初回の面談で確かめたい項目は多くあります。株主の構成、決算の内容、借入と保証、許認可、譲渡の理由、家族の意向、希望する時期。全部を一度で聞こうとすると、二時間でも足りません。
そして、全部を一度で聞くのは、むしろ逆効果になることがあります。初対面で踏み込んだことを次々に聞かれると、売り手は構えます。本稿では、分けて聞く形の組み方を整理します。
初回で必ず聞く項目を絞る
初回で聞いておきたいのは、この先進められるかどうかを判断できる最小限です。
株主が誰か。本人が全株を持っているのか、分散しているのか。分散しているなら集約の見通しがあるか。
なぜ譲渡を考えているか。理由によって、進め方も相手の探し方も変わります。
いつまでに、という希望があるか。期限がある場合、その事情を聞きます。
家族に話しているか。話していない場合、いつ話すつもりか。
この四つが分かれば、受託するかどうかの判断に入れます。決算の細部は、次の面談で足ります。
初回で聞かないほうがよいこと
初回で聞くと構えられる項目があります。急がなくてよいものは、次に回します。
社長個人の資産の状況。会社の話をしに来た相手に、個人の資産を聞かれると警戒されます。
従業員の処遇への不満。あとで必要になりますが、初回で聞くと社内の話を探られている印象になります。
過去の係争や行政からの指導。聞き方を工夫しないと、疑われていると受け取られます。
希望する金額。初回で聞くと、「いくらで売れるか」の話に全体が引っ張られます。先に会社のことを聞いてから、金額の話に入る順のほうが落ち着いて進みます。
持ち帰る項目を整理する
面談が終わったら、聞けなかった項目を一覧にします。この一覧が、次の面談の内容になります。
整理の仕方は、売り手に調べてもらう項目と、自分で調べられる項目に分けます。
売り手に調べてもらうのは、株主名簿の現物、許認可の有効期限、借入の残高、保証の有無。社内の資料を見ないと分からないものです。
自分で調べられるのは、登記簿の記載、公開されている業界の情報、同業の動向。面談の前に済ませておけるものです。
この分け方をしておくと、次の面談で「調べてきました」と言えます。売り手は、自分のために時間を使ってくれたと受け取ります。
整理した一覧は、売り手にも渡します。何が残っているかが見えると、売り手の側も準備を進めやすくなります。自分だけが持っていると、売り手は「何を待たれているのか」が分からないまま時間を過ごすことになります。
次の面談までにお願いすること
売り手にお願いする項目は、数を絞ります。十個お願いすると、どれも揃わないことがあります。
三つか四つに絞り、なぜそれが必要かを一言添えます。「株主名簿を見せてください」ではなく「どなたが何株お持ちか確かめたいので、株主名簿をお願いします」と伝えます。
揃えるのに時間がかかるものは、そう伝えます。取引先別の売上は、集計したことがない会社では数週間かかります。
また、顧問税理士に頼む必要があるものは、そう伝えます。社長が税理士に連絡するタイミングを考える材料になります。税理士に譲渡の検討を知られたくない場合もあるので、確かめてから依頼します。
面談の間隔
次の面談までの間隔は、短すぎても長すぎてもうまく進みません。
短すぎると、お願いした資料が揃いません。長すぎると、売り手の気持ちが冷めます。
実務では、二週間から一か月のあいだに次を置くことが多くあります。資料の準備にかかる時間を聞いて決めます。
間が空く場合は、その間に一度連絡を入れます。資料の進み具合を聞くのではなく、調べた内容を伝える形にします。「同業の動向を調べたのでお伝えします」という連絡であれば、売り手に負担がありません。
連絡の手段も売り手に合わせます。電話がよい方、メールがよい方、郵送がよい方がいます。初回に確かめておくと、その後のやり取りが滞りません。
間が空いてしまったとき
売り手の事情で、間が長く空くことがあります。本業が忙しい、体調を崩した、家族と話がついていない。
このときに避けたいのは、催促を重ねることです。急かされると、売り手は相談そのものから離れます。
連絡は入れますが、進捗を聞くのではなく、状況が変わっていないかを確かめる形にします。「その後いかがでしょうか」と一言だけ送る形で足ります。
半年、一年空いてから再開する案件もあります。離れた売り手が戻ってくるのは、急かされなかった相手のところです。
記録を残しておけば、再開のときに前回の内容から続けられます。一から聞き直すと、売り手は「覚えていない相手」と感じます。
再開のときは、前回の記録を読み返してから連絡します。前に伺った内容を覚えている相手には、売り手は話しやすくなります。
記録の形
面談の記録は、次の面談で使える形にします。箇条書きで足ります。
残しておきたいのは、聞いた内容、聞けなかった項目、売り手にお願いしたこと、次の面談の予定、売り手が気にしていた点。
最後の「気にしていた点」が、あとで効きます。従業員の雇用を繰り返し口にしていた売り手であれば、条件の交渉でそこを守ります。言葉の数は、本人の優先順位を表します。
記録は、担当が替わるときにも使います。自分だけが読める形ではなく、他の人が読んで進められる形にしておきます。
なお、個別の判断は案件の事情によって変わります。法務・税務にまたがる論点は、弁護士・税理士などの専門家に確認してください。