資料3の税務基礎で、●(優先項目)が付いている数少ない項目の1つが 「役員退職金に関する税務知識」です。
なぜ、数ある税務論点の中でここに印が付いているのか。 理由は、中小M&Aでは対価の受け取り方そのものに関わるからです。
2つの側面がある
役員退職金は、受け取る個人と支払う法人の両側から見る必要があります。
| 論点 | |
|---|---|
| 受け取る側(個人) | 退職所得として課税される。給与所得や配当とは計算の仕組みが異なる |
| 支払う側(法人) | 一定の範囲で損金に算入される。ただし不相当に高額な部分は損金算入が否認され得る |
資料3の税務基礎には「益金と損金」「課税所得と税額」という項目もあります。 役員退職金は、この基礎概念が具体的な場面に現れる論点でもあります。
退職所得の課税は、勤続年数に応じた控除を差し引いたうえで計算される仕組みが設けられており、 一般に給与や配当として受け取る場合と税負担が異なります。 具体的な計算方法や要件は税法に定められており、個別の適用は税理士の領域です。
中小M&Aで、なぜこの論点が出てくるのか
中小M&Aでは、譲り渡し側の経営者が株主であり、かつ役員であることがほとんどです。 そのため、会社を譲るときに受け取り方が複数あり得ます。
- 株式の譲渡対価として受け取る
- 役員退職金として受け取る
- その組み合わせ
どの形で受け取るかによって、売主の手取りも、買主が負担する金額の性質も変わります。 退職金は会社から支払われるため、買主から見れば取得後の会社のキャッシュが出ていく形になります。
だから、これは税金だけの話ではなく、条件交渉の話です。 譲渡額をいくらにし、退職金をいくらにするか——両当事者の利益が対立し得る論点です。
ここで、倫理科目の規定が効いてきます。仲介者は両当事者に対して中立・公平でなければならず、 利益の対立が想定される事項は、各当事者に明示的に説明しなければなりません。 受け取り方の設計は、まさにその「利益の対立が想定される事項」にあたります。
支援者が踏み込んではいけない線
役員退職金の設計は、税務相談そのものです。
税理士法第52条により、税務相談は無償であっても税理士以外は行えません。 公表されたサンプル問題でも、無資格の支援者が「税額を無償で試算する」ことは 適法に行えない行為として挙げられています。
したがって、仲介者・FAができるのは次の範囲です。
- 論点があることを伝える(受け取り方によって税負担が変わり得ること)
- 税理士に相談すべき場面だと示す
- 相談の結果を踏まえて、条件交渉の調整を支援する
できないのは、具体的な金額の試算、「この形にすれば有利です」という助言、 損金算入の可否の判断です。
ガイドラインが求める「他の支援機関(特に士業等専門家)との連携」は、 こういう場面のためにあります。そして合格者像の「士業専門家と連携できる水準」とは、 この線が見えている状態を指します。
関連する項目|経営者保証と、資産・貸付金の整理
役員退職金は、他の論点とも連動します。
1つは経営者保証です。ガイドラインは、経営者保証の扱いを 「認識の有無にかかわらず対応するリスク」の筆頭に挙げています。 退職して会社を離れるのに保証だけ残る、という事態を避けるため、 最終契約において譲り受け側の義務として保証の解除又は移行を明確に位置付けることが求められます。
もう1つは「譲り渡し側の資産・貸付金の最終契約後整理」です。 これはガイドラインが「認識した段階で対応するリスク」として挙げている4項目の1つで、 中小企業では社長個人への貸付金や事業に使っていない資産が決算書に残っていることが珍しくありません。
退職金・保証・貸付金——いずれも経営者個人と会社の間にあるものです。 中小M&Aが「会社の取引」でありながら「個人の整理」でもあるのは、このためです。
試験で押さえる形
- 役員退職金には受け取る個人(退職所得)と支払う法人(損金算入)の2つの側面がある
- 法人側は不相当に高額な部分について損金算入が否認され得る
- 中小M&Aでは譲渡対価と退職金の配分が設計の論点になる
- 配分は両当事者の利益が対立し得る事項であり、仲介者は明示的に説明する必要がある
- 具体的な試算や有利不利の助言は、税理士の領域(税理士法第52条。無償でも不可)
- 経営者保証・貸付金の整理とセットで扱う
資料3には「源泉徴収制度に関する基礎知識」も項目として挙がっています。 退職金の支払いには源泉徴収が伴うため、あわせて確認しておくとよい範囲です。
本記事は一般的な制度の説明です。役員退職金の金額の妥当性、損金算入の可否、 個別の税額計算については、必ず税理士にご確認ください。当社は税務代理・税務相談を行いません。
この記事について(出典と免責)
本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。
試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
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中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
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