事業承継の核心は、経営を引き継ぐことと、その裏づけとなる株式を引き継ぐことの両方です。このうち株式については、渡す手段が複数あり、どれを選ぶかで税金の種類も、渡すタイミングも、他のご家族への影響も変わります。本稿では、贈与・売買・遺贈という3つの手段の性質を比べ、実務でどう組み合わせるのかをご説明します。なお、具体的な税額の計算や制度の適用可否は個別性が高いため、必ず税理士にご確認ください。
株式を渡す手段は3つ|それぞれ性質が違う
後継者に自社株を移す手段は、大きく次の3つです。生前に無償で渡す「贈与」、生前に対価をもらって渡す「売買(有償譲渡)」、そして逝去に伴って渡す「遺贈・相続」。この3つは、課税される税目も、渡す側の意思が働く余地も異なります。
| 手段 | 渡す時期 | 後継者の資金負担 | 主な税 |
|---|---|---|---|
| 贈与 | 経営者が決められる | なし(贈与税は要負担) | 贈与税 |
| 売買 | 経営者が決められる | 買取資金が必要 | 譲渡所得課税 |
| 遺贈・相続 | 逝去のとき | なし(相続税は要負担) | 相続税 |
どれを選ぶかを決める要素は、主に3つあります。自社株の評価額がどの程度か、後継者に買取資金があるか、そして後継者以外の相続人がいるか。この3つの組み合わせで、現実的な選択肢は絞られていきます。
贈与|タイミングを選べるが、税負担と遺留分に注意
贈与の最大の利点は、経営者ご自身の意思でタイミングを決められることです。後継者の成長に合わせて、議決権の一部から段階的に渡していくといった設計もできます。
贈与の課税方式には、年110万円の基礎控除の範囲で毎年少しずつ渡していく暦年贈与と、累計2,500万円までの特別控除を使ってまとまった株式を先に移す相続時精算課税制度があります(相続時精算課税にも2024年から別途年110万円の基礎控除が設けられています)。自社株の評価額と、今後の業績見通しによって有利不利が変わるため、選択は税理士との検討が欠かせません。詳しくは「生前贈与で自社株を渡す」をご覧ください。
注意点は2つあります。ひとつは、贈与税は後継者が負担するため、評価額が大きい会社では後継者の資金繰りが問題になること。もうひとつは、生前に贈与した株式が遺留分の算定に含まれる場合があり、「早めに贈与したから安心」とは言い切れないことです。他に相続人がいらっしゃる場合は、贈与と併せて遺留分への備えを検討しておく必要があります。
売買|対価が入る代わりに、後継者に資金が要る
後継者が対価を支払って株式を取得する方法です。経営者には売却代金が入り、引退後の生活資金に充てられます。また、対価のやり取りを伴うため、贈与に比べて他の相続人からの不満が生じにくいという側面もあります。
個人間の株式譲渡では、譲渡益に対して原則20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)の税率で課税されます。ここで気をつけたいのが価格の設定です。時価と比べて著しく低い価格で売買すると、その差額について贈与とみなされて課税が生じ得ます。適正な株価をどう算定するかが前提となるため、税理士による評価が必要です。
後継者側の資金については、金融機関からの借入や、持株会社を設立しての取得といった方法が検討されます。とくに社内承継の場面では、この資金の壁が実行上の最大の論点になります。自社株のおおよその水準を掴んでおきたい場合は、企業価値算定シミュレーターもご利用いただけます。
遺贈・相続|遺言がなければ株式は分散し得る
逝去に伴って株式が移転する場合、遺言があれば「誰に何株を相続させるか」を指定できます。遺言がない場合は遺産分割協議によることになり、協議がまとまるまで株式は相続人全員の共有状態に置かれます。共有中は権利行使者を定めなければ議決権を行使できず、経営の意思決定が滞るおそれがあります。
また、協議の結果として株式が複数の相続人に分かれてしまうと、経営に関与しない親族が株主として残ります。将来の増資や重要な決議のたびに同意を求める必要が生じ、後継者の経営が不安定になりかねません。
したがって、相続に委ねる部分がある場合は、遺言の作成がほぼ必須と考えてよいでしょう。ただし遺言で株式を後継者に集中させても、他の相続人の遺留分を侵害していれば金銭の支払いを求められる可能性があります。株式以外の財産の配分や、生命保険の活用など、全体のバランスを設計する必要があります。詳細は「遺言と自社株」をご参照ください。法的な設計は個別性が高いため、弁護士にご確認ください。
組み合わせて設計する|実務で多い型
実際の承継では、3つの手段のいずれか一つだけを使うことは多くありません。よく見られるのは次のような組み立てです。
- 議決権の過半数にあたる部分を先に贈与し、残りは遺言で相続させる
- 後継者の資金力に見合う分だけ売買で渡し、不足分を贈与で補う
- 持株会社を用いて株式を集約したうえで、持株会社の株式を段階的に移す
- 種類株式を用いて、議決権は後継者に、配当を受ける権利は他の相続人にと分ける
持株会社を使う方法は「ホールディングス化とは」、種類株式については「種類株式・黄金株とは」で解説しています。いずれも設計の自由度が高い反面、税務・法務の検討が不可欠です。
まとめ|手段の選択は、家族構成と評価額から決まる
贈与・売買・遺贈のどれを選ぶかは、好みの問題ではありません。自社株の評価額、後継者の資金力、他の相続人の有無という3つの事実から、現実的な選択肢が絞られていきます。まずはこの3点を確かめることが出発点です。
そして、どの手段をとるにせよ、時間があるほど選択肢は広がります。分割して贈与するにも、後継者が資金を準備するにも、遺言を整えて家族に説明するにも、年単位の余裕があるかどうかで進め方が変わるからです。
当社は、株式の移転設計そのものを行う立場ではありませんが、「親族内で渡すのと第三者に譲渡するのとで、何がどう変わるのか」を比較の視点からご説明できます。判断の材料が足りないと感じられた段階で、お気軽にご相談ください。
よくあるご質問
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親族内で渡す場合と第三者に譲渡する場合の違いを、比較の視点でご説明します。
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