで誤解が生まれやすいのが、専任契約との関係です。

専任・専属の条項は、買い手候補への打診の窓口を一本化するためのものです。複数の支援機関が同じ会社を別々に打診すると、同じ買い手に別ルートから情報が届き、社名が推測されやすくなります。譲渡企業の従業員や取引先に話が漏れれば、会社の日常に直接影響します。窓口を絞るのは、この事故を防ぐためです。

一方で、依頼者が他の専門家の意見を聞くこと自体は、別の話です。顧問税理士に相談する、弁護士に契約書を見てもらう、他の支援機関の説明を聞く。これらを封じる必要はありません。

ただし、実際にどこまでが制限されるかは締結した契約書の条項によります。条項の解釈は個別性が高いため、具体的な適用は弁護士にご確認ください。実務者としては、次を守ります。

  • 専任条項が何のためにあるのかを、受託時に自分の言葉で説明する
  • 制限される範囲と、されない範囲を分けて伝える
  • 期間・解約の条件を明記し、こちらから確認する
  • 「専任だから他には相談できません」という乱暴な言い方をしない

専任と非専任の違いそのものは「専任と非専任の違い」に整理しています。

比較の材料を、こちらから揃える

他社に相談すると言われたら、引き止めるのではなく、比較しやすい材料を渡します。ここで差が出ます。

渡すべきものは次のとおりです。

  • 手数料の全額——相談料・着手金・月額報酬・中間金・成功報酬の全部。計算の基準額も
  • 成立しなかった場合に何が残るか——ここを開かない説明は比較になりません
  • 誰が担当するか——受託後に担当が替わるのか、一気通貫か
  • 契約の形態——仲介か、一方のみの助言者か
  • 専任条項の有無・期間・解約条件

当社の場合は、相談料・着手金・月額報酬はいただいていません。基本合意の時点で成功報酬額の10%を中間金としてお支払いいただき、この中間金は成功報酬から全額差し引きますが、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。成功報酬は移動総資産レーマン方式で最低額は2,000万円(税別)、基準額は株式価値(譲渡対価)に負債総額を加えた額です。数字は料金体系に掲載しており、計算機も置いています。

不利な条件も含めて開くことが、比較の材料を渡すということです。有利な点だけを並べた資料は比較に使えず、渡された側も見抜きます。

選ばれたとき、選ばれなかったとき

比較の結果は二つに分かれます。どちらも、その後の振る舞いが問われます。

選ばれたときは、なぜ選んだのかを聞かせていただきます。費用か、担当者か、進め方か。その理由は、そのまま期待値です。期待の中身が分かれば、どこを外してはいけないかが分かります。期待のすり合わせについては「期待値調整の技術」に整理があります。

選ばれなかったときは、引き際を整えます。資料をお返しし、お預かりした情報の取り扱いを説明し、うまくいくことをお伝えして終えます。恨み言を残さない。数年後、別の局面で相談が戻ってくることは珍しくありません。

また、選ばれなかった理由は自社の課題として持ち帰ります。説明の順序が悪かったのか、材料が足りなかったのか、費用の見え方か。比較で負けた理由は、次の依頼者への説明を良くする材料です。

断られた後の対応は「断られた後の対応」にも整理しています。

まとめ|比較されて困る説明は、説明のほうを直す

要点を整理します。

  • 複数の意見を聞きたいという申し出は健全。比較を経た依頼のほうが、その後が安定する
  • 他社の批判・急がせる・不安を強める・責める・情報を出し渋る、はいずれも依頼者の判断を歪める
  • 専任条項は打診窓口の一本化が目的。相談や意見聴取まで封じる言い方をしない(条項の解釈は弁護士に確認)
  • 比較の材料をこちらから揃える。手数料の全額と、成立しなかった場合に何が残るかを開く
  • 選ばれた理由は期待値、選ばれなかった理由は自社の課題として持ち帰る

当社は他社へのセカンドオピニオンを制限していません。選考については採用情報をご覧ください。

よくあるご質問

A.失うことはあります。ただ、比較を妨げて得た依頼は、途中で必ず揺れます。比較の材料をこちらから揃えて選ばれた依頼のほうが、長い工程を通じて安定します。選ばれなかった理由は、次の説明を良くする材料として持ち帰ってください。
A.専任条項は買い手候補への打診窓口を一本化するためのもので、顧問税理士や弁護士への相談まで封じるものではないのが一般的な整理です。ただし、実際にどこまで制限されるかは締結した契約書の条項によりますので、具体的な適用は弁護士にご確認ください。
A.手数料の全額(相談料・着手金・月額報酬・中間金・成功報酬と、その計算基準)、成立しなかった場合に何が残るか、誰が担当するか、契約の形態、専任条項の有無と期間です。不利な条件も含めて開いたものだけが、比較の材料になります。
A.制度の適用期限や、買い手側の事情で期限が決まっている場面はあります。その場合は期限の根拠を具体的に示してください。根拠を示せない「今すぐ」は、説明する側の事情から出ています。

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他社と比べたうえで、お選びください。

当社はセカンドオピニオンを制限していません。費用は料金体系に全額を掲載しています。
ご契約やご決断を急がせることはありません。お問い合わせはメール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら