会社分割は、資料3のM&A実務で●(優先項目)が付いているスキームの1つです (株式譲渡・事業譲渡と並びます)。
中小M&Aでの登場頻度は株式譲渡や事業譲渡ほど高くありませんが、 「事業の一部だけを動かしたい」ときの選択肢として、押さえておく必要があります。
2つの型|どこへ承継させるか
| 型 | 承継先 | 使われ方 |
|---|---|---|
| 吸収分割 | 既存の会社に承継させる | 相手先の会社へ、事業を直接移す |
| 新設分割 | 新しく設立する会社に承継させる | 事業を切り出して器を作り、その株式を譲渡する |
中小M&Aでよく使われるのは、新設分割と株式譲渡の組み合わせです。
- 譲りたい事業だけを新設分割で新会社に移す
- その新会社の株式を譲渡する
これにより、残したい事業や資産は手元に残したまま、譲りたい事業だけを渡せます。 たとえば、本業は譲るが収益不動産は手元に残す、複数事業のうち1つだけ譲る、といった場面です。
包括承継という性質
会社分割の最大の特徴は、権利義務が包括的に承継されることです。 分割契約・分割計画で定めた範囲について、個別の移転手続を要さずに移ります。
これは事業譲渡との決定的な違いです。
| 事業譲渡 | 会社分割 | |
|---|---|---|
| 移転の方法 | 個々の資産・負債・契約を個別に移転 | 定めた範囲を包括的に承継 |
| 契約の相手方の同意 | 原則として必要 | 原則として不要(ただしチェンジ・オブ・コントロール条項には注意) |
| 手続 | 煩雑だが、会社法上の組織再編手続は不要 | 会社法上の手続(債権者保護手続等)が必要 |
| 簿外債務 | 遮断しやすい | 承継範囲による |
「個別の同意が要らない」のは大きな利点ですが、会社法上の手続が発生します。 債権者保護手続には一定の期間が必要で、スケジュールに直接効いてきます。
また、包括承継であるがゆえに、承継範囲に含めた負債は一緒に移ります。 事業譲渡のように「これは持っていかない」と選びやすい構造ではないため、 DDで承継範囲を精査する必要が高まります。
労働契約承継法|従業員の扱いが法律で定められている
資料3の法務基礎で労働法に●(優先項目)が付いていますが、 会社分割は労働法が正面から関わるスキームです。
会社分割における労働契約の承継については、労働契約承継法が手続を定めています。 包括承継だからといって、従業員を自由に振り分けられるわけではありません。
大枠として、次のような仕組みが置かれています。
- 会社は、労働者や労働組合への通知を行う
- 承継される事業に主として従事する労働者が承継対象から外れた場合などに、 異議を申し出る手続が用意されている
- 労働者との協議が求められる
スキーム比較で整理すると、こうなります。
| スキーム | 雇用の扱い |
|---|---|
| 株式譲渡 | 会社が変わらないのでそのまま継続 |
| 事業譲渡 | 個別に承継の手続。従業員の同意が前提 |
| 会社分割 | 労働契約承継法による通知・異議申出・協議の手続 |
具体的な要件・期限は法令に定められています。手続の設計は弁護士・社会保険労務士の領域であり、 支援者としては「会社分割を使うなら労働法の手続が要る」と気づけることが求められる水準です。
会計・税務の論点
資料3の財務・税務には、スキームの初期的な検討として 「企業結合会計(株式譲渡、事業譲渡/合併・分割の簡易処理)」が挙げられています。
税務側には「スキーム別の税務面に関する考え方」として会社分割が並び、 さらに「組織再編税制に関する基礎知識」という項目があります。
会社分割は組織再編の一類型であり、一定の要件を満たすと課税が繰り延べられる枠組み(適格組織再編)が 設けられています。要件を満たさない場合は、資産を時価で移転したものとして課税される扱いになり得ます。
ここで重要なのは、要件該当性を支援者が判断してはいけないという点です。 組織再編税制の判定は複雑で、税理士法第52条の税務相談にあたります。
なお、資料3では組織再編税制に●は付いていません。 一方、株式譲渡には●が付いています。 「そういう制度があり、要件次第で扱いが変わる」と分かるところまでが、求められている水準と読めます。
また、分割により不動産が移転する場合には、登記手続と、 不動産取得税・登録免許税が関わります。ガイドラインがクロージングで 登記手続は司法書士等に委託としているのも、この場面です。
いつ会社分割を検討するのか
中小M&Aで会社分割が検討されるのは、おおむね次の場面です。
- 複数事業のうち一部だけを譲りたい
- 事業に使っていない資産(収益不動産など)を手元に残したい
- 事業譲渡では移転すべき契約や許認可が多すぎて、個別対応が現実的でない
逆に、避けたほうがよい場面もあります。会社法上の手続に時間がかかるため、 売主が急いでいる案件や、体制の整っていない小規模な会社では負担が大きくなります。
そして、許認可の扱いには個別の確認が必要です。包括承継だからといって、 すべての許認可が自動的に引き継がれるわけではありません。 業法ごとに承継の可否と手続が異なります。
資料3の「提案」工程にスキームの初期的な検討が置かれているとおり、 スキームは案件の早い段階で決めるものです。 税務・法務・労務・許認可が一度に関わるため、各分野の専門家をいつ入れるかの設計も、 支援者の仕事に含まれます。
本記事は一般的な制度の説明です。会社分割の手続、労働契約の承継、税務上の扱いについては、 必ず弁護士・税理士・社会保険労務士等の専門家にご確認ください。
この記事について(出典と免責)
本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。
試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
よくあるご質問
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この試験の勉強に使えるもの:試験範囲マップ|251項目と当社コラムの対応表で、どの項目にどの記事が対応しているか(と、当社が書けていない項目)を一覧できます。
当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。
中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。