路線バスの廃止や減便のニュースは、いまや珍しいものではなくなりました。その背後にあるのは、利用者の減少と、それ以上に深刻な運転者の不足です。この業界の現在地を、国土交通省が公表している資料に基づいて整理します。
数字で見るバス・旅客運送業界の現在地
国土交通省「地域公共交通の現状」(令和7年6月)によると、平成20年度から令和5年度にかけて、路線バスは約23,193km、鉄軌道は約632.9kmが廃止されました。これは代替・変更のない完全廃止を含む数字であり、地方部を中心に路線網が縮小し続けてきたことを示しています。
収支の面でも厳しい状況が続いています。国土交通省自動車局の発表資料をもとに作成された同省の資料では、保有車両30両以上の一般路線バス事業者のうち約7割の事業収支が赤字とされています(平成30年度、高速バス・定期観光バスを除く)。輸送人員も、三大都市圏以外では長期的に減少が続いてきました。
つまり、路線バスは「利用者が減り、収支が合わず、路線が減る」という循環のなかにあります。そこに加わったのが、運転者の確保という問題です。
運転者の確保がすべての制約になる
国土交通省の資料によれば、第二種大型自動車運転免許の保有者数は長期的に減少傾向にあり、約15年間で約20%減少したとされています(警察庁「運転免許統計」より国土交通省作成)。バスを運転できる資格を持つ人そのものが、社会全体で減っているということです。
また、令和6年4月からは、自動車の運転業務についても時間外労働の上限規制(年960時間)が適用されました(働き方改革関連法)。1人の運転者が担える運行量が制度的に制限されるため、同じダイヤを維持するにはより多くの運転者が必要になります。
将来の見通しも厳しいものです。国土交通省が資料に引用しているリクルートワークス研究所の労働需給シミュレーション(2023年)では、輸送・機械運転・運搬の分野で2030年に37.9万人(不足率9.3%)、2040年に99.8万人(不足率24.2%)の労働力が不足すると試算されています。全産業平均を大きく上回る不足率です。
運転者がいなければ、路線は維持できません。利用者がいても、車両があっても、乗務する人がいなければダイヤは組めない。バス事業の制約は、いまや需要側ではなく供給側にあります。
制度の動き|地域公共交通をめぐる枠組み
こうした状況を受けて、国土交通省は令和6年7月に「交通空白」解消本部を設置しました。全国の自治体において、タクシー・乗合タクシー・日本版ライドシェア・公共ライドシェア等を地域住民が利用できる状態を目指す「地域の足対策」と、主要駅・空港等での「観光の足対策」を柱としています。令和6年11月には官民連携プラットフォームの第1回会合が開催され、発足時点で計167者が参画しました。
また、地域公共交通の維持については、自治体と事業者が計画を策定し、国が支援する枠組みが整えられてきました。コミュニティバス、デマンド交通、AIオンデマンド交通といった手法も、この文脈で広がっています。
バス事業者から見れば、これらは路線の一部を別の形態に転換する選択肢でもあります。運行の受託という形で地域の足を担い続けるのか、路線を返上するのか。判断の材料として、自治体との協議の状況を把握しておくことが重要です。
経営環境の変化|貸切と乗合で異なる事情
ひとくちにバス事業といっても、乗合と貸切では事情が異なります。
| 区分 | 収益の性質と、いま置かれている状況 |
|---|---|
| 一般乗合(路線バス) | ダイヤに沿って定時運行する形態。地域の生活を支える一方、収支は厳しく、自治体からの補助に依存する路線も多い。前述のとおり事業者の多くが赤字。 |
| 高速乗合 | 都市間を結ぶ形態。需要の回復は見られるが、運転者の交替体制が必要で、労働時間規制の影響を強く受ける。 |
| 貸切バス | 団体旅行・送迎・イベント輸送など。訪日需要や国内旅行の回復が追い風となる一方、繁閑差が大きく、需要期に運転者を確保できるかが収益を左右する。 |
| 特定バス(送迎) | 企業・学校・施設の送迎を特定の需要者向けに行う形態。契約が続く限り売上が読めるストック性がある。 |
訪日外国人旅行者数は日本政府観光局(JNTO)の推計値で2025年に4,268万3,600人と過去最高を更新しており、貸切バスにとっては需要の追い風があります。しかし、その需要に応えるだけの運転者を確保できているかは、事業者ごとに大きく異なります。
事業承継の観点|路線・車両・運転者をどう引き継ぐか
帝国データバンクの2025年調査によれば、国内企業の後継者不在率は50.1%です。地域に根ざしたバス事業者の場合、事業の継続は地域の移動手段の存続そのものに直結します。だからこそ、早い段階で選択肢を整理しておく意味があります。
承継の検討にあたって整理しておきたい論点は次のとおりです。
- 許可の種別と営業区域——一般乗合・一般貸切・特定のいずれを保有しているか。株式譲渡なら法人が存続するため許可は一般に維持されますが、事業譲渡では譲受側の許可保有が前提となるのが通常です。
- 路線と補助金——自治体との協定、補助の内容と期間、路線ごとの収支。補助を受けている路線は、承継後の取り扱いを自治体と確認する必要があります。
- 車両——保有台数、車齢、大型・中型・小型の構成、リース残。バス車両は更新負担が大きく、車齢構成は買い手の投資計画を左右します。
- 運転者——在籍数、年齢構成、大型二種免許保有者数、直近の採用実績。運行管理者・整備管理者の選任状況も確認事項です。
- 営業所・車庫・整備工場——所有か賃借か、点検整備の体制を自社で持っているか。
- 労務管理——拘束時間・休息期間の管理、割増賃金の計算。改善基準告示への対応状況は、潜在的な債務として確認されます。
従業員への開示のタイミングについては、運行に直結する情報だけに慎重な設計が必要です。「会社売却を従業員にいつ・どう伝えるか」もあわせてご覧ください。許可の扱いは「M&Aで許認可はどうなるか」、後継者不在の場合の選択肢は「後継者不在の解決策としてのM&A」で整理しています。
まとめ|路線を守るための選択肢として
バス・旅客運送業は、路線の廃止が積み重なり、運転者の確保が事業の上限を決める局面に入っています。制度は地域の足を守る方向で整えられつつありますが、それを担う事業者の体力には限りがあります。
M&Aは、事業をたたむための手段ではなく、路線と雇用を残すための手段になり得ます。運転者が在籍し、路線が動いているうちであれば、引き継ぐ相手を探す余地があります。減便と路線返上が進んでからでは、その余地は狭まります。
当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、旅客運送事業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。許可や路線の整理から、守秘義務を徹底のうえ対応いたします。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。