資料3のスキームの初期的な検討には、株式譲渡・事業譲渡・会社分割(いずれも●)に続いて、 株式交換・株式移転・株式交付が並んでいます。
この3つには●が付いていません。それでも押さえておくべきなのは、 株式譲渡や事業譲渡と、根本的に違う点が1つあるからです。
共通点|対価が現金とは限らない
株式譲渡では、買い手が現金を払い、売り手が株式を渡します。
これに対し、株式交換・株式移転・株式交付は、買い手側の株式を対価にできるスキームです (現金等を対価にできる場合もあります)。
売り手から見ると、意味が大きく変わります。
| 株式譲渡(現金対価) | 株式が対価の場合 | |
|---|---|---|
| 受け取るもの | 現金 | 買い手側の株式 |
| 取引後の関係 | 原則として切れる | 株主として残る |
| 価値の変動 | 受け取った時点で確定 | その後も変動する |
| 換金 | 済んでいる | 上場株でなければ換金が難しい |
中小M&Aの売り手の多くは、引退や事業承継を目的としています。 現金化して次に進みたいという動機が強いため、株式を対価とするスキームは選ばれにくくなります。
逆に言えば、買い手側が上場企業で、売り手がその株主として残りたいという場面では選択肢になります。
3つの違い|どこへ集約するか
| スキーム | 何をするか | 結果 |
|---|---|---|
| 株式交換 | 既存の会社が、対象会社の株式をすべて取得する | 対象会社は完全子会社に |
| 株式移転 | 新しく設立する会社に、株式をすべて移す | 新会社が親会社(持株会社化に使われる) |
| 株式交付 | 対象会社を子会社にするために、株式を譲り受け、対価として自社株を交付する | 完全子会社でなくてよい |
株式交換と株式移転は、100%(完全子会社化)が前提です。 少数株主が残ることを認めない構造なので、反対する株主がいても手続によって株式を集約できる一方、 会社法上の手続(株主総会の決議、反対株主の株式買取請求への対応等)が必要になります。
株式交付は2021年3月施行の改正会社法で新設された制度です。 株式交換では100%にしなければ使えなかったため、 「子会社にはしたいが、100%までは要らない」場面で自社株を対価に使えない、という不都合がありました。 株式交付は、この間を埋めるために作られています。
中小M&Aで使われにくい理由
制度としては存在しますが、中小M&Aでの登場頻度は高くありません。理由は3つに整理できます。
① 売り手の動機と合わない——引退や承継が目的なら、欲しいのは現金です。 非上場株式を受け取っても、すぐには換金できません。
② 買い手側の株式に価値の裏づけが要る——対価として渡す株式の価値が評価できなければ、 売り手は条件を判断できません。非上場同士では、双方の株価を評価する必要が生じます。
③ 手続が重い——会社法上の組織再編手続が必要で、 株主総会の決議、反対株主の株式買取請求、債権者保護手続など、時間と体制を要します。
ガイドラインが譲り渡し側の留意点として「早期判断の重要性」を挙げているとおり、 中小M&Aでは時間そのものが制約になることが多く、手続の重さは実際の選択に効いてきます。
資料3でこれらに●が付いていないのは、この実態を反映したものと読めます。
税務・会計の扱い
株式交換・株式移転・株式交付は、いずれも組織再編に位置づけられます。
資料3の財務・税務には「組織再編税制に関する基礎知識」が項目として置かれています。 一定の要件を満たすと課税が繰り延べられる枠組みがあり、 要件を満たさなければ時価での譲渡があったものとして課税される扱いになり得ます。
売り手(株主)の側から見ると、現金を受け取っていないのに課税されるという事態が起こり得るため、 実務では非常に重い論点になります。
ただし、要件該当性の判断は税理士の領域です。 税理士法第52条により、税務相談は無償であっても税理士以外は行えません。
資料3で組織再編税制に●が付いておらず、株式譲渡に●が付いているのは、 「まず株式譲渡を確実に、組織再編は全体像まで」という配分を示していると読めます。
会計面では、資料3に「企業結合会計」として株式譲渡・事業譲渡、合併・分割の簡易処理、 取得原価の配分(PPA)、のれんが並びます。 株式交換等で子会社化した場合には、連結会計の論点にもつながります (資料3には「中小企業での連結免除要件」という項目もあります)。
反対株主の株式買取請求という論点
株式交換・株式移転では、100%子会社化が前提です。 ということは、反対する株主がいても、株式は集約されます。
その代わりに会社法が用意しているのが、反対株主の株式買取請求権です。 組織再編に反対する株主は、自己の株式を公正な価格で買い取るよう会社に請求できます。
これは、株式譲渡との大きな違いです。株式譲渡は売りたい株主が売るだけなので、 売りたくない株主は持ち続けられます。組織再編は多数決で少数株主の株式まで動かすため、 価格で救済する仕組みが置かれているわけです。
中小M&Aでこれが問題になるのは、株式が分散している会社です。 相続で分散した株式、退職した役員の株式、創業時の名義株—— こうした株主が反対に回れば、買取価格をめぐる争いになり得ます。
だからこそ、ガイドラインが法務DDの調査事項に株式の帰属を置き、 経営承継円滑化法が所在不明株主の手続を5年から1年に短縮する特例を設けているのです。 誰が株主かをはっきりさせておくことが、どのスキームでも前提になります。
手続にはほかにも、株主総会の特別決議や、場合により債権者保護手続が必要です。 いずれも期間を要するため、スケジュールに直接効いてきます。
試験で押さえる形
- 3つとも買い手側の株式を対価にできる(現金等を対価にできる場合もある)
- 株式交換=既存の会社が完全子会社化/株式移転=新設会社が親会社(持株会社化)
- 株式交付=2021年施行の改正会社法で新設。完全子会社でなくてよいのが違い
- 株式交換・株式移転は100%が前提。株式交付は子会社化が目的
- 中小M&Aで使われにくいのは換金性・株価評価・手続の重さのため
- いずれも組織再編税制の対象。要件該当性の判断は税理士へ
設問としては、「株式移転は既存の会社が行う」「株式交付では完全子会社になる」といった 入れ替えが作りやすい範囲です。新設か既存か、100%か否か——この2軸で覚えておくと崩れません。
本記事は一般的な制度の説明です。個別の案件における会社法上の手続・税務の判断は、 必ず弁護士・税理士等の専門家にご確認ください。
この記事について(出典と免責)
本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。
試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
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出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
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中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
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