小規模企業共済に加入している経営者は多くいらっしゃいます。会社を譲渡して役員を退くとき、この共済をどう扱うかが論点になります。

整理しておきたいのは、いつ受け取れるのか、どう受け取ると負担が変わるのか、役員退職金と重なったときにどうなるのかの三点です。本稿では考え方を整理します。金額の計算は必ず税理士にご確認ください。

受け取れる時期

小規模企業共済は、事業をやめたときや役員を退任したときに受け取る仕組みです。会社を譲渡して役員を退けば、受け取る要件に当たることになります。

ここで注意したいのは、譲渡しただけでは要件に当たらない場合があることです。株式を売っても役員として残っている場合、退任していないため受け取れないことがあります。

引き継ぎのために一定期間残る形を取る案件が多いため、この点は実務でよく論点になります。退任の時期と、共済を受け取る時期が連動します。

要件の詳細は制度の規定によります。加入先に確かめるか、税理士に確認してください。

受け取り方による違い

共済金の受け取り方には、一括で受け取る形と、分割で受け取る形があります。どちらを選ぶかで課税の扱いが変わります。

一括で受け取る場合は、退職所得として扱われる形があります。退職所得には控除の仕組みがあり、加入していた期間に応じて計算されます。

分割で受け取る場合は、公的年金等の雑所得として扱われる形があります。毎年の所得に加わるため、他の所得との合計で負担が決まります。

どちらが有利かは、その方の他の所得と年齢によって変わります。譲渡の代金や役員退職金が同じ年に入る場合、一括にすると所得が一年に集中します。

なお、受け取り方の選択には期限があります。退任してから手続きをするまでに、どちらにするかを決めておく必要があります。決める材料は、その年に入る他の所得です。譲渡の代金と役員退職金の入る時期が分かっていれば、比べられます。

役員退職金と重なったとき

会社から役員退職金を受け取り、同じ時期に共済金も一括で受け取ると、どちらも退職所得として扱われる形になります。

この場合、退職所得の控除はそれぞれに満額が使えるわけではありません。勤続期間や加入期間が重なっている部分について、調整する仕組みがあります。

調整の結果、想定していたより負担が大きくなることがあります。どちらをいつ受け取るかによって結果が変わるため、受け取る順番と時期を設計する価値があります。

この設計は制度の規定に沿って行う必要があり、一般的な説明では足りません。譲渡の検討の段階で、顧問税理士に両方の資料を見せてください。

譲渡の日程との関係

共済金を受け取る時期は、退任の時期で決まります。退任の時期は、買い手との交渉で決まる引き継ぎの期間に左右されます。

つまり、共済の受け取りを有利な時期にしたい場合、引き継ぎの期間を交渉の材料にできます。一か月の違いで年が変わるなら、交渉の余地があります。

ただし、引き継ぎの期間は買い手にとっても重要な条件です。税の都合だけで決めると、交渉が難しくなります。優先順位を決めておきます。

また、退任の手続き自体にも日数がかかります。株主総会の決議、登記の変更。手続きの日と実際に退く日がずれることがあります。

掛金の扱い

譲渡が決まってから退任までのあいだ、掛金を払い続けるかどうかという論点もあります。

掛金は所得から控除される仕組みがあるため、払い続けることに意味がある場合があります。一方、退任が近いのであれば影響は小さくなります。

また、掛金の額を変えることもできます。譲渡の年の所得が大きくなる見込みであれば、掛金の扱いも含めて税理士と相談する価値があります。

なお、加入期間が短い段階で解約すると、受け取る額が掛けた額を下回ることがあります。退任の時期を決める前に、加入期間を確かめてください。

手続きの順番

実務では、次の順で進みます。

まず、譲渡の条件を決める段階で、引き継ぎの期間と退任の時期を固めます。このとき共済の扱いも視野に入れます。

次に、退任の手続きを行います。株主総会の決議と登記の変更です。

そのあとで、共済金の請求を行います。請求には退任を証明する書類が必要で、登記が済んでいることが前提になることがあります。

請求から入金までにも日数がかかります。譲渡の代金と同時に入ると思っていると、資金の計画がずれます。

必要な書類と日数は加入先に確かめてください。譲渡の日程が決まった段階で問い合わせておくと、手続きがつながります。

手続きの窓口は加入先です。会社ではないので、譲渡の相手には頼れません。

相談のときに用意しておくもの

共済に加入している場合、譲渡の相談のときに次の資料があると見通しが出しやすくなります。

加入している期間が分かるもの。加入の証書や、毎年届く通知で確認できます。

いまの掛金の額と、これまでの掛金の総額。

役員に就任した日が分かる登記簿。役員退職金の計算と、期間の重なりの確認に使います。

過去に退職金を受け取っている場合は、その時期と金額。

資料が揃っていなくても、加入の有無をお聞かせいただければ、確認しておくべき点をお伝えできます。共済は手元に残る金額に関わるため、譲渡を決める前に見ておく価値があります。

なお、税務の扱いは制度の改正や個別の事情によって変わります。実際の申告にあたっては、必ず税理士にご確認ください。

よくあるご質問

A.役員を退任していることが必要になる場合があります。引き継ぎのために役員として残っている間は、要件に当たらないことがあります。加入先または税理士にご確認ください。
A.その方の他の所得と年齢によって変わります。譲渡の代金や役員退職金が同じ年に入る場合、一括にすると所得が一年に集中します。税理士に試算してもらってください。
A.期間が重なっている部分について調整する仕組みがあります。満額を二重に使えるわけではありません。受け取る順番と時期によって結果が変わるため、設計の余地があります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら