「いくらかかるのか」は、依頼者が最初に知りたいことです。 そしてガイドラインが最も細かく書いているのも、この範囲です。
試験では、何を・いつ・どの方法で説明しなければならないかが問われます。 「口頭で説明した」「契約書に書いてある」では足りない場面があるので、そこを正確に押さえます。
「書面を交付して説明しなければならない」
ガイドラインの表現は、努力目標ではありません。
成功報酬において採用される報酬率、報酬基準額(譲渡額/純資産/移動総資産等)、最低手数料の額、 報酬の発生タイミング(着手金/月額報酬/中間金/成功報酬)等の手数料の算定基準や 提供する具体的な業務の内容について書面を交付して(メール送付等といった電磁的方法による提供を含む。)、 説明しなければならない。
ポイントは「報酬基準額(譲渡額/純資産/移動総資産等)」が明示されていることです。 レーマン方式と一口に言っても、料率を掛ける基準額の取り方で総額が大きく変わります。 だから料率だけでなく、何に料率を掛けるのかまで説明する義務がある、という組み立てです。
提供する業務についても同様に書面が求められます。
M&Aのプロセスごとにどういった業務を提供するのか整理 (各プロセスにおいて特定の一部又は全部の業務を提供しない場合には、その旨の整理も含む。)を実施の上、 書面を交付して、説明しなければならない。
「やらないこと」も書くという点が見落とされがちです。
説明すべき事項の一覧
ガイドラインは、契約締結前に説明すべき事項を列挙しています。主なものは次のとおりです。
- 担当者の保有資格(公認会計士、税理士、中小企業診断士、弁護士、行政書士、司法書士、社会保険労務士、簿記検定等)・経験年数・成約実績
- 手数料に関する事項(算定基準、金額、最低手数料、既に支払を受けた手数料の控除、支払時期等)
- 手数料以外に依頼者が支払うべき費用(費用の種類、支払時期等)
- (仲介者の場合)相手方の手数料に関する事項(算定基準、最低手数料、支払時期等)
- 秘密保持に関する事項
- 直接交渉の制限に関する事項
- 専任条項(セカンド・オピニオンの可否等)
- テール条項(テール期間、対象となるM&A等)
- 契約期間、契約の解除・中途解約に関する事項
- 責任(免責)に関する事項
- 契約終了後も効力を有する条項
- (仲介者の場合)両当事者間において利益の対立が想定される事項
- (譲り渡し側への説明)譲り受け側に対して実施する調査の概要
- (譲り渡し側への説明)業界内での情報共有の仕組みへの参加有無(参加していない場合にはその旨)
最後の項目は見落としやすい論点です。参加していないことも説明対象だと明記されています。
相手方の手数料まで開示する、という考え方
仲介者は両当事者から依頼を受けるため、相手方がいくら払うのかも説明対象になります。
依頼者から見れば、相手方の手数料体系は仲介者の動機を推し量る材料です。 一方だけが著しく高い手数料を払う設計なら、仲介者がどちらに寄りやすいかが見えます。 利益相反の節にある「両当事者から手数料を受領することが定められている場合には、その旨を伝える」と、同じ発想です。
また、免責条項について、ガイドラインは冷静な注記を置いています。
損害賠償責任(免責)に関する条項の法的な有効性について、本ガイドラインは言及するものではない。 また、かかる条項を依頼者に対して説明することと、当該条項の法的な効力の有無とは別の問題であり、 説明したからといって法的な効力が認められる関係にはない
資料2のサンプル問題(法務)も、免責条項があってもアドバイザーが当然に負うべき 正確かつ適切な情報提供義務が直ちに消えるわけではない、という趣旨でした。説明=免責ではありません。
クロージング後の役務と、非弁行為の説明
もう1つ、説明義務として明記されている論点があります。
仲介契約・FA契約に基づき提供する役務の範囲がクロージングまでである場合には、 クロージング後の役務提供が難しい旨を説明する必要がある。 また、役務の範囲に関わらず当事者間で生じた紛争解決に向けた支援は非弁行為(弁護士法第72条)に該当しうるおそれがある旨も 説明しなければならず、その場合には必要に応じて弁護士等の意見を求める必要がある旨を説明することが望ましい。
「成約後にもめたら助けてくれるはず」という期待は、依頼者側に自然に生まれます。 期待が生まれる前に、できないことを言っておくのが義務だということです。
当社の料金ページを、教材として読む
説明義務の中身は、公開されている料金ページを読むと具体的に分かります。 当社の料金体系を例に、ガイドラインの説明事項と突き合わせてみます。
| ガイドラインが求める事項 | 当社の料金ページでの記載 |
|---|---|
| 報酬率 | レーマン方式(5億円以下5%/5〜10億円4%/10〜50億円3%/50〜100億円2%/100億円超1%) |
| 報酬基準額の取り方 | 移動総資産(株式価値+負債総額)ベースと明示 |
| 最低手数料 | 最低成功報酬2,000万円(税別) |
| 報酬の発生タイミング | 相談料・着手金・月額報酬は0円/基本合意時に成功報酬額の10%を中間金 |
| 既に支払を受けた手数料の控除 | 中間金は成功報酬から全額を差し引いて請求(ただし基本合意後に不成立となった場合、中間金は返金しません) |
| 不利な条件の明示 | 基本合意後に成約へ至らなかった場合、中間金は返金しないと明記 |
注目してほしいのは最後の行です。返金しないという、依頼者にとって不利な条件が書かれていること。 ガイドラインが求めているのは「良く見せること」ではなく、判断に必要な事実を先に出すことです。
試験対策としては、自社や他社の料金ページを、この一覧表と突き合わせて読むのが最短です。 何が書かれていて、何が書かれていないかが見えるようになります。
この記事について(出典と免責)
本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。
試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
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中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
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