資料3の財務・税務には「M&Aに伴う資金調達に関する基礎知識」として、 銀行融資、公的融資とLBOローンが並んでいます。

これは買い手側の論点ですが、売り手の支援者にも直結します。 買い手がお金を用意できなければ、案件は成立しないからです。

「買えると言っている人が、本当に払えるのか」

ガイドラインは、譲り受け側の調査項目に「最終契約の実行可能性の調査」を置き、 内容をこう定めています。

調査方法:財務諸表や預金通帳、融資証明書等の確認
調査内容:最終契約に記載する条件(譲渡対価の支払等)に関し、預貯金の額や 借入を予定している場合には金融機関との調整状況の確認により、 最終契約を実行できる状況にあるかを調査する。

「金融機関との調整状況の確認」まで明記されています。 「融資を受ける予定です」という言葉ではなく、どこまで話が進んでいるかを確かめる、ということです。

これが調査項目に入っている理由は、不成立の損失が売り手に重くのしかかるからです。 基本合意を結び、DDを受け入れ、従業員への説明のタイミングまで考えた後で 「お金が用意できませんでした」となれば、時間も機会も失われます。

中間金を採用している場合、基本合意の時点で売り手側に支払いが発生していることもあります。 資金調達の確度を早い段階で確かめることは、売り手を守る手続でもあります。

銀行融資と公的融資

M&Aの資金調達は、大きく次の形が取られます。

手段特徴
自己資金最も確実。ただし中小M&Aでも数千万〜数億円の規模になる
銀行融資民間金融機関からの借入。買収資金としての融資は審査の観点が通常の運転資金と異なる
公的融資日本政策金融公庫等。経営承継円滑化法の金融支援(特別融資、信用保証の特例)もここに含まれる
LBOローン買収対象会社のキャッシュ・フローや資産を返済原資とする借入

公的融資は、経営承継円滑化法の四本柱の1つです。 事業承継に伴い必要となる資金について、日本政策金融公庫等による特別融資や 信用保証協会の保証の特例が設けられています。

ガイドライン第2章IIIは、金融機関の特色を「貸付先(与信先)である顧客の詳細な財務情報等を保有している」 ことに置いています。融資する側は、会社の内情をすでに知っている—— これが、金融機関がM&A支援の担い手として位置づけられる理由でもあります。

LBOローン|買われる会社が、自分の買収資金を返す

資料3の項目名は「LBOの基本概念(LBOの仕組みと目的、レバレッジの考え方等)」です。

LBO(Leveraged Buyout)は、買収対象会社のキャッシュ・フローや資産を返済原資として 資金を借り入れ、買収を行う手法です。

典型的には、買い手が受け皿会社(SPC)を作り、その会社が借入を行って対象会社を買収し、 その後対象会社と合併することで、借入と返済原資を同じ会社に集めます。

レバレッジとは「てこ」のことで、 自己資金が少なくても大きな買収ができることを指します。 自己資金1億円で5億円の会社を買えれば、自己資金に対する利回りは高くなります。

一方で、リスクも増幅されます。 買収後の事業が想定どおり稼げなければ、返済が事業を圧迫します。 借入の負担が重い状態で、設備投資も人材採用もできなくなる——という事態が起こり得ます。

ここで、売り手側の支援者が注意すべき点があります。 買収後に会社が借入を背負うということは、従業員が働く会社の財務が変わるということです。 ガイドライン第1章が譲り渡し側の基本姿勢に 「従業員・取引先等への影響の緩和」を挙げているとおり、 誰に譲るかは、譲った後の会社の姿にも関わります。

資金調達とスキームは、つながっている

資金調達の方法は、スキームの選択にも影響します。

  • 株式譲渡……対価は株主に払う。買い手は株式取得のための資金が要る
  • 事業譲渡……対価は会社に払う。買う範囲を絞れば、必要な資金も小さくできる
  • 第三者割当……対価は会社に入る。会社の資金調達そのものが目的になる
  • 株式交換等……対価が買い手側の株式なら、現金が要らない

「買いたいが資金が足りない」という場面では、 事業譲渡で範囲を絞る段階的に持分を取得するといった選択肢が検討されます。

ただし、売り手の希望と噛み合うとは限りません。 引退したい売り手にとって、段階的な譲渡は関与が続くことを意味します。

資料3で、スキームの初期的な検討が「提案」の工程に置かれ、 資金調達が財務・税務に置かれているのは、この2つが別々に見えて 実際には同じ交渉の中で決まるためです。

試験で押さえる形

  • 資金調達の手段は自己資金/銀行融資/公的融資/LBOローン
  • 公的融資には経営承継円滑化法の金融支援(特別融資、信用保証の特例)が含まれる
  • LBO=買収対象会社のキャッシュ・フローや資産を返済原資とする借入
  • レバレッジ=自己資金が少なくても大きな買収ができる。リスクも増幅する
  • ガイドラインは「最終契約の実行可能性の調査」で、 預貯金の額と金融機関との調整状況の確認を求めている

資料3では、銀行融資・公的融資・LBOローンのいずれにも●は付いていません。 仕組みと目的が説明できるところまでが目安です。

ただし、実行可能性の調査は実務で重い論点です。 ガイドラインが調査項目として明記しているものは、倫理・行動規範の科目から問われ得ます。

本記事は一般的な説明です。個別の資金調達・財務の判断は、 必ず金融機関および公認会計士・税理士等の専門家にご確認ください。

この記事について(出典と免責)

本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。

試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。

本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。

出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。

よくあるご質問

A.自己資金、銀行融資、公的融資(日本政策金融公庫等。経営承継円滑化法の金融支援を含む)、LBOローンなどがあります。試験科目詳細では銀行融資・公的融資とLBOローンが項目として挙げられています。
A.買収対象会社のキャッシュ・フローや資産を返済原資として資金を借り入れ、買収を行う手法です。自己資金が少なくても大きな買収ができる一方、買収後の事業が想定どおり稼げなければ返済が事業を圧迫するリスクがあります。
A.中小M&Aガイドラインは譲り受け側の調査項目に「最終契約の実行可能性の調査」を置き、財務諸表や預金通帳、融資証明書等の確認により、預貯金の額や、借入を予定している場合には金融機関との調整状況を確認するとしています。

Book

この試験の勉強に使えるもの:試験範囲マップ|251項目と当社コラムの対応表で、どの項目にどの記事が対応しているか(と、当社が書けていない項目)を一覧できます。

中小M&A資格試験 合格問題集|一次資料で解く、全300問

当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。

本編180問(M&A実務55/市場動向・政策17/財務・税務37/法務32/倫理・行動規範39)+本試験と同じ60問・科目配分の模擬試験2回120問。各問に解説と出典。禁忌肢が想定される問題の明示と、付録に禁忌肢チェックリスト。付録の出題範囲対応表は、資料3の小項目から問番号を引ける形にしてあります。

中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点

同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。

問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。

本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら