事業承継税制は、後継者が自社株を贈与や相続で取得したときの納税を猶予する制度です。株価が高い会社では、使えるかどうかで承継の可否が変わるほどの効果があります。

ただし、猶予は免除ではありません。適用を受けた後も要件を満たし続ける必要があり、満たせなくなると猶予されていた税額を納めることになります。利子税も付きます。

したがって、使う前に「何を守り続けるのか」を知っておく必要があります。ここでは要件の軸を整理します。制度の細部と期限は改正があるため、必ず税理士に確認してください。

前提になる計画の提出期限

特例の措置を使うには、特例承継計画を作って都道府県に提出し、確認を受ける必要があります。

この計画の提出期限は2027年9月30日、制度の適用期限は2027年12月31日までの贈与・相続とされています(2026年8月時点の情報)。

期限が決まっているため、検討の時間が限られます。計画には、会社の概要、後継者、承継の時期、承継後の経営の見通しを書きます。認定経営革新等支援機関の所見が必要です。

注意すべきは、計画を出したからといって使わなければならないわけではないことです。出しておいて、実際に贈与するかどうかは後で決められます。したがって、使う可能性があるなら先に出しておくという判断があります。

逆に、期限を過ぎてから「使いたい」となっても間に合いません。株価が高く、親族内の承継を考えている会社では、早めに確かめる必要があります。

要件1 — 株式を持ち続ける

適用後の要件の1つめは、後継者が対象の株式を保有し続けることです。

譲渡すると、その割合に応じて猶予が取り消されます。つまり、この制度を使った後にM&Aで会社を売ると、猶予されていた税額を納めることになります。

これが実務上いちばん重い制約です。親族内の承継を前提に制度を使い、数年後に後継者が「続けられない」と判断した場合、売却と納税が同時に来ます。

ただし、一定の場合には軽減される措置が設けられています。経営環境の変化に対応する措置として、譲渡や合併、解散の際に納税額を再計算する仕組みがあります。要件があり、すべての場合に使えるわけではありません。

したがって、将来の売却の可能性をどう見るかが、この制度を使うかどうかの判断に入ります。「とりあえず使う」という扱いには向きません。

要件2 — 支配関係と役員であること

2つめは、後継者が会社の代表者であり続けることと、議決権の保有の状況です。

後継者が代表を辞めると、猶予が取り消される場面があります。健康の問題で退く場合などには例外的な取扱いが設けられていますが、原則として代表を続けることが前提です。

また、先代経営者が代表を退いていることも要件です。贈与の場合、先代が代表を辞めていなければ適用できません。これは「実質的に承継する」ことを求める趣旨です。

議決権についても、後継者と同族で一定の割合を保ち、後継者が同族内で筆頭であることが求められます。株式を分散させると要件を満たせなくなることがあります。

したがって、この制度を使う会社では株主構成を動かすときに毎回確認が必要になります。増資、相続、株の移動が要件に触れないかを見ます。

要件3 — 雇用と報告

3つめは、従業員の雇用に関する要件です。特例の措置では、平均の従業員数について要件が定められており、満たせない場合でも一定の手続きを踏むことで猶予が継続する仕組みが用意されています。

この手続きには、理由を記載した書類の提出と、認定経営革新等支援機関の所見が必要です。満たせなかったことを放置すると、猶予が取り消されます。

加えて、継続届出書の提出が必要です。一定の期間は毎年、その後は数年ごとに、都道府県と税務署へ提出します。

この提出を忘れると、要件を満たしていても猶予が取り消されます。実務でいちばん起きやすい失敗がここです。

したがって、制度を使ったら提出の期限を管理する仕組みを作ることになります。顧問税理士と、誰がいつ何を出すのかを決めておきます。

使う前に比べておくこと

この制度は効果が大きい一方で制約も重いため、他の手段と比べてから決めるのが実務です。

株価を下げてから渡す。評価を下げる手を打ってから贈与や売買で移す形。制度の制約を負いません。

段階的に渡す。毎年少しずつ贈与する形。基礎控除の範囲や相続時精算課税の活用を含めて検討します。

持株会社を使う。会社が借入で株を買い取る形。

種類株式を使う。議決権と財産価値を分けて動かす形。

第三者に譲る。親族内の承継を前提としないなら、そもそもこの制度の対象外です。

比べる軸は3つです。①今の税負担 ②将来の制約 ③後継者が続けられる見込み。

制度を使えば今の負担は軽くなりますが、将来の選択肢が狭まります。後継者が本当に続ける意思と能力があるかが、いちばん重い前提です。制度の内容・要件・期限は改正があるため、必ず税理士に確認してください。

なお、この制度には一般の措置と特例の措置があり、対象となる株式の範囲や猶予される割合、要件が異なります。ここで触れたのは主に特例の措置についてです。どちらを使うのか、使えるのかは会社の状況で変わるため、税理士に確認してください。

よくあるご質問

A.猶予は免除ではありません。適用後も要件を満たし続ける必要があり、満たせなくなると猶予されていた税額と利子税を納めることになります。一定の場合に免除される仕組みもありますが、要件があります。
A.譲渡すると、その割合に応じて猶予が取り消されます。経営環境の変化に対応する措置として納税額を再計算する仕組みがありますが、要件があり、すべての場合に使えるわけではありません。
A.2027年9月30日が提出期限、適用期限は2027年12月31日までの贈与・相続とされています(2026年8月時点)。計画を出しても実際に使うかは後で決められるため、使う可能性があるなら先に出す判断があります。
A.継続届出書の提出忘れです。要件を満たしていても、提出を忘れると猶予が取り消されます。制度を使ったら、誰がいつ何を出すのかを顧問税理士と決めて管理してください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら