DDは、M&A実務・財務税務・法務の3科目すべてに項目がある唯一の工程です。
ただし問われ方は科目で違います。実務科目では誰が何をするか、 財務・法務科目では調査事項に関する知識。そして倫理科目では仲介者の限界です。
DDの種類と、委託すべきもの
ガイドラインは、仲介者・FAが提供する業務の例をこう書いています。
各種DD(ビジネス・財務・法務・税務)の実施又は実施支援 (ただし、法務DD、税務DDについては外部の士業等専門家に委託)
法務DDと税務DDは、外部の士業等専門家に委託すると明記されています。 弁護士法第72条、税理士法第52条等の独占業務に関わるためです。
そのうえで、仲介者の場合には、さらに強い制限がかかります。
仲介者の場合は、譲り渡し側における開示資料の整理・作成のサポートやDDの実施スケジュールの調整・管理といった 直接的にDDの調査内容の検討や調査を踏まえた評価・判断に影響しない範囲での支援に限る
つまり仲介者ができるのは、資料を揃える手伝いと、日程の管理まで。 何を調べるか、結果をどう評価するかには関与しない、という線です。
なぜDDにまで制限がかかるのか
理由は、バリュエーションと同じです。
バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)、デュー・ディリジェンス(DD)といった、 一方当事者の意向を踏まえた内容となりやすい工程に係る結論を決定しない。
DDの結果は、そのまま価格と条件に跳ね返ります。 たとえば簿外債務が見つかれば、譲渡額は下がり、表明保証の範囲は広がる。 買い手に有利で、売り手に不利です。逆に、見つかったものを軽く評価すれば、売り手に有利になります。
両方から依頼を受けている仲介者が、その評価を決められる立場にあると、 どちらに転んでも「一方の利益を選んだ」ことになります。だから決めない、という設計です。
資料3では、DDの項目に「主な検出事項及びその対応方法」が M&A実務・財務・法務それぞれに置かれています。 検出事項を知っていることと、評価を下すことは別——この区別が問われます。
DDを実施しないこと自体が、説明すべきリスク
ガイドラインは、最終契約の工程で「認識の有無にかかわらず対応するリスク」を3つ挙げています。 そのうちの1つが「デュー・ディリジェンス(DD)の非実施」です。
仲介者・FAは、依頼者に対し、DDは、譲り渡し側・譲り受け側双方にとって重要なプロセスである旨を 説明しなければならない。仮に予算の制約がある場合であっても、検討対象を絞るなどの工夫をした形での DDの実施を推奨することが望ましい。
中小M&Aでは、費用を理由にDDを省略する提案が出ることがあります。 ガイドラインはそれをリスクとして名指しし、絞ってでもやる方向を示しています。
「認識の有無にかかわらず」という分類が重要です。気づいたら対応するのではなく、 毎回必ず対応する3項目のうちの1つだ、ということです。
DDと表明保証は、セットで理解する
3つのリスクのもう1つが「表明保証の内容」で、DDと直結しています。
表明保証の内容はDDの結果を踏まえて適切に検討されるべきであり、 期間や責任上限が設定されていない場合や適用場面が一義的に明確でない規定が存在する場合、 譲り渡し側が過大な表明保証責任を負担することとなり、当事者間で争いが生じるリスクがある旨を説明しなければならない。
論理はこうです。DDをやらなければ、買い手はリスクを確認できない。 確認できない分は、表明保証で売り手に負わせることになる。 結果として、売り手は自分でも把握していない事実について責任を負うことになります。
「DDを省けば売り手が得」ではありません。DDを省くと、売り手のリスクが後ろに移るだけです。 この因果を説明できることが、試験でも実務でも問われる理解です。
試験で押さえる形
| 選択肢の型 | 判断 |
|---|---|
| 仲介者が自ら法務DDを実施した | 誤り(外部の士業等専門家に委託) |
| 仲介者が検出事項の重要性を評価し、価格への反映を決めた | 誤り(評価・判断に影響しない範囲に限る) |
| 仲介者が開示資料の整理とスケジュール管理を支援した | 適切 |
| 予算が足りないので、対象を絞ってDDを実施することを推奨した | 適切 |
| 費用がかかるのでDDを省略することを勧めた | 誤り(重要なプロセスである旨を説明しなければならない) |
| 表明保証に期間・責任上限を設けない案を、説明せずに提示した | 誤り(過大な責任負担のリスクを説明しなければならない) |
なお、財務DD・税務DD・法務DDは、それぞれ財務・税務科目と法務科目でも●(優先項目)が付いています。 「調査事項に関する財務知識」「調査事項に関する税務知識」「調査事項に関する法律知識」という形です。 実務の手順と、調査項目の知識を、別々に押さえる必要があります。
この記事について(出典と免責)
本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。
試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
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当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。
中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。