資料3で株式譲渡に●(優先項目)が付き、M&A実務側でも 株式譲渡・事業譲渡・会社分割の3つに●が付いています。2科目から問われる論点です。
公表されたサンプル問題(M&A実務)も、株式譲渡と事業譲渡の対比を問う形式でした。 個々の税率を覚えるより、違いの構造を押さえるのが先です。
何が動くかが違う
3つのスキームは、取引の対象が違います。そこからすべての違いが出ます。
| 株式譲渡 | 事業譲渡 | 会社分割 | |
|---|---|---|---|
| 動くもの | 株式(会社そのもの) | 個々の資産・負債・契約 | 事業に関する権利義務を包括的に |
| 売主 | 株主(多くは経営者個人) | 会社 | 会社 |
| 対価の受取人 | 株主 | 会社 | 会社(または株主) |
| 契約・許認可 | 原則としてそのまま存続 | 個別に移転・再取得が必要 | 包括承継(許認可は個別確認が必要) |
| 簿外債務・偶発債務 | 承継する | 遮断しやすい | 承継範囲による |
| 手続 | 比較的簡便 | 煩雑 | 会社法上の手続が必要 |
サンプル問題の趣旨も、この対比でした。 株式譲渡では既存の契約・許認可が原則存続し偶発債務も承継する一方、 事業譲渡は個別移転でリスク遮断が容易だが手続が煩雑、という整理です。
ガイドラインの買い手調査にも、「保証債務が移行せず、簿外債務を遮断できる事業譲渡の場合等、 取引の形態によっては調査の必要性が低い場合も想定される」という記述があり、 スキームとリスクの関係が前提知識として扱われています。
誰に課税されるかが違う
税務で最初に確認すべきは、税率ではなく課税される主体です。
- 株式譲渡……売主は株主。株主が個人なら個人の所得税等、法人なら法人税の対象になります。 中小M&Aでは経営者個人が株主であることが多く、対価は会社ではなく経営者個人に入ります
- 事業譲渡……売主は会社。対価は会社に入り、法人税の対象になります。 経営者個人が手にするには、配当や退職金など、もう一段の手続が必要です
この違いは、手取りの計算だけでなく、会社をどうするかにも関わります。 事業譲渡の場合、事業を売った後の会社は残ります。残った会社をどうするかまで含めて設計が要ります。
資料3の税務基礎にも所得税(株式譲渡課税、事業譲渡課税等)が並び、 配当・自己株買い・現物分配(実施方法・税額等)に関する税務知識が項目として挙がっています。
税目の顔ぶれが違う
資料3が税目を広く並べているのは、スキームによって登場する税金が変わるからです。
| 税目 | 主に出てくる場面 |
|---|---|
| 法人税 | 事業譲渡・会社分割で、会社に譲渡益が生じる場合 |
| 所得税 | 株式譲渡で個人株主に譲渡益が生じる場合、役員退職金 |
| 消費税 | 事業譲渡(課税資産の譲渡が含まれる場合)。株式の譲渡は非課税 |
| 贈与税・相続税 | 株式の評価、親族内承継との比較 |
| 印紙税 | 契約書の作成 |
| 不動産取得税・登録免許税 | 事業譲渡・会社分割で不動産が移転する場合 |
消費税と不動産関係の税が、株式譲渡と事業譲渡を分ける代表例です。 株式が動くだけなら不動産の名義は変わりませんが、事業譲渡で不動産が移れば登記も税金も発生します。
ガイドラインがクロージングで「不動産の所有権移転・担保抹消に伴う登記手続等」に触れ、 司法書士等への委託を求めているのも、この場面です。
組織再編税制は「全体像まで」
会社分割や合併、株式交換・株式移転・株式交付が絡むと、組織再編税制の領域に入ります。 一定の要件を満たすと課税が繰り延べられる(適格組織再編)という枠組みです。
資料3では、組織再編税制・グループ通算制度・グループ法人税制のいずれも項目に挙がっていますが、 ●(優先項目)は付いていません。 一方、株式譲渡には●が付いています。
この配分が、求められる水準を示しています。 中小M&Aの多くは株式譲渡か事業譲渡であり、そこを確実に、 組織再編税制は「そういう制度があり、要件次第で扱いが変わる」と分かるところまで、という設計と読めます。
実務でも同じです。組織再編を伴う案件で、要件該当性を自分で判断してはいけません。 税理士法第52条の問題に直結します。論点だと気づいて、つなぐ——これが合格者像でした。
試験で押さえる形
- 売主が誰か(株式譲渡=株主/事業譲渡=会社)
- 契約・許認可が引き継がれるか(株式譲渡=原則存続/事業譲渡=個別)
- 簿外債務・偶発債務を遮断できるか(株式譲渡=承継/事業譲渡=遮断しやすい)
- 消費税が関係するか(株式の譲渡は非課税/事業譲渡は課税資産が含まれ得る)
- 不動産が動くか(動けば登記と不動産取得税・登録免許税)
- 組織再編税制は全体像まで。要件該当性の判断は税理士へ
スキームの選択は、税金だけで決まりません。従業員の雇用、取引先との契約、許認可、 そして売主が何を望むか——すべてが関わります。 だから資料3でも、スキームの検討は「提案」の工程、つまり案件の早い段階に置かれています。
本記事は一般的な制度の説明です。個別の案件における税務・法務の判断は、 必ず税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。
この記事について(出典と免責)
本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。
試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
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この試験の勉強に使えるもの:試験範囲マップ|251項目と当社コラムの対応表で、どの項目にどの記事が対応しているか(と、当社が書けていない項目)を一覧できます。
当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。
中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。