最終契約を締結し、前提条件を満たすと、いよいよ決済(クロージング)の日を迎えます。譲渡対価が振り込まれ、株式と書類が引き渡される日であり、経営者様にとっては長い検討の締めくくりとなる一日です。実務としては淡々とした確認作業の連続ですが、段取りを知らないまま臨むと不安が大きくなります。本稿では、当日の流れを時間の経過に沿って整理します。クロージング全体の位置づけは「クロージングとは」もご参照ください。

決済日に行うこと|同時に行うのが原則

決済日に行うことは、大きく分けて次の三つです。

  • 前提条件が満たされていることを、双方で最終確認する
  • 買い手が譲渡対価を支払い、売り手が着金を確認する
  • 株式と、契約書に定められた書類を引き渡す

ここで重要なのが、支払と引渡しを同時に行うという原則です。売り手からすれば、書類だけ渡して入金がなされないのは困りますし、買い手からすれば、送金したのに書類が揃わないのは困ります。そこで実務では、双方が同じ場に立ち会い、着金の確認をもって書類を引き渡すという手順を踏みます。

なお、株式譲渡による対価は経営者様個人が受け取るものであり、会社に入るものではありません。売却代金の使途や、株式譲渡益にかかる税金(所得税・復興特別所得税・住民税の合計で20.315%)については、事前に税理士へご相談ください。税金の基本は「会社売却にかかる税金」で解説しています。

当日の時間割|なぜ午前に始めるのか

決済は午前中に開始するのが一般的です。理由は、金融機関の営業時間内に着金を確認する必要があるためです。大口の振込は反映までに時間を要することがあり、午後遅くに始めると、当日中に完了しないおそれがあります。

典型的な進行は次のとおりです。

時間帯行うこと
開始前関係者の集合。持参書類の確認。チェックリストの配付
前提条件の確認契約書に定めた条件が満たされていることを、双方で一項目ずつ確認する
書類の確認授受予定の書類を並べ、内容・押印・日付を突き合わせる
送金の実行買い手が振込を実行。振込控えの提示
着金の確認売り手が自身の口座で入金を確認する
書類の授受着金確認をもって、書類を相互に引き渡す。受領書に署名
登記手続の手配司法書士へ書類を引き渡し、役員変更登記等を依頼する
終了後今後の予定(従業員説明、取引先挨拶、事務の引継ぎ)を確認

所要時間は書類の量や当事者の人数によりますが、半日程度を見ておくと余裕を持って臨めます。当日の前後に予定を詰め込まないことをおすすめします。

入金と着金確認の実務

入金に関して、事前に決めておくべき点があります。

  • 受取口座:株主が複数いる場合は各人の口座。口座名義、支店名、口座番号を書面で共有し、当日の口頭確認だけに頼らない
  • 振込手数料の負担:契約書に定めるのが通常。差し引かれると入金額が端数で合わなくなるため、事前確認が必要
  • 振込限度額:金額が大きい場合、買い手側の口座やネットバンキングの限度額が問題になることがある。買い手が事前に金融機関と調整しておく
  • 着金確認の方法:ネットバンキングの画面、通帳記帳、金融機関への電話照会など。当日どの方法で確認するかを決めておく
  • 分割払いがある場合:当日支払う金額と、後日支払う金額・時期・条件を明確にしておく

着金確認は、必ず売り手自身が自分の口座で行ってください。振込控えは「送金の指示をした」ことを示すものであり、着金そのものの確認ではありません。金融機関やシステムの事情で反映が遅れることもありますので、待つ時間を織り込んでおきます。

また、決済日に仲介手数料の支払いが発生する場合があります。当社の場合は、基本合意時に成功報酬額の10%を中間金として申し受け、成約時に成功報酬から全額を差し引きます(基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません)。成功報酬は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額、最低2,000万円・税別)で算定し、ご契約前に総額の目安を書面でご提示しています。支払時期と方法は、あらかじめご確認ください。

書類の受け渡しと確認の順序

授受する書類は、契約書のクロージング条項に列挙されています。当日は、その一覧に沿って一項目ずつ確認していきます。

売り手から買い手へ渡すものの例

  • 譲渡承認に関する議事録の写し
  • 株主名簿、または名義書換後の株主名簿記載事項証明書
  • 株券(株券発行会社の場合)
  • 役員の辞任届
  • 会社の実印、銀行印、印鑑カード、登記事項証明書
  • 定款、許認可の証書、重要な契約書の原本
  • 通帳、カード類、鍵、システムの管理権限に関する情報

買い手から売り手へ渡すものの例

  • 買い手側の機関決定を示す書類の写し
  • 振込控えの写し
  • 受領書、確認書の類

会社の実印や通帳、システムの管理権限といった「会社を動かすもの」は、決済の完了をもって引き渡します。これらは事前に一覧化し、どこに何があるかを整理しておく必要があります。当日になって「印鑑が見つからない」となると進行が止まります。

なお、株主名簿の書換えは、譲渡の効力を会社に対して主張するために重要な手続です。当日または直後に確実に行ってください。手続の全体像は「株式譲渡の手続きと必要書類」で解説しています。

当日に起きやすいことと、その備え

  • 着金が遅れる:金融機関の処理状況によっては、確認まで時間がかかります。午前中の早い時間に送金してもらう段取りにしておきます
  • 書類の日付や押印の不備:辞任届の日付、議事録の押印漏れなどは当日に見つかりがちです。前日までに現物で最終確認しておきます
  • 印鑑証明書の期限:手続によって有効期間の扱いが異なります。司法書士の案内に沿って取得時期を調整します
  • 関係者の欠席:株主が複数いる場合、全員が当日出席できるとは限りません。代理での対応が可能かを事前に確認します
  • オンラインでの実施:遠隔地の場合、Web会議で進行し、書類は事前送付・当日発送で対応することがあります。原本の到着確認をいつ行うかを決めておきます
  • 感情面:会社の印鑑を手渡す瞬間に、こみ上げるものがあると話す経営者様は少なくありません。当日は無理に予定を詰めず、時間に余裕を持ってください

まとめ|当日は確認作業に徹する

決済日は、新たに何かを決める日ではありません。契約書に書かれたことを、一項目ずつ確認し、実行する日です。だからこそ、前日までに書類の現物を確認し、着金確認の方法と口座情報を共有し、引き渡す印鑑や通帳を一覧化しておくことが、当日の安心につながります。逆に、当日に新しい論点が出てくる状態であれば、日程を延ばしてでも整理してから臨むべきです。

当社プラチナパートナーズでは、決済当日のチェックリストの作成、進行、司法書士や金融機関との調整までを担い、経営者様が落ち着いて当日を迎えられる体制を整えます。クロージング後の従業員説明や取引先挨拶の段取りも含めてご支援しますので、まずは無料相談からご相談ください。

よくあるご質問

A.いけません。振込控えは「送金の指示をした」ことを示すものであり、着金そのものの確認ではありません。着金確認は必ず売り手ご自身が自分の口座で行い、それをもって書類を引き渡してください。支払と引渡しを同時に行うのが原則です。当日どの方法(ネットバンキングの画面、通帳記帳、金融機関への電話照会)で確認するかも、事前に決めておいてください。
A.受取口座(株主が複数なら各人の口座名義・支店名・口座番号を書面で共有し、当日の口頭確認だけに頼らない)、振込手数料の負担、買い手側の口座やネットバンキングの振込限度額、着金確認の方法、分割払いがある場合の当日支払額と後日の金額・時期・条件です。決済は金融機関の営業時間内に着金を確認する必要があるため、午前中に開始するのが一般的です。
A.辞任届の日付、議事録の押印漏れといった書類の不備は当日に見つかりがちですので、前日までに現物で最終確認してください。印鑑証明書は手続によって有効期間の扱いが異なりますので、司法書士の案内に沿って取得時期を調整します。株主が複数いる場合の代理対応の可否、遠隔地であればオンライン実施時に原本の到着確認をいつ行うかも決めておきます。当日は前後に予定を詰め込まないでください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら