資料3の財務・税務には、スキームの初期的な検討(財務上の留意事項)として 企業結合会計が置かれ、取得原価の配分(PPA)とのれんが項目に並んでいます。
これは買い手側の論点です。売り手の支援をしていても、 買い手が何を気にして価格を決めているかが分かると、交渉の見え方が変わります。
のれんは「払った額」と「持っているもの」の差
会社を買うとき、多くの場合、純資産の額より高い金額を払います。
理由は単純です。買い手が欲しいのは、貸借対照表に載っている資産ではなく、 その会社が稼ぐ力だからです。顧客との関係、技術、ブランド、従業員、許認可、立地—— こうしたものは、決算書に金額として載っていません。
支払った対価が、受け入れた純資産(時価に引き直したもの)を上回る差額がのれんです。
| 金額の例 | |
|---|---|
| 支払った対価 | 5億円 |
| 受け入れた純資産(時価) | 3億円 |
| のれん | 2億円 |
逆に、純資産より低い金額で買えた場合の差額は負ののれんと呼ばれ、 日本基準では原則として発生した期の利益として処理されます。
ここで大事なのは、のれんは「買ったから生まれるもの」だという点です。 自分で育てた会社のブランド価値は、決算書に載りません。 買収したときだけ、差額として表に出てきます。
PPA|差額を、そのままのれんにしない
資料3の項目名は「取得原価の配分(PPA)」です。 PPA(Purchase Price Allocation)は、支払った対価を受け入れた資産・負債に配分する手続きです。
差額をまとめて「のれん」にするのではなく、 識別できる無形資産があれば、それぞれに金額を割り当てます。
- 商標権・ブランド
- 顧客との関係(顧客リスト、契約)
- 技術・特許・ノウハウ
- 許認可
こうして個別に認識できるものを取り出した残りが、のれんになります。
なぜ分けるのか。償却の期間が変わるからです。 無形資産はそれぞれの性質に応じた期間で費用化され、のれんはのれんとして処理されます。 配分の仕方によって、買った後の利益の出方が変わります。
中小M&Aでは、買い手が非上場の中小企業であることも多く、 PPAを厳密に行わない場合もあります。どこまで求められるかは、買い手の会計方針と規模によります。
のれん償却と減損|日本基準の特徴
日本の会計基準では、のれんは20年以内の効果の及ぶ期間にわたって規則的に償却します。
つまり、のれんが2億円で償却期間が10年なら、毎期2,000万円が費用になります。 買収した事業が同額以上の利益を生まなければ、連結の利益は減ります。
これは国際的な基準(IFRS等)と異なる点で、IFRSではのれんを規則的に償却せず、 減損のテストを行う扱いが取られています。
そして日本基準でも、減損はあります。 買収した事業の収益力が当初の見込みを下回れば、のれんの価値が失われたとして一括で損失を計上することになります。
これが、買い手が価格に慎重になる理由の1つです。 高く買えば、のれんが大きくなる。のれんが大きければ、毎期の償却負担も、減損のリスクも大きくなります。
売り手側の支援をしていると「もっと出せるはずだ」と考えがちですが、 買い手には買い手の制約があります。ここが見えていると、交渉の読み方が変わります。
連結会計|中小企業には免除要件がある
資料3には連結会計として、「簡易的な連結財務諸表の作成」と 「中小企業での連結免除要件」が挙げられています。
株式譲渡で子会社化した場合、買い手は連結して決算を組むのが原則です。 親会社と子会社を1つの会社とみなして、財務諸表をまとめます。
ただし、すべての会社に連結が求められるわけではありません。 会社法上の会計監査人設置会社や金融商品取引法の適用を受ける会社が連結の対象となる一方、 多くの中小企業は連結財務諸表の作成義務を負いません。
実務上の意味は大きく2つです。
- 買い手が中小企業なら、のれんが連結上の数字として表に出ないことがある (ただし個別の投資有価証券の評価や、税務上の扱いは別に発生します)
- 売り手が子会社を持っている場合、グループ全体の実態を把握するのに 連結の考え方が必要になる
2つ目は、中小M&Aで実際に起きます。 関係会社との取引、貸付金、相互の債権債務が絡むと、 単体の決算書を見ているだけでは実態がつかめません。 ガイドラインが企業概要書の記載事項に株主・役員構成、組織図、商流を挙げているのは、 このような構造を見るためでもあります。
試験で押さえる形
- のれん=支払対価と受け入れた純資産(時価)の差額。買ったときだけ表に出る
- 負ののれんは日本基準では原則として発生した期の利益
- PPA=取得原価を識別可能な資産・負債に配分する手続き。残りがのれん
- 日本基準ののれんは20年以内で規則的に償却。減損もある
- IFRSは規則的償却をしない(減損テストによる)
- 中小企業の多くは連結財務諸表の作成義務を負わない
- 企業結合会計は、株式譲渡・事業譲渡、合併・分割の簡易処理が資料3の項目
資料3では、企業結合会計・PPA・のれん・連結会計のいずれにも●は付いていません。 ●が集中しているのは簿記と財務3表、税務基準でした。 まず決算書、次に応用という配分が、ここからも読み取れます。
本記事は一般的な会計の説明です。個別の会計処理・税務の判断は、 必ず公認会計士・税理士にご確認ください。
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試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
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中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
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