整骨院・接骨院は、地域の患者さんとの信頼関係の上に成り立つ、極めて「人」に依存した事業です。院長の高齢化や体力の限界、あるいは多店舗経営からの撤退・選択と集中など、さまざまな理由で「院を閉めるか、誰かに引き継ぐか」という岐路に立つ経営者様が増えています。廃業すれば、通ってくださった患者さんの行き場も、スタッフの雇用も、内装や機器に投じた資金も失われます。一方、M&A・事業承継という形を取れば、これらを次の担い手に引き継ぐことができます。本稿では、整骨院・接骨院の承継に固有の論点である施術管理者をはじめとする保険施術体制の引き継ぎ、スタッフ・患者基盤の承継を中心に、進め方を整理します。
整骨院・接骨院で承継・売却の相談が増えている背景
柔道整復師の養成校が増えた時期に開業した世代が、順次引退期を迎えつつあります。帝国データバンクの2025年調査では国内企業の後継者不在率は50.1%にのぼりますが、施術所のような小規模事業では、親族や勤務スタッフがそのまま経営を引き継ぐケースはさらに限られるのが実情です。
また、施術所を取り巻く環境の変化も、承継を考えるきっかけになっています。
- 近隣への新規開業が続き、競争環境が厳しくなっている
- 保険施術に関わる事務・適正化への対応負担が年々重くなっている
- 自費メニューの開発やウェブ集客など、経営に求められるスキルが広がっている
一方で買い手側には、多店舗展開を進める治療院グループや、リハビリ・介護・フィットネスなど周辺分野から参入する事業者など、既存の院を「居抜き+スタッフ+患者基盤」ごと引き継ぎたいという需要が存在します。国内のM&A件数が2025年に5,000件超と2年連続で過去最多(レコフデータ)を更新するなか、施術所のような小規模事業の承継も特別なことではなくなりました。小規模案件の考え方は「小規模M&A(スモールM&A)の進め方」でも解説しています。
個人事業か法人か|承継スキームの基本
整骨院・接骨院の承継スキームは、経営主体が個人事業か法人かで大きく変わります。
| 項目 | 個人事業の場合 | 法人の場合 |
|---|---|---|
| 基本スキーム | 事業譲渡(資産・内装・スタッフ・患者基盤を個別に引き継ぐ) | 株式譲渡または事業譲渡 |
| 施術所の開設手続 | 買い手側で開設の届出等をやり直すのが原則 | 株式譲渡なら開設者たる法人は不変(変更届等は必要)。事業譲渡なら個人と同様 |
| 雇用契約 | スタッフごとに転籍の同意が必要 | 株式譲渡ならそのまま継続 |
| 賃貸借契約 | 貸主の承諾を得て名義変更が原則 | 株式譲渡なら原則継続(契約条項の確認は必要) |
複数店舗を法人で運営している場合は、会社ごと引き継ぐ株式譲渡が中心になります。1店舗の個人事業であれば、事業譲渡による「居抜き承継」が現実的です。いずれの場合も、施術所の開設・廃止に関わる届出や保険施術の手続に空白期間を作らないよう、クロージング日をまたいだ段取りを事前に組んでおくことが重要です。スキーム選択や手続の詳細は、事案により異なりますので専門家にご確認ください。全体の流れは「M&Aの流れ|相談から成約までの全ステップ」をご覧ください。
施術管理者・受領委任|保険施術体制の引き継ぎ
整骨院・接骨院のM&Aで最も業種色が濃い論点が、保険施術(療養費)に関わる体制の引き継ぎです。
施術管理者の交代を前提に設計する
柔道整復の施術について健康保険の受領委任の取扱いを受けるには、施術所ごとに要件を満たす施術管理者を置き、所定の手続を行う必要があります。多くの院では院長ご自身が施術管理者を務めているため、承継後は買い手側で要件を満たす柔道整復師を新たな施術管理者として届け出ることが取引の前提になります。施術管理者には実務経験や研修の受講といった要件が設けられており、その内容は制度の見直しで変わることがあります。細かな要件・手続は必ず厚生局や行政書士など専門家に確認してください。
「誰が管理者を引き継ぐか」を早く決める
買い手側に要件を満たす柔道整復師がいなければ、保険施術の継続に支障が生じます。逆に、売り手側の勤務スタッフが要件を満たしているなら、そのスタッフが新体制で施術管理者に就く形も考えられます。後任の施術管理者を誰にするかは、価格交渉と同じくらい早い段階で確認すべき事項です。あわせて、自賠責(交通事故施術)や労災の取扱い、廃止・開設に伴う各種手続も、漏れなくリスト化して引き継ぎます。
受領委任・施術管理者に関する要件や手続は制度改正により変わり得ます。本稿は一般的な考え方の整理であり、個別の要件・届出については厚生局・保険者・専門家に必ずご確認ください。
スタッフ・患者基盤・店舗をどう引き継ぐか
スタッフ|雇用継続の方針を最初に固める
施術スタッフ・受付スタッフの継続勤務は、患者さんの継続来院に直結します。買い手との交渉では、雇用・待遇の継続方針を早期に確認し、最終契約に反映させます。スタッフへの開示は原則として成約後に行い、新体制での役割と処遇をセットで伝えることが、動揺と離職を防ぐ鍵です。伝え方の実務は「M&Aで従業員はどうなる?雇用・待遇と伝え方」で詳しく解説しています。
患者基盤|「院長が代わっても通い続けてもらう」工夫
患者さんは院についているようで、実際は「先生」についていることが多いものです。だからこそ、院長交代を告げる際は、(1)場所もスタッフも変わらないこと、(2)後任の施術者の人柄と技術、(3)引き継ぎ期間中は前院長も一定期間施術に立つこと——を丁寧に伝える設計が効果的です。売り手が数か月間、非常勤で残る形はよく用いられます。
店舗|賃貸借契約と内装・機器
テナント物件の場合、賃貸借契約の承継(または再契約)には貸主の承諾が必要になるのが通常です。承諾が得られるか、賃料条件が変わらないかは、取引の成否を左右するため早めに確認します。内装・施術ベッド・物理療法機器などはリストを作成し、リース契約の有無と名義変更の可否も整理しておきましょう。
買い手は整骨院のどこを評価するのか
整骨院・接骨院の評価では、決算書・確定申告書の数字に加えて、次のような点が見られます。
- 収益構成:保険施術と自費メニューの比率。自費比率の高さは制度変更への耐性として評価されやすい
- 患者基盤:カルテ枚数、月間延べ患者数、新患数とリピート状況
- スタッフ体制:有資格者の人数、施術管理者要件を満たす人材の有無、定着率
- 立地と契約条件:駅距離・駐車場・賃料水準、契約の残期間と承継可否
- 院長依存度:指名が院長に集中していないか、施術が標準化されているか
- コンプライアンス:保険請求の適正性、広告表現の適法性
とりわけ院長依存度は重要です。「院長がいなくなったら患者も消える」と見られれば評価は下がり、「仕組みとスタッフで回っている」と示せれば評価は上がります。価格の考え方の基本は「企業価値評価(バリュエーション)の基礎」をご参照ください。
承継・売却の進め方とまとめ
整骨院・接骨院の承継を成功させるポイントは次のとおりです。
- 施術管理者の後任確保を、取引の早い段階で確認・設計する
- スタッフの雇用継続と患者さんへの伝え方を、買い手と丁寧に合意する
- 賃貸借契約・リース・各種届出など、名義に関わる事項を漏れなくリスト化する
- 引き継ぎ期間(前院長の非常勤残留など)を設け、患者離れを防ぐ
施術所の承継は金額の大小にかかわらず、手続と人の引き継ぎの丁寧さが成否を分けます。当社プラチナパートナーズは、施術所を含む中小規模の事業承継・M&Aを初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。相談料・着手金・月額報酬は0円です(基本合意時の中間金と成約時の成功報酬については料金体系をご覧ください)。「閉めるか、引き継ぐか」を迷っている段階でも構いません。まずは無料相談からお聞かせください。
よくあるご質問
Free Consultation
患者さんとスタッフの日常を、そのまま次代へ。
施術管理者の引き継ぎから患者さんへの伝え方まで、施術所の承継は段取りがすべてです。閉院を決める前に、一度ご相談ください。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。