自動車販売業は、新車、中古車、整備、保険、そして買取という複数の収益源を組み合わせて成り立っています。新車の供給が滞れば中古車の相場が動き、整備の制度が変われば設備投資が必要になる——それぞれが連動しているのがこの業界の特徴です。本稿では、公表統計で現在地を確認し、制度の動き、経営環境、そして事業承継の論点を整理します。

市場の現在地|新車と中古車の台数

日本自動車販売協会連合会(自販連)と全国軽自動車協会連合会(全軽自協)の公表によれば、2025年の新車販売台数(登録車と軽自動車の合計)は456万5,777台で、前年比3.3%の増加となり、2年ぶりに前年を上回りました。内訳は、登録車が289万8,417台(同1.2%増)、軽自動車が166万7,360台(同7.0%増)で、いずれも2年ぶりのプラスとされています。

中古車については、自販連と全軽自協の公表によれば、2025年の中古車登録・届出台数は648万7,868台で前年比0.2%の減少となり、3年ぶりのマイナスとされています。自販連がまとめた登録車の中古車登録台数は363万2,179台(同0.8%減)、うち小型乗用車は118万970台(同3%減)で過去最低とされています。

新車が増えて中古車が減ったという構図は、一見すると矛盾するようですが、中古車の供給は数年前の新車販売に規定されるため、時間差を伴って現れます。供給が絞られれば相場は高止まりし、仕入れの難易度が上がります。実際、取引相場は高値で推移しているとの報道が続いています。

販売額の外形としては、経済産業省「商業動態統計」で2025年の小売業販売額は157兆5,080億円(前年比1.4%増)、増加への寄与が大きい業種として医薬品・化粧品小売業に次いで機械器具小売業が挙げられています。

制度の動き|OBD検査と整備事業の認証

OBD検査(2024年10月1日から)

2024年10月1日から、車検の検査項目にOBD検査が追加されました。車載式故障診断装置から故障コードを読み取り、国が所管する情報システムと照合する仕組みで、対象は2021年10月以降の新型車(国産車)などとされ、輸入車については2025年10月以降とされています。

この制度は、整備事業者に対してスキャンツールの導入と、システムに接続するための事業者登録を求めるものです。設備投資と手続きの負担が生じる一方、対応できる事業者は車検を継続して受注できるという意味で、参入・継続の要件としての性格を持ちます。

特定整備(電子制御装置整備)の認証

先進運転支援システムを搭載した車両の普及に伴い、道路運送車両法に基づく分解整備は「特定整備」へと改められ、電子制御装置整備が認証の対象に加えられました。カメラやレーダーのエーミング(調整)を行うには、この認証と、作業に必要な場所・設備が求められます。

整備部門を持つ販売店にとって、この認証の有無は将来の受注能力に直結します。承継の局面では、認証の取得状況、作業場所の広さ、必要な機器の保有が確認事項になります。

OBD検査の対象車種、特定整備の認証要件、必要な設備・人員の基準は、車種や作業範囲によって異なります。詳細は国土交通省の公表資料および所管の運輸支局等にご確認ください。

経営環境|在庫、与信、そして人材

自動車販売業の貸借対照表は、車両在庫が大きな比重を占めます。中古車は一台ごとに状態が異なるため、評価は個別性が高く、相場が動けば含み損益も動きます。仕入れてから販売までの日数(在庫日数)の管理が、資金繰りと収益の両方を左右します。

与信の面では、自社割賦や提携ローンの取り扱いがある場合、その与信管理と回収の状況が確認されます。オートリースを行っている場合は、リース資産と残価の設定も論点になります。

人材面では、整備士の確保が全国的な課題です。有資格者の在籍状況、年齢構成、育成の仕組みは、整備部門の将来収益を判断する材料になります。

人件費については、厚生労働省の公表によれば令和7年度の地域別最低賃金は全国加重平均で1,121円(前年度から66円の引上げ)、令和8年度も目安どおりであれば1,176円になるとされています。

電動化への対応も、中期の論点です。高電圧を扱う車両の整備には相応の知識と設備が必要になり、対応の可否が受注できる車種の範囲を決めていきます。

事業承継の観点|自動車販売業で何が論点になるか

帝国データバンクの2025年調査では、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。自動車販売業は地域に根ざした事業者が多く、創業世代から二代目・三代目への承継期を迎えている例が目立ちます。

承継を検討する際に整理しておきたい点は次のとおりです。

  • 部門別(新車・中古車・整備・保険・買取)の売上と粗利
  • 車両在庫の一覧(仕入日、仕入額、現在の想定売価、在庫日数)
  • メーカー・輸入元との販売店契約の内容と、支配株主変更に関する条項の有無
  • 整備の認証・指定の状況(指定工場の場合は自動車検査員の在籍)
  • OBD検査への対応状況(スキャンツールの保有、事業者登録)
  • 整備士の人数・資格・年齢構成、採用の実績
  • 顧客名簿(車検・点検の入庫予定を含む)の整備状況

顧客基盤の説明のしかたについては「顧客基盤の価値をどう説明するか|取引先の集中度とストック性」もご参照ください。

とくに整備部門は、収益の安定性という観点から高く評価される領域です。車検・点検は周期性があり、顧客名簿が整っていれば将来の入庫が予測できます。この「読める売上」を数字で示せるかどうかが、交渉における重要な材料になります。

M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと

スキームの選択は、この業種でも重要です。株式譲渡であれば法人が存続するため、整備の認証や販売店契約は一般に維持されると考えられますが、認証事業者に関する届出や、メーカー側への説明が実務上必要になる場合があります。事業譲渡では、認証をあらためて取得することが前提になるのが通常です。

そのほか、一般に確認される事項を挙げます。

  • 店舗・工場の土地建物の権利関係(法人所有か経営者個人所有か)
  • 整備工場の設備(リフト、テスター、塗装ブース)の設置年と状態
  • 土壌・廃油・廃タイヤなど環境関連の管理状況
  • 保証・アフターサービスの引当と、過去のクレーム対応
  • 労務管理(整備部門の残業時間、割増賃金の計算方法)

土地建物が経営者個人の所有になっているケースは多く、譲渡後に売買とするか賃貸を継続するかで手取り額も税務も変わります。早い段階で方針を決めておくことをおすすめします。既存の関連記事「自動車販売店・中古車販売のM&A|在庫車両と顧客名簿の評価」もご参照ください。

まとめ|整備と顧客名簿が、安定性を語る

2025年の新車販売は456万5,777台で前年比3.3%増(自販連・全軽自協)、中古車登録・届出は648万7,868台で同0.2%減(同)。数字だけを見れば大きな変動には見えませんが、その内側では、OBD検査(2024年10月開始)や特定整備の認証といった制度が、事業者に投資と対応を求めています。

この環境で価値になるのは、販売台数よりも、整備と顧客名簿という「読める売上」の部分です。認証を持ち、整備士が在籍し、入庫の予定が管理されている——この状態は、引き継ぐ相手にとって何より安心できる材料になります。

設備投資の判断に迷っている、整備士の確保が難しい——そうしたご事情がある場合は、選択肢を並べて検討する価値があります。まずは現状の整理からご相談ください。

本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。制度・統計の解釈や個別の適用については、必ず所管官庁および専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.収益の安定性という観点では、整備部門が高く評価される領域です。車検・点検は周期性があり、顧客名簿が整っていれば将来の入庫が予測できます。この「読める売上」を数字で示せるかどうかが、交渉における重要な材料になります。部門別(新車・中古車・整備・保険・買取)の売上と粗利を分けたうえで、顧客名簿(車検・点検の入庫予定を含む)の整備状況、整備士の人数・資格・年齢構成、採用の実績を併せて示してください。
A.将来の受注能力に直結するため、必ず確認されます。2024年10月1日から車検の検査項目にOBD検査が追加され、対象は2021年10月以降の新型車(国産車)など、輸入車については2025年10月以降とされています。整備事業者にはスキャンツールの導入と、システムに接続するための事業者登録が求められます。また電子制御装置整備は特定整備の認証の対象で、カメラやレーダーのエーミングを行うには認証と作業場所・設備が必要です。対象車種や認証要件は国土交通省の公表資料および所管の運輸支局等にご確認ください。
A.早い段階で方針を決めておくことをおすすめします。土地建物が経営者個人の所有になっているケースは多く、譲渡後に売買とするか賃貸を継続するかで、手取り額も税務の取り扱いも変わります。売買とするなら価格の根拠を、賃貸を続けるなら賃料と契約期間を、交渉に入る前に整理しておくと話が早く進みます。整備工場の設備(リフト、テスター、塗装ブース)の設置年と状態もあわせてご確認ください。具体的な課税関係については税理士にご確認ください。
A.自動車販売業の貸借対照表は車両在庫が大きな比重を占め、中古車は一台ごとに状態が異なるため評価の個別性が高く、相場が動けば含み損益も動きます。仕入れてから販売までの日数(在庫日数)の管理が、資金繰りと収益の両方を左右しますので、車両在庫の一覧(仕入日、仕入額、現在の想定売価、在庫日数)を整えてください。自社割賦や提携ローンの取り扱いがある場合は与信管理と回収の状況、オートリースを行っている場合はリース資産と残価の設定も論点になります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら