資料3の税務基礎で●(優先項目)が付いているのは、 「各種税金の基本部分、考え方に関する基礎知識」です。
税目が8つ並んでいます。広く浅く——これが求められている形です。 どの場面で、どの税が出てくるかを言えることが目標になります。
資料3に並んでいる税目
試験科目詳細には、次の税目が挙げられています。
- 法人税
- 所得税(株式譲渡課税、事業譲渡課税等)
- 消費税
- 贈与税
- 相続税
- 印紙税
- 不動産取得税
- 登録免許税等
この並びから読み取れるのは、M&Aは1つの税金の話ではないということです。 誰が、何を、どう動かすかによって、登場する税が変わります。
そしてもう1つ。贈与税と相続税が入っていることに注目してください。 これは親族内承継との比較が前提にあるためです。 資料3の「提案」工程にも「第三者承継以外の事業承継スキームに関する基本的な知識」が置かれています。
スキーム別に、誰に何がかかるか
| スキーム | 主に課税される人 | 主な税目 |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 株主(個人/法人) | 個人なら所得税等(株式の譲渡所得)、法人なら法人税 |
| 事業譲渡 | 会社 | 法人税(譲渡益)、消費税(課税資産が含まれる場合) |
| 会社分割・合併 | 会社(適格要件を満たせば課税繰延べ) | 法人税、組織再編税制の枠組み |
| 親族内承継 | 後継者 | 贈与税・相続税(事業承継税制の対象になり得る) |
最初に確認すべきは、誰が課税されるかです。 株式譲渡なら株主、事業譲渡なら会社。ここを取り違えると、手取りの話がすべて狂います。
中小M&Aでは経営者個人が株主であることが多く、株式譲渡なら対価は経営者個人に入ります。 事業譲渡なら会社に入るため、経営者個人が手にするには配当や退職金といったもう一段の手続が要り、 そこでまた課税が生じます。
消費税も分かれ目です。株式の譲渡は非課税ですが、 事業譲渡では課税資産の譲渡が含まれる場合に課税されます。
工程別に、どこで税が出てくるか
| 工程 | 出てくる税 |
|---|---|
| 契約書の作成 | 印紙税(文書の種類・記載金額による) |
| バリュエーション | 税務上の株価の考え方(相続税法上の評価等との違い) |
| 税務DD | 過去の申告の誤り・否認リスク、繰越欠損金の扱い |
| 最終契約 | 表明保証に関する税務知識、譲渡額の調整 |
| クロージング(不動産が動く場合) | 不動産取得税、登録免許税 |
| 対価の受け取り | 株式の譲渡所得、役員退職金(退職所得)、配当 |
印紙税は地味ですが、契約書を作る以上は必ず出てきます。 不動産取得税・登録免許税は、事業譲渡や会社分割で不動産が移転する場合に発生します。 ガイドラインがクロージングで登記手続を司法書士等に委託するとしているのも、この場面です。
資料3には「役員退職金に関する税務知識」に●が付いています。 対価の受け取り方の設計に直結するためで、 譲渡対価として受け取るか、退職金として受け取るかが条件交渉の論点になります。
税務DDと、表明保証のつながり
資料3には「税務DD 調査事項に関する税務知識(●)」が置かれています。
税務DDで見るのは、おおむね次のような論点です。
- 過去の申告に誤りや否認リスクがないか
- 繰越欠損金の金額と、買収後に使えるかどうか
- 同族会社に特有の取引(役員との取引、関係会社との取引)
- 源泉徴収の漏れがないか
検出された場合、過去分の納税と加算税が生じる可能性があります。 これは簿外債務にあたり、実態純資産を押し下げます。
そして表明保証につながります。「申告は適正に行われており、未納の税金はない」は 典型的な表明保証事項です。税務DDをやらなければ、この点のリスクは売主が負うことになります。
ガイドラインがDDの非実施を 「認識の有無にかかわらず対応するリスク」に挙げているのは、こういう構造があるからです。
支援者の線|ここは絶対に越えない
税金の話は、依頼者が最も知りたがる領域です。 「結局いくら手元に残るのか」は、売るかどうかの判断に直結します。
しかし——税理士法第52条により、税務相談は無償であっても税理士以外は行えません。
公表されたサンプル問題でも、無資格の支援者が行えない行為として 「税額を無償で試算する」が明示されています。 「サービスだから」「概算だから」「参考値として」は、いずれも理由になりません。
| できる | できない |
|---|---|
| 税務の論点があることを伝える | 税額を試算する(無償でも) |
| スキームによって課税関係が変わり得ると説明する | どのスキームが有利かを助言する |
| 税理士への相談を促す | 適用要件の該当性を判断する |
| 相談結果を踏まえて条件交渉を調整する | 申告書の作成に関与する |
合格者像の「検討が必要な論点を見極め、士業専門家と連携できる水準」が、 最もはっきり現れるのがこの科目です。
なお、税率・控除・適用期限は毎年の税制改正で変わります。 数字を覚えるのではなく、どの税目がどの場面で出てくるかを覚える—— これが試験でも実務でも、長く使える形です。
最後に、資料3の税務側にある残りの項目も挙げておきます(いずれも●なし)。
- 配当・自己株買い、現物分配(実施方法・税額等)に関する税務知識…… 事業譲渡の後、会社に残った資金を株主に渡す場面などで出てくる
- 組織再編税制に関する基礎知識……合併・会社分割・株式交換等の課税繰延べの枠組み
- グループ通算制度/グループ法人税制に関する基礎知識…… 買い手がグループを形成している場合の論点
- 表明保証に関する税務知識……補償金を受け取った場合の扱いなど
これらに●が付いていない一方、株式譲渡には●が付いています。 中小M&Aの多くは株式譲渡か事業譲渡であり、そこを確実にすることが優先される—— という配分が、資料3の印の付き方から読み取れます。
本記事は一般的な制度の説明です。個別の税額計算・適用可否は、必ず税理士にご確認ください。 当社は税務代理・税務相談を行いません。
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試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
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出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
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中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
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