資料3の法務基礎で、弁護士法に●(優先項目)が付いています。 M&Aの法律知識ではなく、支援者自身が何をしてはいけないかの法律です。
そして公表されたサンプル問題のうち、倫理・行動規範の1問はまるごと独占業務違反を扱っています。 この論点は、法務科目と倫理科目の両方から問われます。
制度の前提|合格しても独占業務はできない
資料2・募集要領の双方に、同じ趣旨が明記されています。
本資格試験の合格は、既存の業法に基づく独占業務の実施を可能とするものではないため、 合格者が実務を行う上では、業法に基づく独占業務(特に弁護士、公認会計士、税理士等の士業のみができる業務)に 抵触しないよう留意を要する。
募集要領はさらに、「仲介・FA業務は、各士業の独占業務(弁護士法第72条、税理士法第52条等)に 該当しない範囲に限定することを前提とする」と書いています。
つまり、この資格は「できることを増やす資格」ではありません。 できる範囲は変わらないまま、その範囲を正しく理解していることを証明する資格です。 試験で「合格すれば税務相談ができるようになる」といった趣旨の選択肢があれば、明確に誤りです。
弁護士法第72条|非弁行為
弁護士法第72条は、弁護士・弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、 法律事件に関して法律事務を取り扱うこと等を禁じています。
M&Aの現場で問題になりやすいのは、次のような場面です。
- 当事者間で生じた紛争の解決に向けて、代わりに交渉する
- 法的な権利義務について、結論としての見解を示す
- 相手方に対して、法的措置を示唆して交渉する
ガイドラインも、契約締結前の説明事項として次を定めています。
役務の範囲に関わらず当事者間で生じた紛争解決に向けた支援は非弁行為(弁護士法第72条)に該当しうるおそれがある旨も 説明しなければならず、その場合には必要に応じて弁護士等の意見を求める必要がある旨を説明することが望ましい。
「説明しなければならない」——義務として書かれています。 成約後にもめたとき助けてもらえる、という期待が生まれる前に、できないことを伝えておく必要があります。
税理士法第52条|無償でも行えない
税理士法第52条は、税理士でない者が税理士業務を行うことを禁じています。 税理士業務には、税務代理、税務書類の作成、そして税務相談が含まれます。
実務上、最も誤りやすいのがここです。
税務相談は、無償であっても税理士以外は行えません。
弁護士法第72条が「報酬を得る目的」を要件にしているのに対し、 税理士法の税務相談にはそのような限定がありません。 だから「サービスとして」「概算だから」「参考値として」は、いずれも理由になりません。
公表されたサンプル問題でも、無資格の支援者が行えない行為として 「税額を無償で試算する」が明示的に挙げられています。
中小M&Aでは、手取りがいくらになるかは売主の最大の関心事です。 だからこそ、聞かれたときに自分で答えてしまう誘因が最も強い論点でもあります。
サンプル問題が示した4つの類型
資料2に掲載された倫理・行動規範のサンプル問題は、 無資格の支援者がいずれも適法に行えない行為として、次の4つを並べています。
- 会社法上無効な不動産譲渡について、代わりに第三者と交渉する
- 税額を無償で試算する
- 報酬を得て、商標出願を弁理士に依頼する
- 懲戒処分が可能との見解を伝える
3つ目に注意してください。自分でやるのではなく、専門家に依頼しています。 それでも、報酬を得てその取次ぎを行えば問題になり得ます。 「専門家に再委託したから大丈夫」は成り立たないということです。
4つ目も、自分の意見を述べているだけに見えますが、 法的な権利義務について結論としての見解を示す行為にあたり得ます。
4類型に共通するのは、「善意でやってしまいがち」という点です。 依頼者が困っている、聞かれた、早く答えたい——その場面で線を越えます。
越えないための実務と、試験での見分け方
ガイドラインが繰り返し求めているのは、連携です。
- バリュエーション・DDの結論を決定せず、士業等専門家等の意見を求めるよう伝える
- 法務DD・税務DDは外部の士業等専門家に委託
- 登記手続は司法書士等に委託
- 最終契約は弁護士の関与の下で締結することが望ましい
- 経営者保証は士業等専門家(特に弁護士)や事業承継・引継ぎ支援センターへの相談も選択肢である旨を説明
基本姿勢の「自ら全てを抱え込むのではなく」は、精神論ではなく、 独占業務に触れないための実務的な要請でもあります。
試験での見分け方は単純です。支援者が自分で結論を出している選択肢は、疑ってかかる。
| 選択肢の型 | 判断 |
|---|---|
| 依頼者に代わって相手方と法的な交渉を行った | 誤り |
| 無償だったので税額を試算して伝えた | 誤り |
| 税務上の論点があることを伝え、税理士への相談を促した | 適切 |
| 契約書の条項にリスクがある旨を伝え、弁護士への確認を推奨した | 適切 |
| 資格に合格したので、税務相談に応じた | 誤り(独占業務は可能にならない) |
本記事は一般的な制度の説明です。当社は法律事務・税務代理・税務相談を行いません。 個別の判断は、必ず弁護士・税理士等の専門家にご確認ください。
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本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。
試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
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当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。
中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。