資格や技能を教えるスクールでは、カリキュラムと講師に加えて「認定」が資産になることがあります。厚生労働大臣の指定を受けた講座や、団体の認定校という立場は、譲渡で自動的に移るとは限りません。本稿では三つの軸で整理します。
相談のきっかけ
この業種の相談は、受講者数の変動と講師の確保から出てきます。
- 受講者の募集が難しくなった — オンライン講座との競合で、通学型の集客が落ちた
- 講師が高齢になった — 創業者が主任講師を務めており、代わりがいない
- 教室の固定費 — 受講者が減っても家賃は変わらない
- 後継者がいない — 帝国データバンクの2025年調査では、日本企業の後継者不在率は50.1%です
レコフデータによれば2025年のM&A件数は5,000件超で2年連続の過去最多です。第三者への承継は、以前より一般的な選択肢になっています。
指定・認定は、自動では移らない
公的な制度や団体の認定を受けている場合、その扱いが承継の中心になります。
- 教育訓練給付の指定講座 — 講座ごとに指定を受ける仕組みで、要件(実績・修了率・就職率など)があります
- 職業訓練の委託 — 公的機関からの委託で実施している場合、委託契約の期間と再選定の仕組みを確認します
- 団体の認定校 — 資格を認定する団体から認定を受けている形。認定の要件と、運営者の変更についての取り決めを確認します
株式譲渡であれば法人が存続するため残ることが多い一方、事業譲渡では取り直しになるのが通例です。要件に講師の人数や実績が含まれる場合、人が抜ければ維持できません。所管の機関にご確認ください。
※ 税務・法務の取り扱いは個別の事情で結論が変わります。実行の前に、顧問税理士・弁護士にご確認ください。
カリキュラムと教材は、誰のものか
長年積み上げたカリキュラムは資産ですが、権利の整理が必要です。
確認するのは、教材の著作権の帰属です。創業者が個人で作ったものを会社が使っている場合、権利が会社に移っていないことがあります。株式譲渡では会社の資産しか移らないため、個人に帰属する教材は別に譲渡の手続きが必要です。
外部の講師が作った教材、他社の書籍を教材として使っている場合は、許諾の条件と譲渡後の継続を確認します。動画講座を作っている場合は、出演者の許諾の範囲と期間も確認の対象です。
受講料の前受金と、修了までの義務
受講料を一括で受け取る形では、未提供の分が前受金になります。
- 前受金の残高 — 譲渡時点で、あと何時間の講義を提供する義務があるか
- 中途解約の精算 — 特定継続的役務提供に当たる講座では、法定の精算の方法があります
- 合格保証・再受講の制度 — 無料で再受講できる制度を設けている場合、将来の義務になります
合格保証や再受講の制度は、帳簿に出てこない将来の負担です。対象者の人数と条件を把握しておきます。
講師の承継
講義の質は講師に依存し、受講者は講師を選んで来ることがあります。
開示の段階で答えられるようにしておきたいのは、担当の講師が続くのか、カリキュラムが変わるのか、教室が移らないのかの三点です。業務委託の講師が多い場合、譲渡後の継続は本人の判断になります。
創業者が主任講師を務めている場合は、一定期間の残留と、後任への引き継ぎが条件に入ることが多いです。講義を録画して残すことが、引き継ぎの手段になることもあります。
価格の議論で見られる数字
前受金と固定費のある教育事業として、次の点が議論の対象になります。
- 講座別の受講者数と単価 — どの講座が稼いでいるか
- 前受金の残高と、再受講の対象者数
- 合格率・修了率 — 指定の要件に関わる場合は特に
- 教室別の損益
当社の報酬は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額)で、最低報酬は2,000万円(税別)です。基本合意の時点で成功報酬額の10%を中間金としてお支払いいただき、成功報酬から全額差し引きます。基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。
売り手が先に整えられること
準備として効果が大きいのは次の三つです。
第一に、指定・認定の一覧です。講座ごとに、どの制度の指定を受け、要件が何か、更新の時期はいつか。これが分からないと、買い手は承継後に維持できるかを判断できません。
第二に、前受金と将来の義務の集計です。未提供の講義と、再受講の対象者。合格保証の条件も含めて金額に換算しておきます。
第三に、教材の権利の確認です。会社に帰属しているもの、個人に残っているもの、他社から借りているものを分けます。個人に残っている教材があれば、譲渡の設計に含めます。
進め方の順番
検討の初期は、社名を出さずに進めることができます。
- 秘密保持契約を結び、匿名の概要で相手の関心を見る
- トップ面談で、相手の目的と譲渡後の運営方針を確かめる
- 意向表明・基本合意で、価格と引き継ぎの枠組みを決める
- デューデリジェンス(買い手の調査)を受け、最終契約・クロージング
この業種では、指定・認定が維持できるかが譲渡の方法を決めます。株式譲渡と事業譲渡のどちらが適切かは、ここから逆算します。