測量業や建設コンサルタントは、道路、河川、上下水道、橋梁といった社会インフラの計画・設計・調査を担う仕事です。発注者の多くが国や自治体であるため、事業の継続性は制度上の登録と、入札に参加できる資格、そして過去の業務実績に強く結びついています。そしてその全体を支えているのが、技術士や測量士といった有資格の技術者です。本稿では、この業種の事業承継・M&Aについて、制度、実績、人という三つの軸で整理します。

測量・建設コンサルタント業界の現在地

この業界で承継の検討が進む背景には、次のような事情があります。

ひとつは、技術者の高齢化です。技術士や測量士として長く現場を支えてきた方々が引退の時期を迎える一方、若手の採用は容易ではありません。技術者の数が登録や入札における評価に関わる業種であるため、人の減少がそのまま受注能力の低下につながります。

もうひとつは、業務の高度化です。三次元測量、ドローンやレーザースキャナの活用、BIM/CIMへの対応、インフラの老朽化に伴う点検・診断業務——求められる技術の幅が広がり、機材とソフトへの投資、そして技術者の教育負担が増しています。

そして、後継者の不在です。帝国データバンクの2025年の調査によれば国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。この業界では、経営者様ご自身が最上位の有資格技術者であることが多く、その方が退くと会社の受注能力が大きく変わるという特殊事情があります。だからこそ、承継は時間をかけた設計が必要になります。

買い手側の関心は、有資格者、公共案件の実績、そして地域における発注者との関係にあります。同業による地域展開、建設会社による設計・調査機能の内製化、周辺分野(地質調査、補償コンサルタント、施工管理)からの機能補完など、動機はさまざまです。

登録と有資格者|承継の前提になる制度上の要件

測量業を営むには測量法に基づく登録が必要とされ、営業所ごとに測量士を置くことが求められているとされています。建設コンサルタントについては、国土交通省の建設コンサルタント登録規程に基づく登録の制度があり、登録を受けようとする部門ごとに技術管理者を置くことなどが要件とされています。地質調査業や補償コンサルタントについても、それぞれ登録の制度が設けられています。

株式譲渡の場合

株式譲渡では法人が存続するため、法人が受けている登録は一般に維持されると考えられています。ただし、役員や技術管理者に変更が生じた場合には、所定の届出が求められるとされています。

事業譲渡の場合

事業譲渡では事業主体が変わるため、登録は原則として引き継がれず、譲受側が自ら登録を受けている必要があるのが通常です。この違いは、公共案件を継続的に受注している会社では特に重要になります。

技術管理者・有資格者の在籍

最も注意すべきなのは、登録要件を満たす有資格者が譲渡後も在籍するかどうかです。技術管理者を経営者様ご本人が務めている場合、その方が退けば登録の要件に影響が生じかねません。誰が要件を満たしているか、退任予定はあるか、後任の候補はいるか——この整理は交渉の初期段階で必要です。

登録の要件、届出の要否と期限、技術管理者の資格要件は、部門や制度の改正、所管官庁の運用によって異なります。実務にあたっては、所管官庁の窓口および専門家に必ずご確認ください。

公共案件をどう引き継ぐか|実績と入札資格の論点

この業種の売上の多くは、官公庁からの発注です。買い手が確認するのは「その受注が今後も続くのか」であり、そのために次の点を見ます。

  • 発注者別の受注額(直近3〜5年)と、その分散度
  • 業務種別ごとの実績(測量、設計、調査、点検、補償など)
  • 入札参加資格の登録状況と、等級・評点の推移
  • 過去の業務成績評定の水準
  • 随意契約・特命の有無と、その理由
  • 指名停止などの処分歴の有無

入札参加資格の審査では、技術者の数や資格、業務の実績、財務の状況などが評価に用いられるとされています。株式譲渡で法人が存続する場合でも、技術者が入れ替われば次回以降の評価に影響する可能性がありますから、買い手は人の継続性と評価の関係を確認します。

また、公共案件では、履行中の業務がある状態で株主が変わることの影響も検討事項です。契約上の届出や報告が必要になる場合がありますので、契約書と発注者の運用を確認しておく必要があります。同様の論点は建設業でも生じます。「建設業のM&A」もあわせてご覧ください。

民間案件を持っている会社の場合は、その構成も価値になります。公共に偏らない収益源があることは、財政や発注量の変動に対する耐性として評価されます。

技術者の構成と、技術の継承

買い手にとって最大の関心事は、技術者です。次のような一覧を用意しておくと、話が早く進みます。

整理する項目内容
資格の保有状況技術士、RCCM、測量士・測量士補、その他の関連資格の保有者数と部門。
年齢構成年代別の人数。とくに40代以下の有資格者が何名いるか。
担当領域誰がどの分野の業務を担当できるか。管理技術者を務められる人数。
採用・育成直近の採用実績、資格取得支援の仕組み、離職の状況。
外注の状況協力会社への委託比率と、その委託先との関係。

経営者様が管理技術者として業務を回している場合、その業務量と、退任後にどうカバーするかが交渉の中心になります。ここでも、一定期間の引継ぎを前提に設計することが現実的です。技術の継承には時間がかかりますから、譲渡後2〜3年の関与を想定した交渉も珍しくありません。

あわせて、技術資産の整理も有効です。過去の業務成果品、基準点や測量データの蓄積、設計の標準的な手順、使用しているソフトウェアとライセンス。これらは目に見えにくい資産ですが、引き継ぐ側にとっては実務上の価値があります。

譲渡に向けた準備と、買い手の視点

準備の手順としては、次の流れをお勧めします。

第一に、登録と資格の確認です。登録の有効期間、更新の時期、届出事項が現況と合っているか、技術管理者の要件を満たしているか。ここが曖昧なままだと、交渉は進みません。

第二に、受注の可視化です。発注者別・業務種別の受注と粗利、進行中の案件の一覧と進捗、来期以降の受注見込み。業務の期間が年度をまたぐことが多い業種ですから、進行基準や原価の把握が適切かどうかも確認されます。

第三に、労務の点検です。年度末に業務が集中しやすい業種であり、時間外労働の管理と割増賃金の計算は必ず見られます。未整理の部分があれば、事前に是正しておくことが結果として価格を守ります。

第四に、財務の整理です。仕掛品の計上、前受金、借入と経営者保証の状況。金融庁の公表によれば経営者保証に依存しない融資の割合は2024年度上期で52%とされていますが、個別の対応は金融機関との協議になります。

そして、情報管理です。技術者が価値の中心である以上、開示のタイミングを誤ると人材の流出につながります。従業員への説明については「会社売却を従業員にいつ・どう伝えるか」をご参照ください。

まとめ|資格者と実績が生きているうちに

測量・建設コンサルタントの承継は、制度上の要件を満たし続けられるかという問題に集約されます。登録も入札資格も実績も、すべては技術者がいることを前提にしています。したがって、技術者が在籍し、受注が続いているうちに次の体制を考えることが、この業種では特に重要です。

インフラの維持管理という社会的な役割を担う事業であればこそ、途切れさせない形での承継には意味があります。「あと数年は自分でやれる」と考えている段階こそ、選択肢を確認しておくべき時期といえます。

当社プラチナパートナーズは、建設関連分野を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。登録や技術者体制の整理といった初期の段階からご相談いただけます。

よくあるご質問

A.最も注意すべき点です。測量業を営むには測量法に基づく登録が必要とされ、営業所ごとに測量士を置くことが求められているとされています。建設コンサルタントについても、登録を受けようとする部門ごとに技術管理者を置くことなどが要件とされています。技術管理者を経営者様ご本人が務めている場合、その方が退けば登録の要件に影響が生じかねません。誰が要件を満たしているか、退任予定はあるか、後任の候補はいるか——この整理は交渉の初期段階で必要です。要件と届出は所管官庁の窓口および専門家にご確認ください。
A.名義としては法人に紐づきますが、そのままとは限りません。入札参加資格の審査では、技術者の数や資格、業務の実績、財務の状況などが評価に用いられるとされていますので、法人が存続しても技術者が入れ替われば次回以降の評価に影響する可能性があります。買い手は人の継続性と評価の関係を確認します。発注者別の受注額の推移と分散度、業務種別ごとの実績、等級・評点の推移、業務成績評定の水準、指名停止などの処分歴を整理してください。履行中の業務がある状態で株主が変わる場合の届出・報告についても、契約書と発注者の運用を確認しておく必要があります。
A.技術の継承には時間がかかりますので、譲渡後2〜3年の関与を想定した交渉も珍しくありません。まずご自身が担っている業務量と、退任後にどうカバーするかを整理し、一定期間の引継ぎを前提に設計することが現実的です。あわせて技術資産の整理も有効です。過去の業務成果品、基準点や測量データの蓄積、設計の標準的な手順、使用しているソフトウェアとライセンス。これらは目に見えにくい資産ですが、引き継ぐ側にとっては実務上の価値があります。
A.年度末に業務が集中しやすい業種であり、時間外労働の管理と割増賃金の計算は必ず見られます。未整理の部分があれば、事前に是正しておくことが結果として価格を守ります。あわせて財務面では、業務の期間が年度をまたぐことが多い業種ですので、仕掛品の計上、前受金、進行中の案件の進捗と原価の把握が適切かどうかも確認されます。借入と経営者保証の状況も整理してください。経営者保証に依存しない融資の割合は2024年度上期で52%とされていますが、個別の対応は金融機関との協議になります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら