ガソリンスタンド(サービスステーション、SS)は、燃料の供給という社会基盤を担いながら、事業者数の減少が長く続いてきた業種です。設備の維持には資金が要り、燃料の需要は構造的に細り、後継者は見つかりにくい——この三つが重なって、廃止の判断がやむを得ないケースも生じています。本稿では、公表統計で現在地を確認し、制度と経営環境、そして承継の選択肢を整理します。

業界の現在地|給油所数の長期的な減少

資源エネルギー庁は、毎年度の揮発油販売業者数および給油所数を公表しています。同庁の資料によれば、全国の給油所数は平成6年度(1994年度)末の60,421給油所をピークに減少傾向で推移しており、令和5年度末時点では27,414給油所とされています。約30年で半分以下になった計算です。

減少の背景には、複数の要因が重なっています。燃費の向上と保有台数の伸び悩みによる燃料需要の減少、設備更新の負担、経営者の高齢化と後継者の不在、そして人件費の上昇です。

資源エネルギー庁は、給油所が少ない自治体の課題を「SS過疎地」の問題として取り上げ、対策のハンドブックを公表するなど、地域の燃料供給網の維持に向けた取り組みを進めています。給油所は単なる小売店ではなく、災害時の燃料供給や、農業・建設の現場を支える基盤としての側面を持つためです。

この文脈は、事業承継を考えるうえでも重要です。1店舗の廃止が、地域の他の事業者や住民の生活に影響しうるという構造は、他の小売業にはあまり見られない特徴です。

経営環境|設備の重さと、需要の構造変化

地下タンクと設備の負担

給油所の経営で最も重いのが、設備の負担です。地下タンクは消防法に基づく規制の対象であり、腐食のおそれのあるタンクについては流出防止の措置が求められてきました。設備の更新や改修には相応の費用がかかり、この投資判断が事業継続の分かれ目になることがあります。

加えて、給油所の跡地は土壌の状況を確認する必要が生じる場合があり、廃止する場合にも費用が発生します。「続けるにも投資が要り、やめるにも費用が要る」——この構造が、判断を難しくしています。

燃料需要の変化

自動車の販売動向としては、日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会の公表によれば、2025年の新車販売台数は456万5,777台で前年比3.3%の増加でした。台数は回復していますが、車両の燃費性能は向上を続けており、走行距離あたりの燃料消費は減少する方向にあります。電動車の普及も、中長期では給油需要の減少要因になります。

一方で、EV充電設備の設置を検討する事業者も出ています。給油所は電源と敷地を持ち、幹線道路沿いの好立地にあることが多いため、充電拠点としての適性は一定程度あります。ただし、充電は給油に比べて滞在時間が長く、回転率が異なるため、収益モデルは同じではありません。

人件費

厚生労働省の公表によれば、令和7年度の地域別最低賃金は全国加重平均で1,121円となり、前年度から66円の引上げで、初めて全都道府県で1,000円を超えました。令和8年度も、目安どおりに改定されれば全国加重平均は1,176円になるとされています。セルフ化が進んだとはいえ、危険物取扱者の常駐など人に関する要件は残ります。

収益の多角化|給油だけでは支えきれない

燃料の粗利だけで店舗を維持するのが難しくなるなかで、多くの事業者が油外収益の拡大に取り組んでいます。代表的なものは次のとおりです。

  • 車検・整備(認証工場・指定工場)
  • 洗車・コーティング
  • タイヤ・バッテリー等の用品販売
  • 中古車の販売・買取
  • レンタカー・カーリース
  • 灯油の配送(地域によっては重要な収益源)

とくに整備部門は、周期性のある収益として評価されます。2024年10月1日からは車検の検査項目にOBD検査が追加され、対応にはスキャンツールの導入と事業者登録が必要とされています。この対応を済ませているかどうかは、整備部門の将来性を判断する材料になります。

油外収益の比率が高い事業者は、燃料需要の減少局面でも収益を保ちやすくなります。承継の局面では、この比率と、部門別の採算を説明できることが重要です。

事業承継の観点|給油所で何が論点になるか

帝国データバンクの2025年調査では、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。給油所を運営する事業者は家族経営が多く、設備の更新時期と経営者の引退時期が重なりやすいという事情があります。

承継を検討する際に整理しておきたい点は次のとおりです。

  • 危険物取扱者の在籍状況(乙種第4類等)と、有資格者の年齢構成
  • 消防法に基づく許可・届出の状況、地下タンクの設置年と改修履歴
  • 土地建物の権利関係(法人所有・経営者個人所有・賃借の別)
  • 元売・特約店との取引契約の内容と、更新条件
  • 部門別の売上と粗利(燃料・整備・洗車・用品・灯油配送など)
  • 掛売顧客(法人・農業・運送など)の一覧と債権の状況
  • 過去の土壌に関する調査の有無と、その結果

土壌に関する論点は「環境デューデリジェンス|土壌汚染・アスベストが問題になる場面」で詳しく解説しています。

とくに土地に関する情報は、この業種のM&Aで最も慎重に扱われる領域です。土壌の状況によっては、対策費用が価格交渉の中心になることもあります。逆に、調査を済ませて結果が明らかであれば、その不確実性を交渉から取り除けます。

M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと

給油所の譲渡では、スキームの選択が費用と手続きの両面に影響します。株式譲渡であれば法人が存続するため、消防法に基づく許可や元売との契約は一般に維持されると考えられますが、役員変更等に伴う届出や、元売側への説明が必要になる場合があります。事業譲渡では、譲受側があらためて許可を取得することが前提になるのが通常です。

そのほか、一般に確認される事項を挙げます。

  • 地下タンクの残存耐用年数と、更新に要する見込額
  • 計量機・キャノピー等の設備の状態
  • 掛売債権の年齢表と、回収に懸念のある先
  • 灯油配送を行っている場合の車両・タンクローリーの状況
  • 労務管理(深夜営業を行っている場合の割増賃金の計算)

買い手としては、同業(近隣の給油所運営事業者)のほか、整備・車検を主とする事業者、地域の運送・建設事業者などから関心が寄せられることがあります。適した相手先は立地と設備の状態によって異なりますので、初期段階では幅を持って検討することをおすすめします。詳しくは「ガソリンスタンドのM&A|設備・許可・土地の論点と売却の進め方」もご覧ください。

まとめ|廃止の前に、譲渡という選択肢がある

給油所数は、ピーク時の60,421給油所(平成6年度末)から27,414給油所(令和5年度末)へと減少しています(資源エネルギー庁)。この減少の一部は、後継者がいないまま設備の更新時期を迎え、廃止せざるを得なかった事業者によるものです。

しかし、廃止には撤去費用と土地の対応が伴います。同じ費用をかけるなら、その前に「引き継いでくれる相手がいないか」を確認する価値があります。地域の燃料供給網を維持したい買い手や、整備部門に関心を持つ買い手が存在することもあります。

設備の更新時期が近い、後継者がいない——そうした段階でこそ、選択肢を並べて考えることが有効です。当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、守秘義務を徹底して初期のご相談から承っています。

本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。制度・統計の解釈や個別の適用については、必ず所管官庁および専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.「続けるにも投資が要り、やめるにも費用が要る」のがこの業種の特徴です。地下タンクは消防法に基づく規制の対象であり、設備の更新や改修には相応の費用がかかります。一方、跡地は土壌の状況を確認する必要が生じる場合があり、廃止にも撤去費用と土地の対応が伴います。同じ費用をかけるのであれば、その前に引き継いでくれる相手がいないかを確認する価値があります。地下タンクの残存耐用年数と更新に要する見込額、部門別の採算を並べて比較してください。
A.土地に関する情報は、この業種のM&Aで最も慎重に扱われる領域です。土壌の状況によっては、対策費用が価格交渉の中心になることもあります。逆に、調査を済ませて結果が明らかであれば、その不確実性を交渉から取り除けます。過去の土壌に関する調査の有無とその結果、地下タンクの設置年と改修履歴、消防法に基づく許可・届出の状況を整理してください。調査の要否と範囲は個別性が高い領域ですので、専門家にご相談のうえ判断されることをおすすめします。
A.燃料の粗利だけで店舗を維持するのが難しくなるなかで、油外収益の比率が高い事業者は、燃料需要の減少局面でも収益を保ちやすくなります。とくに整備部門は、周期性のある収益として評価されます。2024年10月1日からは車検の検査項目にOBD検査が追加され、対応にはスキャンツールの導入と事業者登録が必要とされていますので、この対応を済ませているかどうかも整備部門の将来性を判断する材料になります。部門別(燃料・整備・洗車・用品・灯油配送など)の売上と粗利を説明できるようにしてください。
A.同業(近隣の給油所運営事業者)のほか、整備・車検を主とする事業者、地域の運送・建設事業者などから関心が寄せられることがあります。ただし、適した相手先は立地と設備の状態によって異なりますので、初期段階では幅を持って検討することをおすすめします。あわせて、元売・特約店との取引契約の内容と更新条件、土地建物の権利関係(法人所有・経営者個人所有・賃借の別)、掛売顧客の一覧と債権の状況を整理しておくと、相手の見極めが早くなります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら