調査の結果、いくつかの指摘が来た。慌てて全部を直そうとしないでください。分類し、優先順位をつけるところから始まります。
まず、指摘を分類する
受け取った指摘を、4つに分けてください。
① 事実誤認。資料の読み違い、説明不足。説明すれば消えます。
② すぐ直せるもの。契約書の整備、届出の提出、名義の変更。
③ 時間はかかるが直せるもの。未払残業代の精算、株式の集約、許認可の取得。
④ 直せないもの。過去に起きた事実、係争中の案件、構造的な問題。
①から順に対応してください。①だけで、指摘の数が半分になることもあります。
事実誤認を先に消す
最も効率が良い作業です。
指摘の中には、資料が足りなかったために生じた誤解が含まれています。
「この取引の根拠が不明」——契約書を出せば解決します。
「この勘定の内容が不明」——内訳を出せば解決します。
対応の仕方は、指摘ごとに、根拠資料をつけて書面で回答すること。口頭で説明すると、記録に残りません。
そして、早く出してください。指摘が残っている間、買い手の社内では「リスクがある案件」として扱われます。
直せるものは、直してから交渉する
②と③の扱いです。
クロージング前に直せるなら、直してください。直した事実を示せば、指摘は消えます。
たとえば、許認可の届出漏れ。提出すれば終わります。
役員の登記が古い。更新すれば終わります。
賃貸借契約が無い。結べば終わります。
時間がかかるものは、「クロージングまでに完了させる」ことを条件にするという方法があります。契約のクロージング条件に入れる。
「直す予定です」ではなく「いつまでに、こう直します」と示してください。
直せないものは、契約で受け止める
④の扱いです。過去の事実は、直せません。
この場合、契約で処理します。
表明保証の例外として明示する。「ただし、別紙に記載した事項を除く」。開示したものは、補償の対象から外れるのが通常です。
特別補償を設ける。特定の論点について、結果にかかわらず売り手が負担する。
価格に反映させる。リスクの金額を見積もり、減額する。
エスクローを設定する。代金の一部を留保し、一定期間後に解放する。
どの方法を選ぶかで、売り手の負担が変わります。弁護士と検討してください。
金額に換算する
交渉の準備として重要です。各指摘が、いくらのリスクなのか。
未払残業代であれば、計算できます。対象者、期間、単価。
簿外の債務であれば、金額が確定しています。
係争であれば、請求額と、和解の見込み。
金額が出れば、価格の交渉ができます。「この指摘は◯円のリスクなので、その分を調整する」。
逆に、金額が読めない指摘は、買い手が大きめに見積もります。こちらから金額を示すほうが、減額幅を抑えられます。
優先順位をつける
すべてに同じ労力をかけないでください。
金額の大きいものから。価格に直結します。
買い手が繰り返し聞いてくるものから。相手が気にしている点です。
クロージングの条件になっているものから。満たさなければ取引が実行されません。
逆に、金額が小さく、契約で処理できるものは、無理に直さなくてよい場合があります。
「全部直してから」と考えると、時間がかかりすぎます。その間に、他の条件が変わります。
直す費用は誰が負担するか
実務的な論点です。指摘を直すのに費用がかかる場合。
未払残業代の精算、設備の修繕、システムの改修。
原則として、クロージング前に発生した費用は売り手の負担です。会社の資金から出せば、その分純資産が減り、価格に影響します。
ただし、買い手が引き継いだ後に行うほうが合理的な場合もあります。その場合は、費用相当額を価格から控除するという整理になります。
どちらにするかは、実務の都合と税務の扱いで決めてください。税理士にご確認ください。
報告書を読ませてもらう
実務で有効な工夫です。指摘事項の一覧を、書面でもらってください。
口頭で「いくつか懸念があります」と言われても、対応できません。
求めるのは、指摘の内容、根拠、想定される影響です。
報告書そのものは買い手の資料なので、全文を見せてもらえるとは限りません。ただし、指摘事項の部分は共有されるのが通常です。
そして、一つずつ回答を書いてください。表にして、指摘・回答・根拠資料・対応予定を並べる。
この表が、そのまま交渉の資料になります。
次の買い手にも同じ指摘が出る
最後に、視点を変えます。
この案件がまとまらなくても、指摘された内容は、次の買い手にも指摘されます。
したがって、直せるものは直しておく価値があります。
未払残業代を精算する、株式を集約する、契約書を整える、許認可を更新する。
これらは、次の交渉での減額要因を減らします。
「指摘されたから直す」ではなく「どの買い手にも指摘されるから直す」と考えてください。
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