M&Aの相談では、価格の話と費用の話が別々の場面で出てきます。価格は交渉の中で、手数料は契約の場面で、税金は税理士との面談で。それぞれ聞いているのに、「結局いくら残るのか」が最後まで分からない——これが、判断を先送りしてしまう大きな原因です。本稿では、この三つを一枚の表に載せる手順と、どこを動かすと手取りが大きく変わるのかを整理します。
別々に聞いていると、判断できない
なぜ一枚にまとめる必要があるのか。理由は三つあります。
- 差し引かれる順番があるから——手数料は税引き前、税金は譲渡益に対して計算される。順番を無視すると金額が合わない
- 金額の大きさが違うから——手数料を数百万円削る話と、価格が数千万円動く話は、同じ重さではない
- お金が動く時期が違うから——中間金は基本合意時、手数料の残りは成約時、税金は翌年の申告時。資金繰りは時期で決まる
とくに三つ目は見落とされがちです。譲渡対価が入った年に手取りを使ってしまい、翌年の納税で慌てるという事態は避けなければなりません。金額の表と時期の表は、両方作ってください。手取りの基本的な考え方は「手取りはいくらになるか」でも扱っています。
一枚の表の作り方
次の形で作ります。右の二列は自社の数字で埋めてください。埋められない欄があれば、そこが今いちばん確認すべき項目です。
| 行 | 内容 | 確定度 | いつ動くか |
|---|---|---|---|
| ① 譲渡対価 | 株式の対価 | 交渉で決まる | クロージング時 |
| ② 役員退職金 | 支給する場合の金額 | 会社の資金と税務で決まる | 支給決議の後 |
| ③ 仲介手数料 | 成功報酬(中間金を含む) | 契約前に試算できる | 基本合意時と成約時 |
| ④ 専門家費用 | 弁護士・税理士など | 見積もりを取れる | 依頼の都度 |
| ⑤ 実費 | 登記・証明書・印紙など | おおむね小さい | クロージング前後 |
| ⑥ 税金 | 株式譲渡益に20.315% | 税理士に試算を依頼 | 翌年の確定申告 |
| 手取り | ①+②−③−④−⑤−⑥ |
株式譲渡益にかかる20.315%は、所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計です。譲渡益は「対価−取得費−譲渡費用」で計算されるため、③④⑤の一部は譲渡費用として差し引ける場合があります。どこまでが該当するかは個別の判断になりますので、「M&A関連費用の税務上の扱い」を参考にしつつ、実際の申告は顧問税理士にご確認ください。役員退職金の税務も会社ごとに事情が違います。
当社の基準を当てはめた例
③の欄を埋めるには、手数料の基準がはっきりしている必要があります。当社の基準(移動総資産レーマン方式・基準額=株式価値+負債総額・最低2,000万円/税別)で計算例を示します。
| ケース | 基準額 | 成功報酬 | 内訳 |
|---|---|---|---|
| A | 1億5,000万円+1億円=2億5,000万円 | 2,000万円(最低額) | 中間金200万円+成約時1,800万円 |
| B | 3億円+2億円=5億円 | 2,500万円 | 中間金250万円+成約時2,250万円 |
| C | 7億円+3億円=10億円 | 4,500万円 | 中間金450万円+成約時4,050万円 |
中間金は成功報酬額の10%で、基本合意の時点でお支払いいただきます。中間金は成功報酬から全額を差し引きますが、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。表を作るときは、この時期の違いも欄に書き入れてください。
なお、相談料・着手金・月額報酬はいただきません。他社と比べる場合は、料率だけでなく「基準額の定義」と「最低額」を揃えて比べないと意味がありません。比べ方は「手数料の見積もりをどう取るか」で整理しています。
どこを動かすと手取りが大きく変わるか
表ができると、動かす価値のある項目の順番が見えてきます。一般に、影響の大きい順は次のとおりです。
| 順 | 項目 | 効き方 |
|---|---|---|
| 1 | 譲渡対価 | 最も大きい。準備と相手の選び方、複数の候補との比較で動く |
| 2 | 受け取り方の設計 | 対価と役員退職金の組み合わせなど。税負担が変わり得る |
| 3 | 仲介手数料 | 基準額の定義と最低額で決まる。契約前にしか動かせない |
| 4 | 専門家費用・実費 | 金額としては小さい。削りすぎると確認が甘くなる |
ここから導かれる結論は単純です。手数料の交渉に時間をかけるより、価格と受け取り方に時間をかけたほうが手取りは増えます。とくに④を削ることには注意が必要です。契約書の確認を省いて後から問題が出れば、削った金額の何倍もの損失になり得ます。
一方で、③は契約前であれば確認と選択ができる項目です。基準額の定義、最低額、中間金の扱い。署名した後は動きませんから、「手数料は後で考える」という順序だけは避けてください。手数料の交渉について考えるべき点は「M&A仲介手数料は交渉できるのか」で扱っています。
この表を、相手に埋めてもらう
作った表は、そのまま質問票として使えます。空欄を指して「ここはいくらになりますか」と聞くだけで、相手の姿勢が分かります。
- ③——決算書を渡せば、その場で概算が出るはずです。出ないのであれば理由を聞いてください
- ④——どの専門家に、どの段階で依頼が必要になるかを聞きます
- ⑤——おおよその範囲で構いません。金額より、抜け漏れがないかを見ます
- ⑥——仲介は税務の断定を避けるべき立場ですが、税理士に確認すべき論点は示せます
- 時期——それぞれいつ支払うのか。入金の前か後かを必ず確認します
当社は、ご相談の初期段階で基準額の試算と手数料の見込みをお伝えし、ご契約の前に総額の目安を書面でご提示しています。税金の部分は顧問税理士にご確認いただく前提で、論点と時期をお示しします。表が埋まってから判断する——この順序であれば、途中で迷いにくくなります。
よくあるご質問
Free Consultation
最後にいくら残るのか、一枚の表にしてお渡しします。
直近の決算書があれば、基準額と手数料の見込み、支払いの時期をまとめてご説明します。ご相談の段階で費用は発生しません。
フォームは24時間受け付けており、2営業日以内にご返信します。メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。