最終契約の工程は、資料3で●(優先項目)が最も密集している範囲です。 リスクの抽出・評価、リスクへの対応、経営者保証の扱い、譲渡額、表明保証条項、 クロージング条項、クロージング後の誓約事項、リスク事項説明、最終契約の締結——ほぼ全項目に●が付いています。
ガイドラインはここを、2つの対応レベル・7項目に整理しています。
7項目の全体像
| 対応レベル | リスク |
|---|---|
| ① 認識の有無にかかわらず対応する | ア 譲り渡し側の経営者保証の扱い |
| イ デュー・ディリジェンス(DD)の非実施 | |
| ウ 表明保証の内容 | |
| ② 認識した段階で対応する | エ クロージング後の支払・手続 |
| オ 最終契約後の支払の調整・修正 | |
| カ 譲り渡し側の資産・貸付金の最終契約後整理 | |
| キ 最終契約からクロージングまでの期間 |
①は毎回必ず扱うもの、②は気づいたときに扱うもの、という区分です。 この2段階の分類自体が、正誤判定で問われ得ます。
ア 経営者保証|最も分量が割かれている論点
ガイドラインは、経営者保証にまとまった記述を割いています。
譲り渡し側経営者の経営者保証に係る意向を丁寧に聴取するとともに、 士業等専門家(特に弁護士)や事業承継・引継ぎ支援センターへの相談や、 保証の提供先である金融機関等に対するM&A成立前の相談も選択肢である旨を説明しなければならない。
ただし、事前相談には副作用があるため、そこも伝えることが求められます。
金融機関等に対する事前相談については、M&A成立前に当該金融機関等に情報提供を行うことによる留意点 (M&Aが成立しなかった場合における情報の扱い等)についても伝えた上で、 譲り渡し側経営者の適切な判断を支援しなければならない。
さらに、相談を希望された場合の対応まで定められています。
仲介者・FAは、その実施を拒むべきではなく、仲介契約・FA契約等における 秘密保持条項の対象から相談先の士業等専門家や金融機関等を除外する必要がある。 さらに、譲り受け側との契約において秘密保持条項がある場合には、譲り受け側に対して、 秘密保持条項の対象から相談先を除外するよう働きかけなければならない。
秘密保持を理由に相談を止めてはならない、という明確な規定です。
最終契約に、どう書き込むか
経営者保証について、ガイドラインは契約への落とし方まで示しています。
保証の解除又は譲り受け側への移行を想定する場合には、仲介者・FAは、最終契約において 譲り受け側の義務として保証の解除又は移行を明確に位置付けることを検討することが求められる。 具体的には、(中略)保証の解除又は移行のクロージング条件としての設定や、 仮に保証の移行がなされなかった場合を想定した条項(例えば、契約解除条項や補償条項等)を盛り込む方向で調整するべきである。
資料3の項目名が「クロージング条項としての設定」「クロージング後の誓約事項としての設定」 と分かれているのは、この使い分けに対応します。
- クロージング条件(前提条件)……満たされなければ、クロージングしない
- クロージング後の誓約事項……クロージング後に履行を約束する
経営者保証を前提条件にすれば、外れないまま取引が完了する事態は防げます。 一方、誓約事項にすると、取引は完了するが履行されないリスクが残ります。 だから契約解除条項や補償条項を併せて検討する、という組み立てです。
焦っている売り手ほど、条件を見落とす
ガイドラインには、実務者に向けた率直な警告があります。
譲り渡し側のキャッシュフローの悪化・債務超過等がM&Aの背景として存在する場合には、 譲り渡し側の経営者は、時間的な切迫性や他の譲り受け側が容易に見つからないなどの事情から焦燥感を覚え、 譲渡額等の形式的な条件のみに注意が向き、最終契約上の義務の内容やその不履行リスクを正しく評価できない可能性がある。 このため、仲介者・FAは、そもそもM&Aを実行すべきかも含めて譲り渡し側と慎重に検討を行うことが求められる。
「そもそもM&Aを実行すべきかも含めて」——成約を前提にしない検討を求めています。 成立が目的化するという、ガイドラインが別の箇所で指摘した問題への、具体的な歯止めです。
②の4項目と、「組織的な判断」
②のリスク(クロージング後の支払・手続/最終契約後の支払の調整・修正/ 譲り渡し側の資産・貸付金の最終契約後整理/最終契約からクロージングまでの期間)については、 認識した段階での具体的な説明が望ましいとされています。
そのうえで、提案する側に回るときには要件が上がります。
両当事者間での調整が十分になされていない段階において、これらのリスクを生じさせる条項やスキームを 安易に提案すべきでなく、慎重に検討の上、仮に提案する場合には、組織的な判断 (明確化された基準の下での一担当者限りではなく組織的なプロセスによる判断であって、組織的に記録され、事後に検証可能であるもの) による必要があり、提案の際には、リスクの詳細と顕在化した場合に生じうる結果について 可能な限り具体的に説明しなければならない。
「組織的な判断」は、不適切な譲り受け側への対応でも出てきた要件です。 担当者が一人で決めてよい場面ではない、という論点が、ガイドラインの複数箇所で繰り返されます。
最後に、最終契約そのものについて。 「可能な限り、中小M&Aに関する知見と実務経験を有する弁護士の関与の下で締結することが望ましい」 とされています。仲介者・FAの業務例にも、「最終的には譲り渡し側・譲り受け側双方が弁護士等への確認を依頼することを推奨」 と明記されています。
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本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
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中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
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