資料3を通して読むと、「主な検出事項及びその対応方法」という同じ項目名が M&A実務・財務税務・法務の3か所に現れます。
DDは、1つの工程が3科目から問われる唯一の範囲です。 問われ方が科目ごとに違うので、そこを整理します。
科目ごとに、問われることが違う
| 科目 | 問われること |
|---|---|
| M&A実務 | DDの進め方、誰が何をするか、スケジュール、開示資料の整理、譲り渡し側・譲り受け側への説明・確認 |
| 財務・税務 | 調査事項に関する財務知識(●)/税務知識(●)。何を見て、何が問題になるか |
| 法務 | 調査事項に関する法律知識(●)。契約・許認可・労務・訴訟などの論点 |
| 倫理・行動規範 | 仲介者の関与の限界。結論を決定しない |
実務科目には「譲り渡し側・譲り受け側への説明・確認」という項目もあります。 調べた結果を、どう当事者に返すかも工程のうちだということです。
財務DDで見るもの
中小企業の決算書は、税務申告を前提に作られていることが多く、 会計基準どおりの評価になっていない項目があります。資料3が会計基準の項目で 「税務基準」に●を付けているのは、このためと読めます。
財務DDで典型的に論点になるのは、次のような領域です。
- 資産の実在性と評価……回収できない売掛金、実在しない在庫、含み損のある資産
- 簿外債務……未払残業代、未計上の賞与や退職給付、リース債務
- 偶発債務……保証債務、係争中の案件
- 正常収益力……役員報酬や地代家賃など、オーナー固有の費用を調整した実力値
- 運転資本と設備投資……事業を継続するために必要な資金の水準
これらはバリュエーションに直結します。 実態純資産が変われば価格が動き、正常収益力が変われば倍率法の結果が動きます。
資料3に「バリュエーションに関する財務知識(●)」と 「最終契約 譲渡額に関する財務知識(●)」が並んでいるのは、 DD → バリュエーション → 譲渡額が一続きだからです。
税務DD・法務DDと、委託の原則
税務DDでは、過去の申告に誤りや否認リスクがないか、 繰越欠損金の扱い、同族会社特有の取引などが論点になります。
法務DDでは、株式の帰属(株主名簿と実態の一致、名義株の有無)、 許認可の要否と承継可否、重要契約のチェンジ・オブ・コントロール条項、 労務(未払残業代、社会保険の加入状況)、訴訟・紛争の有無などが論点になります。
ただし、どちらも仲介者・FAが自ら実施するものではありません。
各種DD(ビジネス・財務・法務・税務)の実施又は実施支援 (ただし、法務DD、税務DDについては外部の士業等専門家に委託)
弁護士法第72条・税理士法第52条の独占業務に関わるためです。 論点を知っていることと、自分で判断することは別——この区別が、繰り返し問われます。
検出したものを、どう処理するか
資料3の項目名は「主な検出事項及びその対応方法」です。 対応方法まで含めて1項目になっています。
検出事項への対応は、おおむね次の選択肢に整理できます。
| 対応 | どんな場合か |
|---|---|
| 価格に反映する | 金額が見積もれる場合(実態純資産の修正など) |
| 表明保証と補償で手当てする | 発生するか分からないが、起きたら損失になる場合 |
| クロージングの前提条件にする | 実行前に解消させる必要がある場合(経営者保証の解除など) |
| クロージング後の誓約事項にする | 実行後に履行させる場合(履行されないリスクは残る) |
| スキームで遮断する | 事業譲渡等により、簿外債務を承継しない形にする場合 |
| 取引を実行しない | 対応しきれない場合 |
ガイドラインは、譲り受け側の調査についても 「リスク事項を検出した場合には、開示可能な範囲で調査の結果を譲り渡し側に報告し、 取引実行の可否や最終契約に規定すべき条項の内容を協議しなければならない」としています。 「取引実行の可否」が選択肢に明記されている点が重要です。
DDをやらないという選択の重さ
ガイドラインは、DDの非実施を 「認識の有無にかかわらず対応するリスク」の1つに数えています。
表明保証の内容はDDの結果を踏まえて適切に検討されるべきであり、 期間や責任上限が設定されていない場合や適用場面が一義的に明確でない規定が存在する場合、 譲り渡し側が過大な表明保証責任を負担することとなり、当事者間で争いが生じるリスクがある旨を説明しなければならない。
因果はこうです。DDを省く → 買い手は確認できない → 確認できない分を表明保証で売り手に負わせる → 売り手が把握していない事実にまで責任を負う。
DDは買い手のためだけの手続ではありません。 売り手にとっても、後で責任を負わされる範囲を限定するための手続です。 これを説明できることが、実務科目と倫理科目の両方で問われる理解になります。
本記事は一般的な説明です。個別の案件における財務・税務・法務の判断は、 必ず公認会計士・税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。
この記事について(出典と免責)
本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。
試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
よくあるご質問
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この試験の勉強に使えるもの:試験範囲マップ|251項目と当社コラムの対応表で、どの項目にどの記事が対応しているか(と、当社が書けていない項目)を一覧できます。
当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。
中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。